西日本新聞が、脱原発派と見られている河野総裁候補に対する原発立地町(薩摩川内市)の警戒感を報じました。
河野氏は脱原発を鮮明にしたわけではなく、核燃料サイクルの廃止を述べただけなのですが、同市住民の警戒感には驚くべきものがあります。
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「脱原発」に揺れる立地党員 河野氏持論に警戒感、論戦には期待も
西日本新聞 2021/9/26
29日に開票される自民党総裁選は、脱原発が持論の河野太郎行政改革担当相が出馬し、原発を巡る議論が争点の一つになった。九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)と川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を抱える地元では、選挙戦で優勢が伝わる河野氏に多くの自民党員が警戒感をあらわにする。他方、国政選挙で回避されがちな原発論争の深まりに期待する党員もいる。
「歴代の自民党政権が推進してきた政策。いまさら脱原発を言うのは、私たち立地地域のはしごを外すのに等しい行為だ」
23日、玄海町。自民党員で町議の井上正旦さん(66)は河野氏の姿勢を批判した。総裁選は原発維持の主張が明確な高市早苗前総務相に投票するつもりだ。
町の人口は5300人余り。原発関係者は少なくない。町は昨年、コロナ禍の経済対策で8万円の商品券を全町民に配った。原発の交付金があるからこそできた政策だ。
21日は町議選が告示されたが、定数10に9人しか立候補せず、全員が無投票で当選。町で原発を議論する機会が奪われた。
党員の別の町議は21日、当選祝いに訪れた県選出で自民の山下雄平参院議員に「なぜ河野さんを応援するのか」と詰め寄った。山下氏が河野氏の推薦人に名を連ねたからだ。「原発の地元議員としてあり得ない」。町議は憤った。
玄海町にも河野氏に投票した党員はいる。男性(74)は国民人気が高い河野氏の「選挙の顔」としての効果を重視したという。脱原発の主張は相いれないが「河野氏は再稼働を容認した。トップになれば暴走はしないだろう」と話す。
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川内原発のある薩摩川内市でも、多くの党員が河野氏の勝利を懸念する。
「河野さんが首相になったらと考えると正直怖い」。市内で機械メンテナンス会社を営む中間則行さん(47)は「怖い」を繰り返した。従業員は25人。受注のほとんどが原発関連だ。「脱原発」はたちまち経営を直撃する。「河野さんは今は多少封印しているのかもしれないが、信念は変わらないと思う。脱原発を言うなら、住民が食べていくための代替産業を示さないと無責任だ」と手厳しい。
原発の法定運転期間は原則40年。川内原発は1号機が2024年7月、2号機は25年11月に期限を迎える。手続きを踏めば20年の延長が可能で、九電は遠くない時期に延長を求めるものとみられるが、ときの首相が反対すれば難しくなる。
「総裁選で河野氏だけには入れないでほしい」。60代の党員は、九電関連会社の関係者から頼まれた。「河野氏が首相になることへの電力業界の危機感を強く感じた」という。
一方、「河野氏の出馬で、原発の議論が活発になったのはよかった」と考えるのは、市内で宅地建物取引業を営む党員、松永博志さん(72)だ。地元経済のほか日本の電力事情も踏まえ「しばらくは原発は必要」と河野氏以外を支持したが、福島第1原発の事故以来、将来は脱原発に移行しなければならないとも考える。「フクシマは人ごとじゃないから」
薩摩川内市では、国政選挙で原発が争点になることは少ない。各候補とも賛否両派の支持取り込みを狙うためだ。「総裁選が原発を真正面から議論するきっかけになってくれるといい」。松永さんは語った。 (金子晋輔、湯之前八州)