2020年10月9日金曜日

<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(10~12)(東京新聞)

  東京新聞のシリーズ<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>の(10)~(12)を紹介します。

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<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(10)
忘れられたプール対応
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 地上約三十メートルの建屋上部にあるプール。まだ熱を発し続ける多数の使用済み核燃料があり、冷却が途切れて水温は上昇。湯気が上がり始めていた。特に東京電力福島第一原発(イチエフ)4号機には、定期点検で取り出して間もない熱い五百四十八体を含め千五百三十五体の使用済み核燃料があった。
 暴走する原子炉への対応に追われ、プールのリスクは忘れられがちだった。東電のテレビ会議を見ても、何度も話題には上りながら、原子炉の急報が入ってプールのことは後回しになっていた。

 実質的な対応が始まったのは、事故発生五日後の三月十六日だった。自衛隊ヘリが海水を投下し、高圧放水車が地上から放水した。しかし、当時の吉田昌郎(まさお)所長(故人)は「セミの小便みたい」と評した。水量が少なすぎた。
 危機を救ったのは、折り畳み式の長いアームをもつコンクリート圧送車。筒先をプール直上に向け連続注水が可能となった。「これはいい」と吉田所長は喜び、次々と圧送車が投入されていった。
 この方式を提案し、導入に奔走したのは、ドイツの圧送車製造会社の日本法人社長だった出口秀夫さん。「原子炉の注水にはもっとすごい装備が出てくると思っていたよ。でもヘリや放水車とか。こりゃだめだと。あきらめず提案し続けてよかった


<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(11
高線量 過酷な収束作業
                          東京新聞 2020年10月6日
 東京電力福島第一原発(イチエフ)では1、3号機原子炉建屋の水素爆発により、所内のいたるところに高線量のコンクリートのがれきや金属片などが転がっていた。
 作業員向けに作製された二〇一一年当時のサーベイマップを見ると、各所に高線量の地点や危険な地点が記され、非常に過酷な現場だったことがよく分かる。
 1〜4号機周りの山側敷地では、三月下旬で毎時三〜一三〇ミリシーベルトあり、放射性ヨウ素など大幅に減った六月でも〇・七〜五〇ミリシーベルトあった。近づくのも危険な一〇〇ミリシーベルト超の放射線を発するがれきが、あちこちに転がっていた。

 七月に現場に入った重機オペレーターの男性は「高線量がれきには赤のペンキで『×100(一〇〇ミリシーベルト)』『×200』などと書かれていた。重機で取り切れないがれきをやべぇなぁと思いながら、手作業で片付けた」と語る。
 建屋地下に大量にたまった超高濃度汚染水の移送が始まると、汚染水が流れる配管も放射線源となった。上に鉛マットを敷いて線量を下げ、作業員らは走って通り抜けた。
 七月末になると、格納容器の破裂を防ぐベント(排気)で使った1、2号機の排気筒の根元付近の配管で一万ミリシーベルト超が測定された。膨大な放射性物質がたまっており、十年近くたった現在も事故収束作業を妨げている


<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(12
愛称で呼ばれた特殊車両
                       東京新聞 2020年10月7日
 東京電力福島第一原発(イチエフ)事故の発生当初、さまざまな特殊車両が事故収束作業の最前線で活躍した。その多くは、作業員から動物の愛称で呼ばれていた。
 代表的なのが、原子炉建屋の最上階にあり、冷却機能を失った使用済み核燃料プールへの注水に使ったコンクリート圧送車。折り畳んだアームを伸ばすと優に五十メートルを超え、楽々とプールに直接水を落とせた。その実力に、作業員は「キリン」と呼び始めた。次々と投入される圧送車に「大キリン」「ゾウさん」「シマウマ」「マンモス」の名前が付けられた。「ゾウさん1号」は現在も万が一の事態に備えて整備が続けられ、敷地内で待機している。

 このほか、建屋やのり面に付着した放射性物質が飛び散らないよう、粘着性のある緑色の薬剤を放水銃からまいた重機は「かたつむり」と呼ばれた。小型の米国製ブルドーザーは汚染された重いがれきの撤去などに活躍し、「ボブキャット」と呼ばれた。
 原子炉格納容器内の調査で使うロボットにも、その姿から「サソリ」などの愛称がつけられた。長年原発で働く作業員は「他にも太郎とか小太郎とかね。次々壊れるから、名前をつけるのも大変」と笑う。厳しい環境下でも、現場には冗談や笑い声が飛び交う。「そりゃ過酷な作業もあるけど、みんな明るいよ」
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