2022年11月23日水曜日

河北新報記者が柏崎刈羽原発を現地取材

 10月20日、柏崎刈羽原発は記者団を現地視察に招待しました。同原発が規制委に指摘された問題点を克服すべく努力しているところを見てもらいたかった様子を、河北新報の女性記者が辛口の筆致で紹介してくれました。
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福島事故「廃炉・賠償費用捻出の切り札」東電・柏崎刈羽原発を現地取材 再稼働安全性に消えぬ疑問符
                           河北新報 2022/11/22
 東京電力柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)は相次ぐ核物質防護不備で昨年4月、原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受けた。同原発は東電が福島第1原発事故の廃炉や賠償の費用を捻出するための「切り札」。原発推進にかじを切った岸田文雄首相も同原発の来夏以降の再稼働を表明した。運転禁止命令の解除に向けて核セキュリティーの改善に取り組む現場や、度重なる不祥事に翻弄(ほんろう)される地元関係者を取材した。
   表で見る】柏崎刈羽原発を巡る主な動き(全6枚)
                              (東京支社・桐生薫子)
[柏崎刈羽原発]沸騰水型軽水炉が計7基あり、総出力は世界最大級。2007年の新潟県中越沖地震以降、2~4号基は停止中。残る4基も東京電力福島第1原発事故後に順次止まった。東電は6、7号機の再稼働を申請し、17年12月、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査に合格した。21年1月以降、所員が同僚のIDカードで中央制御室に不正入室した問題や、テロ対策のための侵入検知設備が故障しながら長期間放置していたことが判明。規制委が燃料装填(そうてん)を禁じる是正措置命令を出した。

■<構内ルポ>テロ対策PRに躍起 反省演出に過剰さも
 東電の視察用バスで柏崎刈羽原発正門に到着したのは10月20日午後2時ごろ。警備員が立つ二つのゲートには通勤時間帯でもないのに、それぞれ10台ほどの車が列を成していた。
 「入構許可証や所持品の確認に時間がかかるんです」。同乗する東電広報の社員が渋滞の「正体」を解説した。見落としがないよう、警備員は3人一組。トラックは荷台の中に入って点検する念の入れようだ。1台当たり1~2分を要し、車列は後方に延びていく。
 15分ほどでわれわれの番が来た。車内に乗り込んだ警備員は一人一人の入構証を専用機械で読み取り、マスクを外した状態で顔写真との本人照合も行った。
 「入構証は期限が切れていないかどうかも厳密に見ています」。東電広報が得意げに話す。一般常識のように思えるが、東電にとっては画期的な取り組みのようだ。

■本人確認2段階
 東電は昨年1月に核物質防護不備を露呈して以降、核セキュリティーに関わる設備を更新してきた。以前は読み取り機械はなく、警備員が入構証を目視するだけだった。機械導入後もドライバー以外の同乗者を細かくチェックせず、今年5月には社員が期限切れ入構証で正門を3回通過していたことが判明した。
 入構手続きを済ませた後は、敷地北側にある5~7号機への出入り管理を行う「副防護本部」に向かった。所員が中央制御室に入るため、同僚のIDカードを不正利用した場所だ。
 「ID貸し借り、絶対禁止!」「隣の人、テロリストかも?」。不自然なほど壁にびっしり貼られたポスターが目を引く
 本人確認は2段階。機械式の生体認証システムをクリアした後、警備員が顔を再度確認する。こちらも以前は生体認証などなく、警備員が顔を見て本人かどうかチェックするアナログ方式だった。「まさか社員が不正をするとは思わなかった」と東電広報。テロ対策への意識の低さに驚いた。

■防潮堤や電源車
 金属探知機を二つ通り、6号機原子炉建屋上部のオペレーティングフロアに入った。眼下には規制委によって移動が禁止された使用済み核燃料プールが見える。大東正樹副所長は「是正措置命令の早急な解除に向け、規制委の追加検査に取り組む」と力を込めた。
 帰り際には海抜15メートルの防潮堤や福島事故後に配備された新品の非常用電源車を車中から見た。東電広報は「福島を教訓に安全対策を施しています」とアピールしたが、立ち遅れたテロ対策を知った後には全く説得力を感じなかった。
 約2時間の視察中、写真撮影が許されたのは燃料プールだけだった。「福島第1原発の視察よりも厳しい運用ではないか」と問うと、東電広報は「テロ対策のため、ご理解ください」と繰り返した。早期再稼働に向け、反省の態度を過剰演出しているようだった。

■<地元新潟の受け止め>背信20年、深まる失望 経済界は共生願う
 柏崎刈羽原発では、2002年のトラブル隠しをはじめ以前から不祥事が絶えず(年表)、こうした東電の体質は福島第1原発事故でもあらわになった。地元には度重なる背信行為に不信感が渦巻く一方、原発マネーの恩恵から早期再稼働を望む声も根強い。かつて製油の地として栄え、国のエネルギー政策に長年貢献してきた自負があるからだ。
 21年1月、東電のIDカード不正問題が明るみに出ると、原発反対派の元刈羽村議武本和幸さん(72)は「またか」とあきれ返った。「不正をさせない風土をつくる」「社内の風通しをよくする」。東電幹部が記者会見で並べた謝罪の言葉は、20年前の炉心隔壁(シュラウド)ひび割れ隠しの時と全く同じだった。
 06年には原子炉を冷却する海水の温度データを改ざんしていたことが発覚し、翌年の新潟県中越沖地震後には、発電所海域にある活断層の存在を隠していたことも明らかになった。

■謝罪「日常風景」
 「謝罪は日常風景。体質は変わりようがなく、その都度形を変えて問題が表面化する」。武本さんは再稼働後にも不安を抱く。
 新基準の適合性審査に合格した2基のうち、7号機は20年10月、再稼働に必要な手続きが終了した。残すは地元同意のみとなっていた中での失態は、再稼働容認派にも衝撃を与えた。
 柏崎商工会議所会頭の西川(さいかわ)正男さん(66)はIDカードの不正が発覚した翌月、東電幹部を呼び出し「信頼関係を揺るがしかねない事態だ」と厳しい申し入れをした。「高度な技術を持った会社なのに無頓着過ぎる」。誘致から一貫して原発を推進してきた分、失望は大きかった。

■150億円から半減
 柏崎市近郊では明治時代に石油が噴出し、日本石油(現ENEOSホールディングス)など製油会社の設立が相次いだ。昭和中期に油田が閉鎖し、持ち上がったのが原発誘致だった。1978年に建設が始まると街は活気づき、20代だった西川さんは原発の勉強会に通った。高度な知識を披露する東電に憧れを抱いた。
 国の電源3法交付金は市財政を潤した78~2020年度に計1679億円が交付された。7号機の完成時期には固定資産税を含めた原発マネーが年間約150億円と歳入の3分の1を占めた原発が停止した今は75億ほどに半減し、原発由来のハコモノの維持管理費が財政を圧迫する。
 福島事故後、西川さんは「原子力への風向きが変わった」と感じたが、半世紀にわたり地元経済を支えた東電への信頼は揺るがない。テロの脅威にさらされていたことが分かった今も、「共生していく気持ちに変わりはない」と話す。
 少し前、東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)を視察し「地元同意まで取り付けてうらやましい」との思いを抱いた。「東電も歯を食いしばって頑張ってほしい」と語った。

■桜井雅浩・柏崎市長に聞く「東電は体質改善に努力」「福島復興に再建必要」
 柏崎刈羽原発の核物質防護不備問題で揺れる柏崎市の桜井雅浩市長がインタビューに応じた。東電のずさんな対応を批判する一方、地元経済の活性化には再稼働が必要だと主張。「東電の経営再建は福島第1原発事故からの復興にもつながる」と述べた。

さくらい・まさひろ]1962年、柏崎市生まれ。早大卒。中学・高校教諭を経て、91年から柏崎市議を4期務める。再稼働容認を訴えた2004、08年の市長選は落選。住民意向の尊重など「条件付き」再稼働容認を掲げた16年市長選で初当選し、現在2期目。
 -一連の不祥事をどう受け止める。
 「一言で言うとお粗末。公益企業としての過信やおごりが福島事故を招いたはずで、その体質は直っていなかったということだ。東電の失態を見過ごしてきた私や原子力規制委員会にも責任がある」
 -核セキュリティー改善状況への評価は。
 「東電は最後のチャンスだと努力している。細かな情報も出すようになった。花火大会の翌朝に幹部がごみ拾いをするなど、地域に溶け込む活動にも熱心だ」
 -再稼働への世論は。
 「単純な賛否だけではない。2年半前に実施した市民意識調査では、全基の再稼働が必要と答えた人は6・1%で、直ちに全基を廃炉すべきだという人は19・2%。『限定的に再稼働し、将来は全て廃炉』との意見が6割以上を占めた」
 -市長のスタンスは。
 「福島事故を経てもなお原発は必要で、ただ着実に減らしていくべきだとの立場だ。柏崎は元々、石油が採れ、掘削作業に欠かせない機械金属加工業で栄えた。100年前は石油、この50年は原子力で歩みを進めてきた。もし原発がなければ令和の時代にこの市は存在しなかっただろう」
 -再稼働の意義とは。
 「東電が福島事故の廃炉や賠償を着実に進めるためには柏崎刈羽の再稼働が欠かせない。事故対応には総額22兆円を要し、うち東電は負担分の16兆円を稼ぎ出さないといけない。原発を1基動かせば年間約1000億円の収入が見込める」
 -再稼働で地元経済は好転するか。
 「今も安全対策工事で4000人近い作業員が出入りしている。原発が動けばさらに飲食店などに恩恵があると思う。一方で原発で扱う部品などのうち、地元企業の受注は1割ほどに過ぎず、もっと地元を活用するよう促していく」

■東電は是正命令解除に向けて「あいさつ運動」全力
 柏崎刈羽原発を視察した10月20日、大東正樹副所長ら幹部が取材に応じた。核燃料の移動を禁じる是正措置命令の解除に向けて「あいさつ運動」に力を入れていると説明。「協力企業の作業員とコミュニケーションを図ることが核セキュリティーの向上につながる」との考えを強調した。
 一連の核物質防護不備を受け、東電は2021年9月、生体認証システムの導入や経営層のガバナンス強化など36項目の改善措置を盛り込んだ報告書を原子力規制委員会に提出した。規制委は追加検査を行っており、22年度末を目安に解除が可能かどうか判断する。
 質疑応答では、改善措置の進捗(しんちょく)状況や特に力点を置く項目など多様な質問が飛んだが、大東氏らは幹部が毎朝6時半に正門に並ぶあいさつ運動を繰り返し紹介。「作業員が車の窓を開けてくれるようになった」との成果を示し、かみ合わない応答に記者側が度々いら立っていた