核燃料サイクルに経済的なメリットがないことは既に明らかにされています。それなのに国は今後14兆円の運転経費がかかるプルサーマル発電用のMOX核燃料の製造を予定しています。
この種の予算の算定は過少に行うのが通例で、以前には20数兆円という見通しも非公式ながら公表されています。これだけの巨額の無駄を何故止めないのでしょうか。
信濃毎日新聞が「核燃料サイクル 巨費を投じ続ける愚策」との社説を出しました。
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核燃料サイクル 巨費を投じ続ける愚策
信濃毎日新聞 2020年10月08日
日本原燃が青森県六ケ所村に建設するプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料工場の安全対策が、原子力規制委員会の審査に事実上合格した。
原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、燃料として繰り返し使う国策「核燃料サイクル」の施設だ。
中核施設である再処理工場の審査は7月に合格しており、今回の工場は、その次の工程を担う。再処理で作ったMOX粉末を、一般の原発で使う「プルサーマル発電」向けの燃料に加工する。
福島第1原発事故後の再稼働低迷などで、プルサーマルを行う原発は現在4基にとどまる。工場ができれば、使う当てのない燃料が生み出されることになる。
プルトニウムは核兵器の原料にも転用できる。日本は既に国内外に約46トン保有する。核兵器6千〜8千発分に相当し、大量保有が国際的にも懸念されている。
規制委の審査は、地震や津波など自然災害への安全性といった技術的側面を検討しただけだ。このままでは、施設が本当に必要かという社会的な議論もなく、巨額の投資が実行されていく。
事実上合格した燃料工場は、建設費が当初予定の1200億円から3900億円に増えた。2022年度上半期の完成を目指しており、操業費などを含む総事業費は2兆3400億円に上る。
再処理工場にかかる費用はさらに巨額で、総事業費は14兆円近くに上る見通しとなっている。
これらの原資は、国民が支払う電気料金である。電力会社は、発送電など全ての費用を原価とし、そこに利益を上乗せする総括原価方式で料金を決めている。
電力自由化に伴って原発を保有する大手電力の地域独占は崩れたが、総括原価方式は残っている。存在意義を失った政策に費やされる膨大な国民負担を、見過ごすことはできない。
そもそもMOX燃料は、トラブル続きで廃炉が決まった高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)で主に使う計画だった。プルサーマルは、別に設定された付随的な使い道でしかなかった。
核サイクルが既に破綻しているのは明白である。政府は、政策の抜本的な見直しに早急に取り掛からねばならない。
安倍晋三前政権は、最後まで核サイクルの破綻から目をそらし続けた。菅義偉政権もまだ明確なメッセージを発していない。いつまで虚構にすがり続けるのか。撤退はこれ以上先送りができない。