【風評の現場】(7・完)
トリチウム処理水 短絡的に結論出すな 自然保護の努力水泡に
福島民報 2020/09/10
郡山市湖南町の中ノ入地区にブナの森が広がる。不動山に樹齢三百年を超える不動ブナをはじめ、数百本が林立する。ブナ林の保全・活用を進める郡山市ぶなの森を守る会長の小椋豊記さん(69)は、東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分方法の議論の先行きが気になる。
原発事故による福島県への風評を思い起こし、処分方法の決定が近づくことに不安を募らせる。
「先祖から自分の世代まで、自然や文化を必死に守ってきた。次の世代が誇りを持って引き継げなくなる選択だけは避けてほしい」
「新しく誇れる何かをつくろう」。二〇〇四(平成十六)年ごろ、その価値が認められ始めていた地元の不動山のブナの森を生かした地域おこしを地元の有志と考えた。将来にわたって森を管理・保全するため、多くの人に関心を持ってほしいとの思いもあった。
地道な活動が実を結び、事業に参加する人が増え始めた。散策する遊歩道に手作りの階段や手すりを設置し、徐々に山頂に向けて整備を進めた。「近い将来、幅広い世代が足を運ぶ森になるはず」。胸は期待で高鳴った。
それが二〇一一年三月の原発事故により状況が変わった。放射性物質に関する情報が飛び交う中、会員の中には「このまま活動を続けてもよいのか」と葛藤もあったが、保全の取り組みを続けることを決めた。
当時、森林では木や積もった枯れ葉、土壌など、さまざまな場所に放射性物質が付着していることが分かり、県土の七割を占める森林に立ち入る人は大きく減った。守る会の活動に参加する人も二~三割少なくなった。
時間の経過とともに放射線量の低減や正しい知識の普及で参加する人が戻ってきた。ただ、直接的にほとんど被害はないのに、見えない放射性物質により自然が「汚された」と感じた。
仮に処理水が海洋や大気に放出されたとして、「環境的な影響はない」と頭では分かっている。しかし、反発する気持ちが消えないのが正直な心境だ。もし県内に「放出された土地」とのレッテルが貼られたら、「自分たちの『誇り』が汚され、自然を守り、引き継ごうとする若い県民がいなくなってしまうのではないか」との思いが拭えない。
「原発事故からの復興に処理水への対応が不可欠」と考える。福島県沖への海洋放出や県内での大気放出が「短絡的な結論」と映る。
「自然に興味を持つ人がいなくなれば、過去からの取り組みが水泡に帰す。県内での放出ありきは納得できない」