福島第1原発事故を独自に検証してきた新潟県の有識者委員会「技術委員会」が26日、報告書を花角英世・新潟県知事に提出しました。
技術委は柏崎刈羽原発の安全性向上に向け県が設置したもので、ほかに「健康と生活への影響」と「安全な避難方法」の2委員会があります。そしてこれら3つの検証委員会を束ねる「総括委員会」が別にあり、各委員会の検証結果を受けて1つの最終報告書にまとめることになっています。
花角知事は報告書が出そろった段階で、柏崎刈羽原発の再稼働可否の本格検討に入るとしています。
原子力工学や活断層の専門家などでつくる「技術委員会」は、原発事故の翌年から事故の原因などについて独自に検証を進めていて、274ページに上る報告書では、安全上重要な機器の損傷原因や、東京電力が事故後2か月にわたって炉心溶融、いわゆるメルトダウンという言葉を使わず隠蔽していた問題*など10項目の検証結果が記され、133項目の教訓にまとめています(*東電がメルトダウンの表現を2か月間行わなかったことと、それが東電の社長の指示によっていたことを明らかにしました)。
技術委員会の座長を務めた京都大学の中島健教授は「事故のシナリオについて多様な可能性を否定せずに、教訓を引き出そうとしたというのが技術委員会の一番大きい特徴だ」と述べ、今後新しい知見が出てくれば当然もう1回、議論をせざるを得ないと述べました。
花角知事は「これでいったん福島の事故の技術検証については区切りをつけていただいて、引き続き本来のミッションでお願いしている柏崎刈羽原発の安全性を確認する議論をお願いしたい」と述べました。NHKが伝えました。
共同通信は短い記事ですが、「福島事故 東電は責務果たさず ~ 」という厳しいタイトルで伝えました。
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新潟県技術委が原発事故検証の報告書
NHK 新潟 NEWS WEB 2020年10月26日
東京電力福島第一原子力発電所の事故原因を独自に検証してきた新潟県の委員会が報告書をまとめ、26日、花角知事に提出しました。
報告書には、津波の到達時刻や水素爆発の詳しい原因などで政府や国会などの調査にはなかった視点も盛り込まれ「多様な可能性を検討しておくことは今後の『想定外』事象への対応に有用だ」としています。
新潟県では、原子力工学や活断層の専門家などでつくる「技術委員会」が原発事故の翌年から事故の原因などについて独自に検証を進めていて、26日、委員会の座長が花角知事に報告書を手渡しました。
274ページに上る報告書では、安全上重要な機器の損傷原因や、東京電力が事故後2か月にわたって炉心溶融、いわゆるメルトダウンという言葉を使わず隠蔽していた問題など10項目の検証結果が記されています。
その1つが、1号機で交流電源が失われた原因についてです。
国や政府、東京電力の調査では津波が原因だったとされていますが、技術委員会では、委員が示したシミュレーション結果から、津波がタービン建屋に到達した時刻は非常用の交流電源が失われた時刻よりもあとだった可能性も指摘され「津波以外の要因で電源喪失した可能性を否定することはできない」としています。
また、1号機の水素爆発の原因についても新たな仮説が提示され、この中では、原子炉圧力容器の「ふた」を固定するボルトが高熱で緩み、隙間から水素ガスが噴出して格納容器の外にも漏れ爆発につながった可能性があるとしています。
これに対し東京電力は、水素ガスは圧力容器の底の計器類がある場所など複数の場所から漏れた可能性が高いとしていますが、委員の仮説について「否定はできない」としています。
このほか、1号機の原子炉を冷やす非常用復水器への地震による影響なども指摘されました。
事故から9年半がたってもなお内部の調査が困難なため、原因を突き止めるのは難しい状況ですが、報告書では「技術的に発生の可能性が低いと考えられる事象についても多様な可能性を検討しておくことは今後の『想定外』事象への対応に有用だ」としています。
技術委員会では、こうした検証の結果を133項目の教訓にまとめていて、今後、再稼働を目指す柏崎刈羽原発の安全対策に生かされているか検証することにしています。
技術委員会の座長を務めた京都大学の中島健教授は「事故のシナリオについて多様な可能性を否定せずに、教訓を引き出そうとしたというのが技術委員会の一番大きい特徴だ。検証はひと区切りとなるが、今後、新しい知見が出てくれば当然もう1回、議論をせざるを得ないと思います」と述べました。
そのうえで、柏崎刈羽原発の安全対策の検証については「いつまでにまとめるかのスケジュール感はないが、どこまで深掘りするか各委員の問題意識によると思う」と述べ、今後は、柏崎刈羽原発の安全対策の検証に力を入れていくとしています。
報告書を受け取った新潟県の花角知事は「これでいったん福島の事故の検証については区切りをつけていただいて、引き続き本来のミッションでお願いしている柏崎刈羽原発の安全性を確認する議論をお願いしたい」と述べました。
報告書の提出を受けて、東京電力は「事故の検証では、さまざまな視点で議論していただき、その1つ1つが私たちの教訓だと感じています。その教訓をしっかりと柏崎刈羽原子力発電所の安全対策に反映させていきたい」とコメントしました。
新潟県の3つの検証委員会は、今回、報告書をまとめた「技術委員会」のほか、避難計画の実効性を検証する「避難委員会」、避難者の生活の実態を調べる「健康・生活検証委員会」があります。
このうち技術委員会は、平成14年の東京電力のトラブル隠しがきっかけで柏崎刈羽原発の安全対策をチェックするために発足しました。
その後、福島第一原発の事故を受けて、平成24年からは事故の原因について独自に検証を行ってきました。
一方、「避難委員会」と「健康・生活検証委員会」は、米山前知事の時代に設置されたもので、平成29年から検証作業が続けられています。
また、これら3つの検証委員会を束ねる「総括委員会」もあり、各委員会の検証結果を受けて1つの最終報告書にまとめることにしています。
新潟県の花角知事は、3つの検証委員会の検証作業が終わるまでは柏崎刈羽原発の再稼動に関する議論は始められないとしていますが、今回はこのうち1つの報告書がまとまったことになります。
技術委員会の検証による最大の成果は、東京電力の事故当時の社長が「メルトダウン」という言葉の使用を控えるよう社内で指示していた、いわゆる「メルトダウン隠し」の事実を明るみに出したことでした。
「技術委員会」では、平成25年から、東京電力が事故の重大さを表す「メルトダウン」という表現をなぜ事故後2か月間も使わなかったのか追及してきました。
東京電力は、最初は、メルトダウンと判断する根拠がなかったなどという説明を繰り返していました。
しかし、その後、内部調査の過程で、核燃料がある炉心の損傷割合が5%を超えていればメルトダウンと判定すると明記した社内マニュアルが見つかったと平成28年に公表します。
マニュアルに従えば、事故の3日後に「メルトダウン」の発生が判断できたことになり、技術委員会はさらに、東京電力に対して公表が遅れた原因を調査するよう求めました。
この指摘を受けて、東京電力は第三者委員会を設置して結果をまとめ、同じ年に事故当時の社長の指示による隠ぺいだったと認めました。
技術委員会の指摘がきっかけで事故に関する重要な情報が伝えられなかったことが明らかになり、報告書では、今後の原発の安全対策に生かす事故の教訓や課題の1つとしてまとめられています。
福島事故「東電は責務果たさず」 柏崎抱える新潟県の技術委報告書
共同通信 2020/10/26
東京電力福島第1原発事故を独自に検証してきた新潟県の有識者委員会「技術委員会」が26日、報告書を花角英世知事に提出した。事故後の東電の対応に関し「国との調整を優先し、事故の重大性を住民に伝える責務を果たさなかった」とし、情報発信が十分ではなかったと指摘した。
技術委は東電柏崎刈羽原発(新潟県)の安全性向上に向け県が設置し、原発技術面がテーマ。ほかに「健康と生活への影響」と「安全な避難方法」の2委員会があり、それぞれ福島原発事故を検証しているが、報告書提出は今回が初めて。花角氏は報告書が出そろった段階で、柏崎刈羽原発の再稼働可否の本格検討に入るとしている。