政府は、福島第1原発から連続的に発生しているトリチウム汚染水を海洋放出することを、月内に「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」で決める方針です。
これは政府が当初から決めていたことであると、元経産省官僚の古賀茂明氏が早くから明らかにしていました。
政府はその準備として、これまでは秘密されてきた原発からトリチウムが海洋に放流されている事実や、トリチウムの放射線が弱いことなどを宣伝してきました。
しかし福島原発のタンク内のトリチウム汚染水濃度は1リットル当たり平均73万ベクレルで、それが既に123万トンもたまっているわけなので、決して大した問題ではないというようなことではありません。
トリチウムが他の放射性物質と根本的に違うのは、水と化学的に区別できないので除去する方法がないことと、同じ理由で人体に取り込まれると細胞内のDNAの構成素材にも使われることで、そうなるとDNAは致命的に破壊されます。
また原発と異なるのは、原発からのトリチウムは原発を停止(廃炉)すれば発生が止まりますが、福島のケースでは燃料デブリを取り出さない限り半永久的に発生することです(英国のシンクタンクは、ウランは次第に枯渇し20年代には価格が暴騰するため、原発の運転が困難になると13年に予測しています。 ⇒ 13.7.13 原発をなくす湯沢の会ブログ記事 2020年代、高騰する核燃料で世界中の原発が崩壊)
問題の根源は、トリチウム汚染水が連日150トン以上/日も発生していることにあります。この問題を根本的に解決するには、この際不完全で機能を果たしていない凍土遮水壁をコンクリート製などの完全なものに作り直して、汚水の発生量を限りなくゼロに近づける必要があります。この方向に向かうべきで安易な海洋放流は認められません。
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福島第1汚染水海洋放出 断じて認められない 田村政策委員長が会見
しんぶん赤旗 2020年10月17日
日本共産党の田村智子政策委員長は16日、国会内で記者会見し、政府が東京電力福島第1原発から出る放射性物質を含む処理水を海洋放出する方向で調整している問題について問われ、「海洋放出を断じて認めるわけにはいかない」と述べました。
田村氏は、海洋放出に対し、全国漁業協同組合連合会(全漁連)や漁業者が、風評被害も含めて立ち直ってきた産業に大きなダメージを与えると反対を表明してきたと指摘。これまで42自治体が「反対」や「慎重」対応などの意見書を採択したことに触れ、「一方的に、月内に海洋放出をすすめることは認められない」と表明しました。
福島第1汚染水 懸念無視し海洋放出へ 菅政権の姿勢に反発の声
しんぶん赤旗 2020年10月17日
政府が、東京電力福島第1原発事故で発生する放射能汚染水を処理した後にタンクにためている高濃度のトリチウム(3重水素)汚染水を、薄めて海に放出する方針を固めたことが16日、分かりました。「廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議」(議長=加藤勝信官房長官)を月内にも開催して決定するとみられます。水産業・観光業などへの風評被害を心配する声が高まるなか、こうした声に向き合わない菅政権の強硬な姿勢に国民から反発の声があがっています。
方針が正式に決定すれば、東電が具体的な計画を策定し、原子力規制委員会による審査を経て、準備工事などを実施します。政府は実際に放出作業を開始するまでに2年程度かかるとしています。
同原発のタンク群には、処理が未完了の汚染水を含めて123万トン以上たまっており、現行のタンク計画(約137万トン)では2022年秋ごろ満杯になる見込み。政府は、タンク増設・保管継続を求める声に背を向け、処分方法の決定を急いできました。
この問題をめぐっては、全国漁業協同組合連合会が15、16両日、海洋放出は「わが国漁業に壊滅的な影響」を与えるとして、政府に「慎重な判断」を要請。福島県内の自治体、農林水産業や観光業、消費者団体、環境・市民団体などは、環境放出への反対や懸念、コロナ禍で国民的議論が進まない状況で拙速な判断をしないよう求める声をあげています。
相馬市の仲卸業者(36)は「海に流すか流さないかの二択だけで、別の選択肢が考えられていないのではないか。今後、魚が売れなくなってしまうことが心配だ」と話しました。
トリチウム汚染水(アルプス処理水) 原発事故で増え続ける高濃度の放射能汚染水を多核種除去設備(アルプス)で処理した後に残る、放射性物質トリチウムを含む水。アルプスは、セシウムやストロンチウムなど62種類の放射性物質の濃度を国の放出基準未満に低減できるとされますが、トリチウムを取り除くことはできません。
同原発のタンク内のトリチウム汚染水濃度は1リットル当たり数十万~数百万ベクレル。平均濃度(同73万ベクレル)は、敷地内の地下水をくみ上げて海に放出する際の基準(同1500ベクレル)の約500倍です。
「時期尚早だ」「仕事にならない」…海洋放出方針に困惑と憤りの声
読売新聞 2020/10/17 13:33
東京電力福島第一原発の汚染水を浄化した後に残る「処理水」をめぐり、海洋放出の方針が月内にも決着することになった。実際の放出開始は2年後の見通しだが、漁業者に対する具体的な風評被害対策などは明らかになっていない。本格操業に向けてようやく踏み出した漁業復興の動きに水を差しかねず、現場からは困惑と憤りの声が上がる。
梶山経済産業相は16日の閣議後記者会見で、「処理水の問題は(保管する)敷地が逼迫ひっぱくする中、いつまでも先送りできない」と強調。加藤官房長官は同日の記者会見で「政府内での検討を深めた上で、適切なタイミングで責任を持って結論を出したい」と語った。
処理水の対応を決めるにあたり、政府は今年4月から7回にわたり原発周辺の自治体や農林水産業関係者などから意見聴取してきた。漁業関係者を中心に反対意見が続々と寄せられていた。
福島県いわき市漁協の江川章組合長は海洋放出の方針について、「時期尚早だ。現場の漁業者の意見を聞き尽くしたとは思えないし、海洋放出となればウニやアワビ、ワカメなど沿岸漁業への影響は計り知れない」と憤った。いわき市久之浜の漁師の男性(65)も「本当に放出が始まったら仕事にならないのではないか」と不安を募らせた。
相馬双葉漁協(相馬市)の立谷寛治組合長は「国は処理水の処分方法の議論と並行して風評被害対策を進め、特に若い後継者が安心して漁に出られるようにしてほしい」と注文をつけた。
国の方針決定について、内堀知事は同日、「まだ具体的な話は聞いていない」とした上で、「県としてこれまで漁業者や地域の方の色んな話を聞き、政府に対して思いを伝えてきた。慎重に、しっかりと対応していただきたいと思う」とコメントした。
福島第1処理水 海洋放出に宮城も懸念 漁業者「風評被害広がる」
河北新報 2020年10月17日
東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分を巡り、政府が月内にも海洋放出を決定する方針が報じられた16日、隣接する宮城県の漁業者や首長からは、強い反対と怒りとともに、風評被害への懸念の声が上がった。
「福島県に近いだけに不安は大きい。実際に処理水が海に放出されれば、風評被害がどれだけ広がるか予想できない」。県境に接する山元町の漁師猪又賢さん(66)は心配する。
海洋放出には一貫して反対の姿勢を貫いてきた猪又さん。「国が決めることだから、いくら反対してもどうしようもない」と嘆息するが、「風評被害が出ればきちんと補償すべきだ」と注文を付けた。
東日本大震災で大きな被害を受けたホヤ養殖の現場にも動揺が広がった。女川町の阿部次夫さん(68)は「絶対に反対。数十年後も人体や環境に影響がないとは言い切れない」と不安視する。
震災前、県産ホヤの約7割の輸出先だった韓国は、福島第1原発事故を理由に2013年から禁輸措置を継続。最大の販路を失った浜は、生産調整や廃棄処分を強いられている。
14年以来維持してきた生産量首位の座も19年、北海道に奪われた。阿部さんは「風評被害の厳しさは、これでもかと感じた。元に戻すことは容易ではない」として方針転換を訴えた。
県漁協は今年6月、海洋放出をしないよう国への働き掛けを村井嘉浩知事に要望した。水産関連が産業の7割を占めるとされる気仙沼市の菅原茂市長は「漁業者の理解を得ることに全力を注いでほしい。理解を得られないのであれば、別の方法を真剣に考えるべきだ」との考えを示した。
「9年半、漁場を捨てずに頑張ってきた漁業者もいる。これまでの努力を無にすることがないよう、しっかり話し合いを進めてほしい」と話し、議論を尽くす必要性を指摘した。