2022年11月10日木曜日

原発事故後に増えた稀少がん=小児甲状腺がん 苦しむ若者がいること知って

 オルタナが「原発事故後に増えた稀少がん、苦しむ若者がいること知って」という記事を出しました。
 福島県には「小児甲状腺がん」と診断された子どもたちが300人もいます。今年、このうち6人が、事故を起こした東京電力を相手取り、「311子ども甲状腺がん裁判」を起こしました。JAMMIN(記事の末尾参照)の山本 めぐみさんが、原告の一人と、裁判を支援する団体に話を聞きました。
 ご承知のように福島県の「県民健康調査」検討委員会「甲状腺検査評価部会」は、この小児甲状腺がん多発に対し、一貫して原発事故による放射に起因するものではないと言い続けています。では何に起因するのかについては、大々的に行った検査による「スクリーン効果」を挙げています。それも確かにあるでしょうが、それが全てだとする委員会の主張には無理があるし、それを証明する義務は委員会にありますが何も行っていません。
 IAEAが早い段階で、福島における被爆量は軽微なので小児甲状腺がんの惧れはないと発表したことが委員会の強気の背景にあるのでしょうが、原発推進機関がどういう根拠でそう言い切ったのかの方が問題です。
 子ども甲状腺がん裁判を起こした6人は、放射能の影響をないことにしたい周囲の雰囲気に抗うために大変な勇気が要ったということでした。それこそはまさに「現代における異常な」事柄に他なりません。
 オルタナの冷静ながら説得力のあるレポートを紹介します。
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原発事故後に増えた稀少がん、苦しむ若者がいること知って
                            オルタナ 2022/11/7
東日本大震災から11年。東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、「100万人に対して年間1~2人の発症」といわれる稀少ながんであるはずの「小児甲状腺がん」と診断された子どもたちが300人もいることをご存知ですか。今年、このうち6人が、事故を起こした東京電力を相手取り、裁判(311子ども甲状腺がん裁判)を起こしました。原告の一人と、裁判を支援する団体の方に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

100万人に1~2人の発症であるはずのがんが原発後、一気に増えた
「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク」は、2022年1月にスタートした「311子ども甲状腺がん裁判」を、啓発や裁判費用のバックアップなどの面で全面的に支えるために、有志によって作られたネットワークです。
「甲状腺に悪性腫瘍ができるのが『甲状腺がん』ですが、若い年代でかかるケースは極めて稀で、15歳以下の小児甲状腺がんは年間100万人に1~2人と言われています」と話すのは、ボランティアグループ「311ally」のメンバー木本(きもと)さゆりさん。
ところが、チェルノブイリ原発事故が起きた1986年以降、旧ソ連地域のベラルーシやウクライナ、ロシアで子どもの甲状腺がんが急増したといいます。
当初は検査によるスクリーニング効果ではないかという議論もありましたが、10年後に原発事故の影響であると認められ、IAEA(国際原子力機関)といった国際機関も、被曝との因果関係を認めています

「小児甲状腺がんは、放射性ヨウ素という放射性物質に起因して発症することがわかっています。2011年に原発事故が起きた後、子どもの甲状腺がんが増えることを警戒して、福島県内ではいち早く、甲状腺がんを早期発見するためのスクリーニング検査が始まりました。その結果、この11年間で300人もの子どもが甲状腺がんと診断されています」
『通常より数十倍の数字で多く見つかっている』という事実に関して、これが原発事故によって放出された放射性物質を体に取り込んだことによるものかどうかという点については現在も意見が割れており、因果関係をめぐって、東京電力とがんになった子どもたちが争っているのが『311子ども甲状腺がん裁判』です」

大規模検査を実施しておきながら、因果関係は認めない
原告側は「原発事故によって被曝したことが原因である」と主張していますが、政府や福島県、また被告の東京電力側は「大規模なスクリーニング検査を行ったことで、本来であれば見過ごされているような、治療しなくていいようながんが見つかってしまっただけ」だと主張しているといいます。
「『過剰診断論』と呼ばれていますが、この裁判の原告は全員、手術を受けていますので、『治療をしなくていいようながん』が見つかったわけではありません」と話すのは、原告の一人であるちひろさん(20代)
「私自身、がんが見つかった当初、その大きさは5mm程度でしたが、気管に近く、少しでも成長したら気管にがんがくっついて全身に転移する可能性がありました。見過ごして検査も手術もしていなかったら、今は生きられていないと思います」

 第45回「県民健康調査」検討委員会公表データ(非営利のインターネット・メディア
  「OurPlanet-TV」のHPから) ↓
 https://news.yahoo.co.jp/articles/d3ee437be2d1d784efe6e7d35df70679eb80b4fe/images/003
「私以外の原告6人のうち4人は再発して、2回以上手術を受けています。中には4回手術を受けている子もいます。肺に転移し、今なお治療を続けている子もいます。この現状を考えると『過剰診断論』はあまりにもおかしいなと思っています」
「そもそも、原発事故後に甲状腺検査に着手したのは国です」と木本さん。
「事故当時18歳以下だった福島県民38万人を対象に、甲状腺がんのスクリーニング検査を行ってきました。この対象者に対し2年ごとに検査を行い、現在は5巡目の検査に入っています。この検査のために毎年30億円ほどの費用をかけていますが、その原資となっている『県民健康管理基金』は、東京電力も損害賠償として支払いをしています」
「つまり、国や東京電力としても『放射線被曝によって、甲状腺がんが増える』ということを前提にスクリーニング検査を始めたのだと思います。それなのに、甲状腺がんがたくさん見つかり出すと『スクリーニング検査をしたから、見つからなくていいがんを見つけてしまった』と言い出すというのは、全く説明がつきません

大学生の時に甲状腺がんが見つかったちひろさん。 「つらいと思ってしまうと本当につらかった」
首都圏の大学に通っていた大学生の時に、甲状腺がんが見つかったちひろさん。「つらいと思ってしまうと本当につらかったから、できるだけ客観的に見るようにしていた」と当時を振り返ります。
「1巡目の検査は、高校生の時に受けました。その時は嚢胞(のうほう)が見つかりましたが、『異常なし』との結果でした。でも2年後に受けた2巡目の検査で、陽性になりました」
「首都圏の大学に通っていて、福島県外でも指定の病院で検査が受けられる仕組みにはなっているのですが、予約できるのは平日の限られた時間だけ。大学の授業の合間を縫って受けることが難しかったので、春休みに福島に帰省したタイミングで検査を受けたんです」
「そうしたら2ヶ月後に『福島県立医大まで2次検査を受けに来てください』という通知が届きました。尿検査や血液検査を受け、さらに注射針で腫瘍の細胞を取って調べる『穿刺(せんし)細胞診』を受けました。細胞診は麻酔をせずに行うので、とても痛かったです」
「通知が来てから確定診断を受けるまでに5ヶ月あって、その間に色々調べたり考えたりして、覚悟していました。被曝による甲状腺がんがどういうものか、自分の命が果たしてどの程度危ないのか、もし甲状腺がんと確定したら、どこの病院で治療を受けたら良いか…。インターネットで調べて、できるだけ客観的に考えるようにしていました」
「『もしかしたら大学も中退しなきゃいけないのかな』と思ったりすると、本当につらさと不安が募る5ヶ月でした。検査の度に大学の授業を休まなければならず、学生だったのでお金もなくて、高速バスで5時間かけて福島医大まで通っていました。あの時は、学業の面でも経済的な面でも大変でした」

  毎日飲み続けなければならない「チラーヂン」の処方箋 ↓
https://news.yahoo.co.jp/articles/d3ee437be2d1d784efe6e7d35df70679eb80b4fe/images/006
「なぜ私が」という怒りや悲しみはないのか、ちひろさんに尋ねました。
「甲状腺がんになったことに対して、『なぜ自分が』という気持ちは、意外とないんです。ただ、チェルノブイリの事例から、原発事故による放射能の影響はわかっていたはずなのに、福島県内では比較的早い段階から『窓を開けても大丈夫』とか『布団を外に干しても大丈夫』といった安全キャンペーンが大々的に行なわれていたことに対する不信感や、オリンピック招致のために、国が『福島は大丈夫』というアピールをしていたことへのいらだちは、自分ががんになる以前から抱いていました」

「気にしすぎ」という風潮の中で声を上げた原告の若者たち
今回の裁判を起こすまでに、なぜ11年もの年月がかかったのでしょうか。
「背景にあるのは、まさに安全キャンペーンの成果です。この11年間、国や県は『放射能がこわいというのは思い込み、風評だよ』『福島原発事故による健康被害は起きないよ』というPRをずっと続けてきました。『原発事故』や『放射能』といったキーワードは、『復興』の足を引っ張るNGワードとされ、抑え込まれてきたのです」
「その結果、健康に不安があっても声をあげることができない雰囲気が作られてきました。甲状腺がんが見つかっても、友だちにも親戚にも学校の先生にも言えず、家族の中で抱え込んでいるケースが少なくないのです」
カナダ在住のカルムくん(13才)からの応援メッセージ。「支援の輪は海外にまで。弁護団原告団はとても心強く感じています」
「皆、『問題ない』と思いたいから、不安から目を背け、心を麻痺させて暮らさざるを得ない。集団トラウマのような状況が起きていると感じます。本当は心配だし不安に感じているけど、だからこそ、それを口に出すことがタブーになっている」
「その結果、実際に被害に遭っている患者が声を上げづらい状況がどんどん作られてしまったところがあります。患者や家族は差別や偏見を恐れ、誰にも分からないように息を潜めて暮らし、そして周りから隠れてひっそりと病院に通うという、グロテスクなことが起きている。そんな困難な状況にありながら今回、10~20代の7人の原告が声を上げました
「相手は東京電力です。皆若いですし、そこには大きな覚悟があったと思います。差別と偏見がある中で、プライバシーや安全は守られるのか、さまざまな不安があったと思いますが、勇気を持って立ち上がってくれたのです」

「配慮されなければいけないはずの子どもたちが、いちばん配慮している」
裁判の原告をモチーフに作られた7匹のひよこは、原告がデザインした。「判決までの間、裁判を応援してくださるサポーターを募集中です。2023年1月25日までに、311人の応援サポーターを集めたいと考えています」
「私の場合は甲状腺を片方だけ摘出していますが、原告のメンバーの中には、全摘してホルモン補充のために薬をずっと飲み続けなければならない子や、発症からすでに4回もの手術を受けている子もいます。この先、再発や転移の不安を感じながら生きていかなければなりません」とちひろさん。
「本来なら皆から心配され、応援されるべき子どもたちが、『被曝は関係ない』とか『検査のしすぎで見つかっただけ』などと検証もせずに決めつけられて、やり場のない気持ちを本人が周りに気を遣って、黙って耐え続けているというのが実態です」と木本さん。
「たとえその原因が『過剰発生』であろうが『過剰診断』であろうが、がんに罹患し、手術している子どもたちがいる事実は変わりません。そのことを国や県は認めて配慮しなければならないのに、公の場でそう言う人が誰もいません」
「まずシンプルに、原告に思いを馳せてほしい。こういう子どもたちが実際にいるんだということをまず知って、『この問題が一体何であるのか』ということ、『どこに問題があるのか』を、素直な心で見てもらえたらと思っています」

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。