福島原発事故で生じた放射性廃棄物のうち、宮城県内市町村が担う汚染廃棄物の処理を終了した量は2割に満たず、国が責任を持つ指定廃棄物は最終処分場の選定が棚上げされたままです。放射性廃棄物がテーマの市町村長会議は17年7月の第14回を最後に開かれておらず、処分場の建設は宙に浮いたままです。
それとは別に宮城県大崎地域の1市2町の農林業系汚染廃棄物の焼却事業で、各市町が事前に再測定したうち、少なくとも6・2トンから国の基準(1キログラム当たり8000ベクレル)を超える放射性物質を検出しました。各市町は焼却対象から除いて処理方法を改めて検討することにしています。
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宮城の汚染廃、処理2割に届かず 指定廃の処分場は依然棚上げ
河北新報 2021年04月09日
東京電力福島第1原発事故で生じた放射性廃棄物の処理が宮城県内で停滞している。市町村が担う汚染廃棄物の処理が終了した量は2割に満たず、国が責任を持つ指定廃棄物に至っては、最終処分場の選定が棚上げされたままだ。原発事故から10年が経過した本年度、県は2017年7月以来の議論を再開し、事態を打開したい考えだ。(布施谷吉一、喜田浩一)
国と県が17年7月に公表した汚染廃の推定保管量と、各市町村が21年3月末時点で把握する処理量を調べた。県内の推定保管量は3万6045トンで、処理量は19%の6743トンにとどまる。26市町村のうち15市町でいまだに処理が終わっていない。
指定廃の県内推計量は3413トン。最終処分場を1カ所設置する方針を掲げた国は14年1月、栗原、大和、加美の3市町を候補地に挙げたが、地元は猛反発した。
加美町は国の現地調査も拒否して膠着(こうちゃく)状態に陥り、村井嘉浩知事は16年3月、現地調査の自粛を国に要請。候補地の返上を含めて再検討するという、事実上の白紙撤回に追い込まれた。
放射性廃棄物がテーマの市町村長会議は17年7月の第14回を最後に開かれておらず、処分場の建設は宙に浮いたままだ。
東日本大震災から10年を前に、村井知事は3月8日の定例記者会見で「県内の廃棄物は県民に大きく関わる問題。強く関与していく」と強調した。協議再開に向け、国や市町村と調整する意欲を示している。
[放射性廃棄物]放射性物質汚染対処特別措置法に基づき、1キログラム当たり8000ベクレルを基準に区別されている。8000ベクレル以下の汚染廃は一般ごみと同様の処理が可能とされ、市町村が担当する。8000ベクレルを超える指定廃は国が長期管理する。特措法の基本方針では、指定廃は発生した都道府県内で処理する。
1000トン以上の8市町で遅れ顕著 住民の反対根強く
宮城県内の汚染廃棄物の推定保管量と処理量(表=コピーできないため不添付)を見ると、26市町村のうち、処理完了が11市町村、処理中が10市町、本格処理に至っていないのが5市町となっている。1000トン以上を抱える8市町で、処理の遅れが目立つ。
汚染廃の処理方法は(1)焼却(白石市)(2)すき込みなど農林地還元(登米、栗原、加美など13市町)(3)焼却と農林地還元の併用(角田、大崎、蔵王、丸森など12市町村)-に分かれる。
遅れている市町は一般ごみとの混焼や農地へのすき込み、堆肥化などを計画しており、周辺環境への影響を懸念する住民の反対が根強い。
県内で保管量が最も多い加美町は、汚染牧草4094トンのうち400ベクレル以下の1153トンを町有地にすき込む予定。17年度に3カ所で実証試験を行い、19年度の本格実施を目指したが、住民説明会で反対が相次ぎ、着手できていない。
町民から焼却を求める声も上がるが、猪股洋文町長は「すき込みを不退転の決意で進める」と譲らない。
栗原市は独自の堆肥化施設を整備する方針だが、建設計画が浮上した栗駒地区では「水源地や観光地に近い場所に造るな」と反対運動が起きた。25日投開票の市長選が迫り、身動きが取れない状況だ。
県南部では19年5月に焼却が始まったが、同10月の台風19号豪雨で大きな被害を受け、災害ごみの処理を優先。ごみ処理に共同で取り組む仙南2市7町の枠組みで本年度、汚染廃の焼却が再開される見通し。
原発事故から10年が過ぎてなお、一時保管されている指定廃棄物は、さらに先行きが不透明となっている。県内のある首長は「処理を進めるにしても、住民への説明に時間がかかる。市町村の負担が大きすぎる」と指摘。問題解決に向け、県が主導するよう求める。
大崎の汚染廃6.2トン、基準値超す 焼却対象から除く
河北新報 2021年04月08日
宮城県大崎地域の1市2町が東京電力福島第1原発事故によって発生した農林業系汚染廃棄物を焼却する事業で、各市町が事前に再測定したうち、少なくとも6・2トンから国の基準(1キログラム当たり8000ベクレル)を超える放射性物質を検出したことが7日、分かった。汚染濃度に偏りがあるためで、各市町は焼却対象から除いて処理方法を改めて検討する。
大崎市は昨年7月、汚染牧草や稲わら約2900トンを7年間で焼く事業を開始。445トンについてロールごとに再測定し、0・8トンが基準値を超えた。
同市に続いて焼却を始めた美里町は今年2月までに50トンを測り、5・4トンから最高で1キログラム1万3000ベクレルを検出した。涌谷町は80トンを測定し、一部が基準を超えたという。
2012年施行の放射性物質汚染対処特別措置法は、基準値を超えた指定廃棄物を国の責任で処理する一方、基準値以下の廃棄物は地方自治体が一般廃棄物と同じ扱いで焼却などの処理をするよう定めた。
環境省のガイドラインによると、稲わらや牧草を積んだ山から10カ所以上のサンプルを採って混ぜた上で測定した汚染濃度を、全体の代表値として扱いを決める。大崎地域の焼却対象の汚染廃は当初、ガイドラインに基づいて測定し、基準値以下とされていた。
同省によると、いったん焼却対象となった廃棄物に汚染濃度の偏りがあっても、家庭ごみなどと混ぜて焼く割合を調整すれば問題ないという。
大崎市の高橋勝環境保全課長は「事前の住民説明会では基準を超えた廃棄物は焼却しないと約束してきた。市内では焼却事業の公金支出に関する住民訴訟が続いており、法律より慎重な対応が必要だった」と説明する。
県放射性物質汚染廃棄物対策室の担当者は「基準値を超えた廃棄物は燃やさない大崎市などの判断を尊重する。当面保管を続けてもらうしかない」と話す。