岸田首相が原発の運転期間の延長について検討の加速を指示していた問題で、経産省は8日、今後の延長のあり方について同省の審議会に3つの案を提示しました。3案のうち2案は現行の「最長60年」を超えて運転ができるもので、委員からは「福島第1原発事故の教訓の放棄に他ならない」との批判の声も上がりました。
原発装置の中で最も劣化が激しいのは中性子照射を浴び続ける原子炉で、その劣化具合は定検ごとに炉内に取り付けたテストピースで脆性遷移温度を判定することになっています。九電・玄海原発1号機では、運転開始34年後の2009年に「+93℃」まで急上昇したため、井野博満・東大名誉教授(金属材料学)の進言により廃炉を決めました(ところがその後は電力会社が脆性遷移温度に関わるデータを公表しなくなりました)。
それは「公表」を原則とする原子力基本法に反していますが、そもそも既にテストピースは使い尽くしているのが実態と思われます。そういう中で一体何をもって原子炉の健全性を、ましてや20年後の健全性を調べられるというのか疑問は尽きません。
現行実質60年運転を認めている根拠がまず不明確なのに、それをさらに延長しようというのは文字通り「狂気の沙汰」です。
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原発運転期間 停止中除く 60年超へ経産省案 「上限無し」も
委員「福島の教訓放棄」
しんぶん赤旗 2022年11月9日
岸田首相が原発の運転期間の延長について検討の加速を指示していた問題で経済産業省は8日、同省の審議会「原子力小委員会」で今後の延長のあり方について三つの案を提示しました。3案のうち2案は現行の「最長60年」を超えて運転ができます。委員からは「福島第1原発事故の教訓の放棄に他ならない」との批判の声も上がりました。
東京電力福島第1原発事故後に改定された原子炉等規制法(炉規法)では、原発の運転期間は運転開始から原則40年とされ、規制委が認可した場合、1回に限り最長でさらに20年の延長が認められます。
この日、経産省が示した案は (1)現行の炉規法にある上限規定を維持する (2)運転期間の上限は設けない (3)一定期間の上限は設けつつ、事業者が予見しづらい要素による停止期間を含まない―の3案。(1)の現状維持以外の案はいずれも、経済界や電力会社が求めていたもので、60年以上の運転が可能になります。
(3)案は、新規制基準による審査をはじめ行政命令や原発の差し止め訴訟の仮処分命令などで停止した期間を運転期間に含めないとするものです。3案を示した上で経産省は「必要に応じて見直すこととすべきではないか」とも提案しました。
原子力小委員会での議論では、脱原発を掲げるNPO法人の松久保肇事務局長が、「原則40年、最長60年」のルールが「福島第1原発事故の教訓に基づいて、国会で与野党合意のもと導入された安全規制であることを再確認すべきだ」と指摘。「さらに延長することは事故の教訓の放棄に他ならない」「過酷事故の芽を残して育てるようなことをしてはならない」と批判しました。
運転期間をめぐっては岸田首相が8月、運転期間の延長などについて、年末に具体的な結論を出せるよう検討の加速を指示。これを受けて経産省は今月、法律の改定を含めた措置の必要性を表明しました。
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の村上千里理事は、政府が「可能な限り原発依存度を低減する」としてきた従来の方針を「短い期間で国会審議も国民的議論も行わずに大きく変更すること自体が問題ではないか」と述べ、「拙速な進め方は原子力行政への信頼を損なうことにつながるのではないか」と指摘しました。
一方、原発推進の委員からは、上限を設けない(2)案を支持する意見が多数ありました。
原発の運転制限「原則40年」撤廃で懸念されること…老朽化でリスク増、規制水準維持の道筋は?
東京新聞 2022年10月7日
「原則40年、最長60年」と期間を定めた原発の運転制限が、撤廃に向かいだした。老朽原発の延命に一定の歯止めになっていた制限がなくなれば、リスクの高い原発が動き続ける事態になりかねない。原子力規制委員会は「規制を緩めない」ことを強調しているが道筋は不透明だ。(小野沢健太)
◆福島事故の反省で導入
「エネ庁は(原発の)利用政策の観点から運転期間を検討するとのこと。われわれは検討そのものに意見を述べる立場にない。よろしいか」。5日の規制委定例会合。経済産業省資源エネルギー庁との約1時間のやりとりの後、規制委の山中伸介委員長は委員4人に投げかけた。異論は出ず、運転期間についてのルールは経産省の検討に委ねられた。政府は原発の長期運転を目指す方針を示す。「運転期間は原則40年間」と定めた原子炉等規制法(炉規法)の規定が撤廃されることがほぼ確実となった。
現行ルールは東京電力福島第一原発事故後、当時の民主党政権が2012年6月に炉規法を改正して導入した。事故の反省から老朽原発の稼働を制限するためで、当時は「例外中の例外」とされた40年超の運転には、規制委が審査した上で認可が必要になった。規制委は12年9月の発足時、当時の田中俊一委員長は「40年は技術の寿命としてはそこそこ。技術者らも卒業していく」と理解を示していた。
◆膨大な工事必要、採算性乏しい場合も
設計が古い原子炉は、新規制基準に適合するために多数のケーブルを燃えにくい素材に変更するなど膨大な工事が必要。40年超の運転をするには、原子炉や建屋の健全性も証明する必要があり、さらに費用がかかる。古い炉は出力が小さいケースも多く、電力会社は改修しても採算性が乏しいとして、老朽原発の運転をあきらめるケースが相次いだ。
福島第一、第二原発を除く商用炉で11基の廃炉が決まり、現行ルールは老朽原発の延命に一定の歯止めとなっていた。既に40年超の運転が認可されたのは4基で、30年中にはほかに11基が運転開始から40年となり、ふるいにかけられる炉が増えていくはずだった。
◆劣化状況調べる「特別点検」いつ実施?
政府が現行ルールを見直す方針を明らかにしたことで、老朽原発の規制は不透明な状況になっている。現在の炉規法では、運転延長の可否を判断する40年のときに、原子炉の劣化状況などを詳しく調べる「特別点検」を実施することを定めている。運転期間を40年とする規定そのものが削除されると、特別点検をいつ実施するのかが不明確になる。60年超の運転が可能になった場合の規制手段は白紙だ。
規制委事務局の担当者は「規制が後退することがないよう、特別点検の実施時期を新たに規定するなど必要な措置を検討する」と説明。一方で、「経産省がどのような見直しをするかによって、炉規法をどう修正すればいいのかも変わってくる」と話し、先行きは見えない。運転制限という法的な縛りを手放し、どのように規制の水準を維持していくのか、道のりは険しい。