トリチウム汚染水の海洋放出について、政府が風評被害が発生した場合の賠償方針も盛り込んだことについて、中國新聞は、「そもそも15年には『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』としていた。その約束も守れないのに『風評被害は賠償します』と言っても、誰が信用するだろうか」と述べ、「国は水産物の価格下落などの被害が出たら国費で買い取り、そのための基金も設けるというが、それは結局東電ではなく、国民に新たな負担を強いるもので筋違いも甚だしい」と批判しました。
そもそもトリチウム汚染水は今後も140トン/日発生するので、30年で治まることはなく延々と続くことになります。
また北海道新聞は「風評自体起こしてはならない」とし、同じく買い取りの財源が税金や電気料に転化される可能性を指摘しました。
また売れ残ったものは冷凍保管するというのでは現場の意欲も下がりかねず、そもそも「風評に打ち勝つ」という言葉は菅首相が「ウイルスに打ち勝った証し」として東京五輪を強行したのと酷似するとして精神論優先だと批判しました。
そして東電が風評被害への賠償枠組みを示すと言っても、東電はこれまで公的な紛争解決機関の和解仲介案でさえ拒否したので実効性は疑わしいと述べました。
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社説 「処理水」沖合放出案 強行は将来に禍根残す
中國新聞 2021/8/31
東京電力は、国内の原発災害史上最悪の事故を起こした福島第1原発から出る汚染水を処理して薄め、沿岸から約1キロ沖合に放出する方針を決めた。海底トンネルの新設など海洋放出の全体計画を先週発表した。
海底トンネルに費用や時間がかかっても、沿岸への放出より理解を得やすいと判断したようだ。人目に付かず、放射性物質が海流に乗って早く薄まるためだろう。
それでも、地元の福島県漁連を含め、全国漁業協同組合連合会は、風評被害が起きるとして反対姿勢を崩していない。来年秋には処理水を入れたタンクが満杯になるとの東電の主張を盾に、「日程ありき」で進めようとする国の姿勢にも納得がいかないに違いあるまい。
タンク増設のための敷地拡充を東電に求めず、事故の「つけ」を安易に地元に押し付けているようにしか見えないからだ。これでは、反発が収まらないのも無理はなかろう。
東電の計画によると、処理水は多核種除去設備(ALPS)でも取り除けない放射性物質のトリチウムが基準値以下になるよう大量の海水で薄め、日常的に漁業が行われていない沖合の水深約12メートルの所から放出する。
国は、処理水の安全性の確認について東電任せにはせず、国際原子力機関(IAEA)に協力してもらうという。福島の事故後も、原発の安全対策の不備や不誠実な対応が続く東電に任せたのでは、政府がいくら安全と繰り返して言っても安心できない人もいよう。外部の目によるチェックが欠かせない。
計画には、風評被害が発生した場合の賠償方針も盛り込んだ。風評の影響を最大限抑えるよう努めてもなお、被害が出た場合には期間を区切らず迅速かつ適切に賠償するという。
しかし、東電に対する住民の不信感は根強い。そもそも処理水について2015年には「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」としていた。その約束も守れないのに「風評被害は賠償します」と言っても、誰が信用するだろうか。
国は水産物の価格下落などの被害が出たら国費で買い取り、そのための基金も設けるという。カネを出せば解決するという原子力政策で散見される考えが透けて見えるようだ。東電ではなく、国民に新たな負担を強いるのは筋違いも甚だしい。
処理水に含まれる放射性物質に関するデータの透明性も求められる。トリチウムなど一部の放射性物質は、世界の通常運転の原発や核燃料関連施設も大気中や海に放出している。ただ事故原発の処理水にはセシウムやストロンチウムなども混ざる。通常運転の原発の排水には含まれていない放射性物質である。
ALPSで2次処理をしても100%取り除けるわけではない。たとえ薄めたとしても、事故由来の放射性物質を海に流すことは、沿岸住民や次世代に対して無責任ではないのか。放出量はゼロにすべきである。少なくとも、放出量の上限を定めることが必要だ。
地元の合意を得ないまま、国や東電が沖合放出案を推し進めることは許されない。強行すれば、漁業者をはじめ事故後10年間の復興への努力を無にしかねず、将来にも禍根を残す。一から考え直すべきだ。
福島処理水対策 「風評」前提でいいのか
北海道新聞 2021/08/31
東京電力福島第1原発事故で発生した処理汚染水を再来年春に海洋放出する問題で、政府は水産物などの風評被害対策をまとめた。
国内外で需要が急激に落ちた際に、緊急措置として国が買い取り冷凍保管することなどが内容だ。全国の水産物が対象という。
風評自体起こしてはならない。万一の事態としながらも発生を前提にした対応は、安全性を強調した従来の説明との矛盾を感じる。
買い取りは基金方式の想定だが財源は未定だ。税金投入のほか全国の電気料金転嫁の恐れもある。
全国漁業協同組合連合会は「海洋放出に断固反対」と改めて表明した。国は向き合うべきだ。
放出は30年間も続く。作業トラブルや海洋資源への影響に備え、保管タンク増設など代替策も示さなければ安全性は担保できない。
汚染水は溶融核燃料(デブリ)を冷やす注水や地下水流入で1日140トン程度発生し、処理後も放射性物質トリチウムが残る。
敷地内のタンクが来秋以降満杯になるとして菅義偉政権は4月、国の基準値の40分の1未満に海水で薄め放出することを決めた。
放出は海外でも例があるが、事故原発で大量に長期間行うのは異例だ。国が安全性を主張しても地元が懸念するのは当然だろう。
現在ですら中国や韓国など14カ国・地域は農産物も含めた輸入規制を続けている。東日本の広域を対象にするケースも多い。
風評に苦しんだ福島の漁業は試験操業を続け、今年本格操業に向けて動きだす矢先だ。売れずに冷凍保管することが前提の出漁では現場の意欲も下がりかねない。
気になるのは国が「風評に打ち勝つ」という言葉を対策の柱にしたことだ。菅首相が「ウイルスに打ち勝った証し」として東京五輪を強行したのと酷似する。科学的検証でなく精神論優先のようだ。
対策では、安全性の意識調査や流通業者、消費者の理解向上にも努めるという。事故後続けてきた措置の焼き直しにしか見えない。
一方で国は東電に風評被害への賠償枠組みを示すよう求めた。東電も「適切に対応」するという。
だが、これまで公的な紛争解決機関の和解仲介案でさえ拒否した例も目立つ。実効性は疑わしい。
東電は沿岸滞留を避けるため、海底トンネルを新設して沖合約1キロで放出する計画だが、ようやく来月準備工事を行う段階だ。
過密な日程を盾に地元の納得なしに工事を進める恐れがある。なし崩しの放出は許されない。