2020年10月11日日曜日

11- <ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(13~15)最終回

 東京新聞のシリーズ<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>の(13)~(15)を紹介します。このシリーズは今回で終了です。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(13
2カ月劣悪な寝食環境
                           東京新聞 2020年10月8日
 被ばくのリスクと闘い、暴走する東京電力福島第一原発(イチエフ)に立ち向かった作業員たちの環境は、特に二〇一一年三〜四月の二カ月は劣悪な状況にあった。
 食事は一日二回。内容も朝食は非常用ビスケットや野菜ジュース、夕飯はパックご飯とサバなどの缶詰だけ。一日に使える水は、飲料用や体を拭く分も合わせて、ペットボトルの一・五リットルだけだった。寝る場所も免震重要棟の会議室や廊下で、毛布も足りなかった。作業員らは二十四時間体制で危機対応をする合間に仮眠を取った
 「みんなひげが伸び、着の身着のままで汚れて汗臭く、疲れ切っていた。野戦病院のようだった」。東電社員の一人はこう振り返った。汚染がつかないように同僚とバリカンで髪を刈り合い、げっそり頬がこけた作業員らもいた。

 作業員らの窮状は、保安検査官事務所の横田一磨検査官が三月二十八日の会見で明かしたことで広く知られることとなった。
 ようやく寝食の環境が整えられ始め、十キロほど南の福島第二原発の体育館に畳が敷き詰められ、マットレスや寝袋で眠れるようになった。免震重要棟などにも給水設備やクーラーを備えた休憩室が設けられ始めた。五月に入って、加熱キット付きのレトルトカレーや中華丼などが提供されるようになった。


<ふくしまの10年・イチエフあの時 事故発生当初編>(14
当初から不足汚染水タンク
                          東京新聞 2020年10月9日
 原子炉の暴走はほぼ収まったが、東京電力福島第一原発(イチエフ)の現場は高濃度汚染水の対応に追われた。
 注水された水は、溶け落ちた核燃料に触れて汚染水となり、炉の損傷部から建屋地下へ漏出。日々の注水で汚染水は増え続け、建屋地下が満杯になると注水できなくなる。
 そこで作られたのが一周五キロに及ぶ循環式の冷却システム。いったん近くの建屋地下に汚染水を一時貯蔵。放射性セシウムの除去装置に通し、一部は冷却水に再利用し、残りはタンクに貯蔵する。
 「循環冷却が稼働すれば、現在四メートルほどある汚染水の水位は、秋ごろには数十センチまで下がる」。汚染水処理が始まった二〇一一年六月、会見で東電幹部はこう強調した。
 しかし、当ては外れた。1〜4号機の建屋地下には配管などの貫通部から大量の地下水が流入し、損傷した屋根から雨水も注ぎ込む。たちまち当初用意した円筒形と箱型のタンクでは足りなくなった
 汚染水を一時貯蔵する建屋の防水工事などを担当したベテラン作業員のハッピーさん(通称)は「暗闇や高線量、地下で酸欠に気をつけながらの作業だった。各建屋の水があふれるリミットが時限爆弾のように日々設定され、心身ともに限界を超えた闘いだった」と振り返った。そして敷地内の木は伐採され、タンク用地へと変貌していった。


<ふくしまの10年 イチエフあの時 事故発生当初編>15)(最終回)
仮設の限界すぐに露呈
                                                    東京新聞 2020年10月10日
 一刻も早く原子炉の暴走を止め、湯気の上がる使用済み核燃料プールの冷却を再開させる―。それが東京電力福島第一原発(イチエフ)の現場の最優先事項だった。
 1~4号機の建屋内や周辺には、応急的な処置をするため大量の電気設備やポンプ、ホース、ケーブルが運び込まれた。床には汚染水を移送するホースが足の踏み場もないほど置かれ、建屋脇のトラックの荷台に載せられた仮設の分電盤からは、太いケーブルが何本も各所へ伸びていた。場所によっては、電源ケーブルとホースが混在していた。
 ベテラン作業員のハッピーさん(通称)は、仮設の設備に早くから懸念を抱いていた。
 「行き当たりばったりの突貫工事の仮設で、タンクも配管設備も『一年もてばいい』と言われて、設置を急がされた。ほとんどがメンテナンスも考えられていない。このままだと、近いうちに仮設の配管やタンクから必ず水漏れが起きると予測していた」
 大震災に端を発した原発事故で大半の機器が使い物にならなくなった。それらを短期間で復活させただけに仕方ない面はある。だが「もっと早く長く使えるものに換えるべきだった」とハッピーさん。その言葉通り、仮設の限界は事故発生の年から見え始め、現場はトラブル対応に追われることになる。 =おわり (片山夏子、山川剛史が担当しました)