2023年6月21日水曜日

ザポロジエ原発対岸の町、戦闘激化で核汚染の恐怖 「逃げ場ない」無力の高齢者

 共同通信が、対岸のザポロジエ原発を占拠しているロシア軍から連日砲撃を受けながらも「逃げ場ない」無力の高齢者たちの恐怖を報じました。


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 ザポロジエ原発対岸の町、戦闘激化で核汚染の恐怖 4460軒被弾でも反撃できず…「逃げ場ない」無力の高齢者
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ザポロジエ原発対岸の町、戦闘激化で核汚染の恐怖 4460軒被弾でも反撃できず…「逃げ場ない」無力の高齢者
                            共同通信 2023/06/20
【写真説明】ワシリー・ルバンさん=5月29日、ウクライナ・ニコポリ(共同)
 「原発がなければ、こんなことにはならなかった」。ウクライナ南部ザポロジエ原発を陣地にしたロシア軍から連日、攻撃を受ける対岸のニコポリ市。命拾いしたワシリー・ルバンさん(95)は5月29日、「逃げ場がないんだ」と嘆き、戦火による原発事故への恐怖も訴えた。(共同通信=文・佐々木健、写真・篠雄也)
【写真説明】ウクライナ南部ザポロジエ原発を警備するロシア兵=2022年5月(AP=共同)

▽10秒で着弾、避難不可能
 ウクライナを縦断する大河ドニエプル川を挟んで原発まで約10キロ。「原発から砲撃するロシア軍には反撃できない。私たちをあざけり、暴虐を続けている」と憤る。昨年7月に攻撃が始まって以来、市内で4460軒以上の建物が損壊。市民16人が死亡し、125人が負傷した。最短で10秒もかからず着弾するため、住民に緊急避難を促しても被害を防ぐのはほぼ不可能だ。
 ルバンさんは今年5月3日夜、自宅の窓際に座ってお茶を飲んでいた時、突然、耳が聞こえなくなるほどの爆音とともに床に倒れた。隣の寝室にいた妻ライサさん(87)は、重度の糖尿病のため自力で起き上がれず、視力も失っている。床をはって近づき「生きてるか?」と呼びかけ、無事を確認するのがやっとだった。
 自宅の壁のすぐ手前に着弾し、かろうじて直撃は免れた。背面の窓ガラスや壁が壊れ、庭の菜園に穴ができていた。天井の壁紙は今も飛び散った破片の衝撃であちこち破れたままだ。
【写真説明】攻撃で着弾した庭で話すワシリー・ルバンさん=5月29日、ウクライナ・ニコポリ(共同)

▽敵は核大国、原発を要塞化
 ウクライナ軍が反転攻勢に出る中、戦闘の激化は必至だ。ルバンさんは「ロシアのプーチン大統領はソ連時代の兵器をたくさん持っている。核大国に武力では対抗できない」と悲観。「外交で勝つしかない」と冷静に訴える。
 欧州最大の原発にロシア軍は兵器を集積し、弾薬庫を設置。攻撃や事故で放射性物質が拡散し、周囲が汚染される事態が懸念されている。
 原発が立地するエネルゴダール市のドミトロ・オルロフ市長(38)によると、ロシア軍は原発を要塞化し、推定で最大千人が駐留している。原子炉建屋周辺には電磁波で敵の通信やレーダーを妨害する電子戦システムも配備した。原発周辺には占領当初から地雷を埋設してきたが、ここ2~3カ月間、市街地の近くにも追加で埋めているという。
【写真説明】ウクライナ南部ザポロジエに設置した支援センターで、取材に応じるエネルゴダールのドミトロ・オルロフ市長=5月31日(共同)

 ルバンさんは「原発事故が起きたって、なるようにしかならないさ。神の御心のまま。寝たきりの妻と一緒にどこへ行くというのか」と諦めも見せた。自宅の地下室は水がたまり、避難に使えないという。
【写真説明】ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発=3月(ロイター=共同)

▽軍事施設なし、「テロ」と非難
 ニコポリの取材は攻撃の危険があるとして、市当局者が同行し、滞在は3時間に制限された。中心部には、割れた窓ガラスを市が配布する合板で覆い、応急補修した住宅が目立つ。川岸からの原発の撮影も、ロシア軍の攻撃を招きかねないとして禁じられた。
 オレクサンドル・サユク市長(49)は「標的になっているのは市民の住宅や店、学校、幼稚園だ。テロとしか言いようがない」と非難した。「市内には基地も軍事施設もない。住民らを怖がらせ、戦争に反対するよう仕向けるのが狙いではないか」と語った。市内では医療施設が21回、教育施設が53回、文化施設が23回の攻撃を受けた。しかも原発は全面戦争のまっただ中にある。「ロシア軍が、いつ何をするか誰にも分からない」
【写真説明】取材に応じるニコポリ市のオレクサンドル・サユク市長=5月29日、ウクライナ・ニコポリ(共同)

 ニコポリ市は住民に自主避難を勧告しており、人口約10万人のうち約6割が去った。だが特に高齢者は移住が難しい。残った住民には被ばくを抑えるヨウ素剤を改めて配布した。
【写真説明】攻撃で窓などが破壊された集合住宅=5月29日、ウクライナ・ニコポリ(共同)

▽「かわいそう」再建助ける大工
 川岸に近い別の地区では、ロシアの攻撃で壁が崩れた自宅に、リュボフィ・ノサチェワさん(71)が招き入れてくれた。「近隣の全域が非常に激しい砲撃を受けている。恐怖と震え。実際に体験しないと、私の感情は理解してもらえないでしょう」と怒りをぶちまけた。
【写真説明】リュボフィ・ノサチェワさん=5月29日、ウクライナ・ニコポリ(共同)

 壊れた壁にれんがを積み上げ、修理していた大工のワジム・コレスニチェンコさん(48)は、私が日本人記者だと分かると、原爆が落とされた広島と長崎、東京電力福島第1原発事故が起きた福島県では今、人が住める状況なのかどうかと質問してきた。ザポロジエ原発が「第2のチェルノブイリ」となり、故郷に住めなくなる事態を危惧しているのだ。
 ザポロジエ原発は6基とも運転が停止されたが、原子炉を外部電力によって冷却し続けなければ重大事故につながる。ロシア占領下で外部電力の供給は何度も一時停止に追い込まれてきた。
 コレスニチェンコさんは、ゼレンスキー大統領が先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれた広島で演説し、ロシアによる「核の脅し」を止めるよう訴えたことに触れ「核で脅迫されているのは世界中が知っている」と語った。それでも逃げ出さず、故郷の住宅再建を続けるつもりだと言い切った。
 「核のリスクは依然残っている。怖いさ。でも私に何ができるだろう。リュボフィさんみたいに、家も菜園も壊された年金生活者はどこで暮らすんだ? 姉妹の家も、娘の家も破壊されてしまったんだ。かわいそうじゃないか」