2020年9月15日火曜日

福島 健康・放射線管理 健康影響調査続く

  福島原発事故の発生から96カ月放射線被ばくの影響を調べる甲状腺検査は4巡目に入っています。昨年6月の中間報告では「甲状腺がんと放射線被ばくの関連は認められない」とされました。県民健康調査検討委員会は毎回判でついたように同じ見解を出しています。本当にそうなのか却って疑いを強めてしまいます。

 福島民報が「健康・放射線管理 健康影響調査続く」とする記事を出しました。

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【震災 原発事故9年6カ月】[健康・放射線管理]健康影響 調査続く

福島民報 2020/09/13

■甲状腺検査4巡目 放射線被ばくとの関連分析

 県民健康調査の甲状腺検査は今月、二〇二〇(令和二)年度分の検査を開始する。新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期していたが、感染拡大防止対策を講じた上で再開する。四巡目検査が終わり次第、五巡目検査に入る。 甲状腺検査一~四巡目の今年三月末までの結果は【表】の通り。この結果に、二十五歳時の「節目の検査」の結果を合わせると、甲状腺がんと確定したのは百九十九人、がんの疑いのある人は四十六人となっている。 検査は原発事故当時に十八歳以下だった県内の全ての子ども約三十八万人を対象に、二〇一一(平成二十三)年度に始まった。二〇一四年度から二巡目、二〇一六年度から三巡目、二〇一八年度から四巡目の検査が行われている。九月以降、新型コロナの影響で三月に実施できなかった四巡目検査を十六小学校(対象約二千人)で実施した後、五巡目検査を百四十二校(対象約一万七千六百人)で行う予定。 県民健康調査検討委員会の下部組織に当たる甲状腺検査評価部会は昨年六月、二巡目の結果について「現時点で甲状腺がんと放射線被ばくの関連は認められない」との中間報告をまとめ、検討委も報告を了承した。 評価部会は来年七月までをめどに、一~三巡目の甲状腺検査のデータを解析する。検査間隔や震災時年齢、検査時年齢などの要素も重視して、放射線被ばくと甲状腺がん発症の関連について、さらに分析を進める。国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が今年中にまとめる県内各地の被ばく線量の推計報告を活用する方針。 全てのがん患者を対象とする「地域がん登録・全国がん登録」などの患者情報が秋ごろに取得できる見通しとなり、今後、未受診者の罹患(りかん)状況も調べる。

■受診率は低下傾向 健康診査も

 県民健康調査には「甲状腺検査」をはじめ、原発事故に伴い避難指示が出るなどした地域の全住民を対象とした「健康診査」「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、全県の妊産婦を対象とした「妊産婦調査」の四つの取り組みがある。 健康診査は双葉郡八町村と南相馬、田村、川俣、飯舘の四市町村の全域、伊達市の一部が対象。こころの健康度・生活習慣に関する調査は避難者の心や健康に関する不安を把握する目的で実施している。 妊産婦調査は二〇二〇年度の調査を最後に終了する。 歳月の経過や対象者の生活状況の変化に伴い、受診率はいずれも低下傾向にある。

■医療機関再開、新設進む 避難区域12市町村

 原発事故に伴い、避難区域が設定された十二市町村の主な医療機関の休止・再開・新設状況は【図】の通り。八月一日現在、診療している病院や診療所、歯科診療所は三十四カ所で、原発事故前にあった百カ所の約三割となっている。 避難指示の解除が進むにつれ、医療環境は徐々に整いつつある。一方、住民の帰還が進まず居住者数が限られる中、医療機関の採算性をいかに確保するかが課題となっている。 県によると、帰還した住民からは内科以外にも眼科など専門診療科の充実を求める声が上がっているという。 楢葉町は六月に「ならは薬局」を開設した。原発事故で町内三カ所の薬局がなくなっていた。県内初の公設民営の薬局で、運営は県復興支援薬剤師センターが担っている。

■県民健康管理センター長 神谷研二氏に聞く 「甲状腺検査、休日夜間も 結果分かりやすく広報」

 県民健康調査の事務局を担う福島医大放射線医学県民健康管理センターの神谷研二センター長に調査の現状や課題を聞いた。

 -県民の健康状況をどのように捉えているか。

 「県民健康調査で、原発事故後四カ月間の外部被ばく線量は93・8%の人が二ミリシーベルト未満、99・8%は五ミリシーベルト未満と分かった。チェルノブイリ原発事故に比べると非常に低く、外部被ばく線量に関して健康影響があるとは考えにくいレベルだ。事故当時、十八歳以下だった子どもが対象の甲状腺検査については検査二回目までに見つかったがんと放射線被ばくとの関連性は考えにくいとされている」

 -甲状腺検査は受診率が低下傾向にある。

 「事故直後に実施した一次検査の受診率は八割を超えていたが、現在は六割程度で推移している。二十歳を過ぎてから五年おきに受ける節目の検査の受診率は8・4%にとどまる。進学や就職などで福島県を離れることなどが、受診率低下の要因になっているようだ。希望者が負担なく受診できるように、県内外で検査機関を増やし、休日や夜間の検査体制も整えている。転居後に受診の案内を届けるために、さまざまな機会を通じて住所変更の連絡をお願いしている」

 -妊産婦の本調査は今年度で終了する。

 「県内の早産率や低出生体重児率、先天奇形・先天異常発生率は他の全国調査の値とほぼ同水準だと分かり、所期の目的は達成できた。妊産婦のうつ傾向の割合や放射線に関する不安も低下している。妊産婦の本調査は終了するが、市町村の母子保健事業への支援を通じて、今後も総合的な子育て支援を続ける。これまでの調査結果は分析・評価し、県民に向けて発信する」

 -分かりやすい情報発信が求められている。

 「放射線の健康影響を心配する人の割合は減ってはいるものの、いまだに一定程度みられる。リスクコミュニケーションの推進は大きな課題となっている。調査結果を広く周知するために、調査内容や結果を分かりやすくまとめた報告書を配布したり、調査結果を県民に直接伝える国際シンポジウムを開催したりしている。県民がどのような情報を求めているのかをきめ細かく把握し、より戦略的な広報を展開していきたいと考えている」

 かみや・けんじ 岡山県出身。広島大医学部卒。広島大緊急被ばく医療推進センター長などを歴任。2011年4月に福島県放射線健康リスク管理アドバイザー、同年7月に福島医大副学長に就いた。2016年から放射線医学県民健康管理センター長を兼ねる。専門は放射線医学。69歳。 (本紙2020年9月5日付に掲載)