2020年9月15日火曜日

15- 福島 避難区域 被災地着実に再生 復興拠点外は道筋不透明

 福島原発事故から9年6カ月、福島民報が各町村の現況をレポートしました。

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【震災 原発事故9年6カ月】[避難区域]被災地着実に再生 復興拠点外 道筋は不透明

福島民報 2020/09/13

 帰還困難区域のうち、三月に双葉、大熊、富岡各町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の一部が先行解除された。浪江町では八月に道の駅なみえがオープンし、復興を発信する施設としての役割が期待される。被災地の復興・再生が着実に進む一方、復興拠点外の避難指示解除への道筋は不透明なままだ。

■道の駅なみえ開所 酒蔵、工房年度内整備 地域の名産発信 浪江町

 町の人口は七月末現在、一万六千八百八十八人で、町内居住者は千四百四十九人となっている。 八月一日、「復興の象徴」として整備された道の駅なみえの供用が始まった。四月に競りが再開された請戸漁港で水揚げされた魚介類が味わえるフードテラスや、なみえ焼そばにちなんだ総菜パン、取れたての農産物などが人気だ。町によると一日から十八日までに約六万人が来館した。 二〇二〇(令和二)年度中に、敷地内に酒蔵と大堀相馬焼の工房が整備され、地域の名産の魅力を発信する。 一方で、施設を管理運営する一般社団法人まちづくりなみえの職員が新型コロナウイルスに感染。八月二十日から臨時休館した。消毒を終え、濃厚接触者らの陰性が確認され、三十一日から一部施設を除き再開した。 町内では町面積の八割余りが帰還困難区域となっている。室原、末森、津島の三地区計約六百六十一ヘクタールが復興拠点に認定され、二〇二三年春までの避難指示解除を目指す。残る帰還困難区域は約一万七千四百ヘクタールとなっている。

■帰還困難区域全域の復興拠点認定を要望 除染明確化で不安解消へ 双葉町

 町は町内の帰還困難区域の全域を復興拠点に認定するよう国に求めている。拠点外の除染について国の方針が示されていない中、帰還困難区域の全域を復興拠点とすることで除染などを明確化させ、町民の不安解消につなげる考えだ。 現在認定されている復興拠点約五百五十五ヘクタールの避難指示は二〇二二(令和四)年春に解除される予定。町は同時期までの約四千三百ヘクタールを加えた全域の復興拠点認定を目指している。 三月にJR双葉駅東側周辺や町北東部の避難指示解除準備区域など、一部地域の避難指示が解除され復興拠点全域の立ち入り規制も緩和された。 二十日には東日本大震災・原子力災害伝承館が開館する。隣接する町産業交流センターも今秋に開所する予定。 七月三十一日現在の町の人口は五千八百三十人で、全町避難が続いている。

■富岡町

 三月のJR常磐線全線運転再開に合わせ、夜ノ森駅周辺の道路などの避難指示が解除された。桜の季節になると町民らが観桜に訪れた。夜の森地区を中心とした復興拠点約三百九十ヘクタールは、二〇二三(令和五)年春の避難指示解除が予定されている。残る帰還困難区域は約四百六十ヘクタール。

 町は今春、富岡産業団地の一部供用を開始した。四社の立地が決まり、工場などの建設が進んでいる。さくらモールとみおか北側には来年三月開館予定の子どもが伸び伸びと遊べる施設「町地域交流館」を整備している。

 八月一日現在の町の人口は一万二千五百十四人で、町内居住者は千四百八十九人。

■長泥に復興公園 整備へ 拠点内外の一括解除 国に求める 飯舘村

 八月一日現在、村の人口は五千三百二十五人で、村内居住者は千四百六十九人。二〇一七(平成二十九)年四月に一部を除き避難指示が解除されて以降、村内への新規移住者は八月で百人を超えた。 帰還困難区域となっている長泥行政区約千八十ヘクタールのうち復興拠点に認定された約百八十六ヘクタールでは、二〇二三(令和五)年春までの避難指示解除を目指し除染や家屋解体が進められている。 村は復興拠点外の曲田地区に復興公園を設置する方針案を策定し、国に対し、拠点内外の一括解除を求めている。

■大熊町  営農再開目指し田植え 試験栽培 帰還困難区域で初

 八月一日現在、町の人口は一万二百八十八人で、町内に居住している町民は二百五十人となっている。 三月にJR常磐線大野駅周辺など、帰還困難区域の復興拠点の一部が先行解除された。下野上地区と野上地区など一部地域では立ち入り規制が緩和され、許可証なしで滞在できるようになった。 五月に下野上地区の立ち入り規制が緩和された区域でコメの試験栽培が始まった。帰還困難区域で営農再開を目指した田植えは初。復興拠点全域約八百六十ヘクタールの二〇二二(令和四)年春の解除を目指し、除染などが進む。残る帰還困難区域は約四千ヘクタール。

■楢葉町 サツマイモ貯蔵施設 14日完成、通年出荷へ

 道の駅ならはの物産館が六月に営業を再開し、原発事故の発生以来九年三カ月ぶりに全面再開した。物産館は地元の農産物などを買い求める来館者でにぎわっている。 十四日には農業再生に向けて栽培に力を入れているサツマイモの貯蔵施設が完成する。千二百六十トンのサツマイモを保管することができ、通年出荷が可能になる。 七月末現在の町内居住者は四千二十五人で、住民基本台帳人口は六千七百八十二人。

■広野町

 七月末現在の人口四千七百六十人のうち、町内居住者は四千百八十三人となっている。

 二〇一九(平成三十一年)年四月に中高一貫教育がスタートした、ふたば未来学園中・高は、二年目を迎え、未来創造探究など独自の教育に力を入れている。部活動はバドミントン部を中心に全国で活躍している。 六号国道沿いに整備中の道の駅ひろのは予定地に硬い岩盤が見つかったため、規模を縮小し、二〇二三(令和五)年度に完成する見通し。

■葛尾村

 村の人口は八月一日現在、千三百八十四人で帰村者は三百二十八人。二〇一六(平成二十八)年六月の帰還困難区域を除いた避難指示解除後の転入者は百十三人となっている。 ふるさと納税制度の本格活用を開始し、村内産の羊肉やコメなど地場産品を返礼品に設定した。ふるさと納税額が伸びている。葛尾小の児童が描いた絵が返礼品発送用段ボールのデザインに採用された。 野行地区に設定された帰還困難区域のうち約九十五ヘクタールが復興拠点に認定されている。二〇二二(令和四)年春ごろの避難指示解除を目指し、除染などが進む。約千五百五ヘクタールが帰還困難区域として残る。

■川俣町山木屋

 山木屋地区の八月一日現在の居住者は三百四十六人で、住民基本台帳人口は七百三十七人。住民の六割以上が六十五歳以上の高齢者で、地区の少子高齢化が顕著となっている。 二〇一八(平成三十)年に開校した小中一貫校の山木屋小中は児童の減少により二〇一九年から小学部が休校している。 一日に地区で唯一の宿泊施設となる「コテージやまこや」がオープンした。避難している住民の里帰りなどに用いられる。

■田村市都路町

 七月三十一日現在の「田村市民の避難状況動向調査」によると、都路町の人口は二千二百八人で、帰還率は89・9%となっている。 町内岩井沢に、自動搬送など最先端のシステムを備えた植物工場の建設が進んでいる。グリーンパーク都路にはクラフトビールの醸造所が整備され、にぎわいづくりの拠点になるのが期待される。町観光協会を中心に、行司ケ滝などへの観光誘客への取り組みも進んでいる。

■川内村

 村内の田ノ入工業団地では農業関連企業の「農(みのり)」(本社・千葉県)と建設機械用部品製造業の大橋機産(本社・さいたま市)の工場建設が進む。両社は二〇二一(令和三)年春の操業開始を目指している。 義務教育学校「川内小中学園」が二〇二一年四月に開校し、教育環境が充実する。特色ある教育を展開し移住定住の促進を目指す。 村の人口は八月一日現在、二千五百四十一人で、うち二千四十九人が村に戻っている。

■南相馬市小高区

 二〇一六(平成二十八)年七月に避難指示が帰還困難区域を除き解除された。七月末現在の居住者は三千七百五十六人。原発事故発生前は一万二千八百四十二人が住んでいた。 今春、市立おだか認定こども園が開園し、〇~五歳児約五十人が元気に通っている。公設民営で移動販売も行う商業施設「小高ストア」、復興拠点施設「小高交流センター」とともに地域を盛り上げている。来春には、屋内型の子どもの遊び場が開所する。

■Jヴィレッジ 2019年度来場者数 震災前の水準に回復

 昨年四月に全面再開したJヴィレッジ(楢葉・広野町)の二〇一九年度の来場者数は四十九万一千人、ホテル宿泊者数は三万九千八百三十九人で、ともに震災前の水準に戻った。 ただ、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今春以降は来場者数、宿泊者数とも落ち込んでいる。ピッチを一般開放する「リフレッシュパーク」や、テレワーク対応のホテル利用プランなど新たな取り組みで客足は徐々に回復してきているものの、八月の来場者、宿泊者数はそれぞれ前年同月比、五割強程度だという。 広報担当課長の明石重周さん(42)は「感染防止対策を徹底した上で、多くの人に来て宿泊してもらえるように知恵を絞っていきたい」と話している。

 ※双葉町では3月4日にJR双葉駅の東側周辺と鉄道施設区域、避難指示解除準備区域など、大熊町では3月5日にJR大野駅周辺や県立大野病院敷地、大野駅から大川原地区までを結ぶ道路、富岡町では3月10日にJR夜ノ森駅につながる道路と鉄道施設区域、駅前駐車場の避難指示がそれぞれ解除された。  (本紙2020年9月2日付けに掲載)