2022年11月29日火曜日

原発の最大限活用へ経産省が行動計画案 政府方針明確に転換

 経産省は28日、オンラインで開かれた経済産業省の審議会で、次世代型の原子炉の開発を、廃炉となる原発の建て替えを念頭に進めることや、福島第一原発の事故を受けた法改正により導入され最長60年との運転期間上限は維持しつつ、審査などによる停止期間を除外するなどとした、行動計画の案を示しました。
 これは11年前の原発事故後歴代の政府がとってきた方針を明確に転換する内容で、原発の新設や増設、建て替えに踏み込む内容です。政府が方向転換した理由は、原則40年、最長60年というルールに従うと国のエネルギー基本計画で脱炭素社会の実現に向けて30年時点で電源構成のうち原子力発電の占める割合は20から22%程度を目指すとしていることから大きく外れるためですが、それは30年時点で原発30基を稼働させるという基本計画に元々無理があったからで、それを維持するためというのは本末転倒です。
 原発が脱炭素に資するというのは欺瞞であり、再生エネを拡大するしかありません。太陽光発電などは夜間に発電できないからというのを口実にしていますが、それは海外のように十分な容量の蓄電基地を要所に設ければ済むことで、その費用は原発の再稼働にトータル4兆8000億円を投じていることに比べれば容易に実行できることです。
 原子力政策に詳しい長崎大学教授の鈴木達治郎委員は、今回の行動計画の案について「明らかに『原子力回帰』で、2050年までは原発を間違いなく使い続けるという宣言だ。長期的に見てすべて必要なことかというと説明ができていないと思う。なぜいま維持、拡大するのか説明が必要だ(要旨)」と指摘しています。
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原発の最大限活用へ経産省が行動計画案 政府方針明確に転換
                    NHK NEWS WEB 2022年11月28日
政府が掲げた原子力発電の最大限の活用に向けて、経済産業省は、次世代型の原子炉の開発を、廃炉となる原発の建て替えを念頭に進めることや、最長60年と定められている運転期間から、審査などによる停止期間を除外するなどとした、行動計画の案を示しました。11年前の原発事故のあと政府がとってきた方針を明確に転換する内容で、大きな議論を呼ぶことが想定されます。
これは28日、オンラインで開かれた経済産業省の審議会で示されました。
この中では、安全対策などに新たな技術を取り入れた次世代型の原子炉の開発を、廃炉となった原発の建て替えを念頭に進めるとしています。
これは、原発事故のあと政府が繰り返し「想定しない」と説明してきた、原発の新設や増設、建て替えに踏み込む内容です。
また、現在の法律で最長60年と定められている原発の運転期間については、上限は維持しつつ、原子力規制委員会による審査や裁判所による仮処分命令などで、運転を停止した期間を例外として除外することで、実質的に60年を超えて運転できるようにするとしています。
原発の運転期間の制限は、福島第一原発の事故を受けた法改正により導入されましたが、それを再び見直す案です。
経済産業省は、審議会の議論や与党との調整などを踏まえて、正式な行動計画を近く取りまとめ、年内にも開かれる脱炭素社会の実現に向けた政府会議に報告することにしています。
ただ、いずれも11年前の原発事故のあと政府がとってきた方針を明確に転換する内容で、必要な法改正などに向けて大きな議論を呼ぶことが想定されます。

次世代型の原子炉とは
政府は今よりも安全性や経済性が高い次世代型の原子炉として、大きく5つのタイプの原子炉の開発や建設を検討するとしています。
このうち、最も早い2030年代の実用化を目指しているのが、今ある原発をベースに安全対策などの技術を改良した「革新軽水炉」です。
三菱重工業と大手電力会社4社は、共同で開発を進めていて基本設計の8割ほどは完了しているとしています。
また、日本原子力研究開発機構は「高温ガス炉」を開発しています。
燃料の冷却に水ではなくヘリウムガスを使うことで、950度の高温の熱を取り出すことが可能で、発電のほかに熱利用や水素の製造を目指しています。
このほかの次世代炉には「小型軽水炉」や「高速炉」、夢のエネルギーとされる「核融合炉」が挙げられていますが、タイプによって開発段階はまちまちです。
実際に導入するには、技術的な面だけでなく、開発や建設にかかるコストを誰がどう負担するのかなど、社会的な合意が必要な課題も多く残されています。

背景に原発の規模維持へ懸念
経済産業省が、原発の運転期間の延長や建て替えの推進を検討する背景には、現在の設備と法制度のもとでは、中長期的に必要とされる発電規模を維持できるかどうか不透明だという事情があります。
去年策定された国のエネルギー基本計画では、脱炭素社会の実現に向けて、2030年時点で電源構成のうち、原子力発電の占める割合は20から22%程度を目指すとしています。
これを賄うには、おおむね30基前後の原発が必要で、国内に33基ある原発がすべて稼働すれば実現可能とされています。
しかし、半数を超える17基は、すでに運転開始から30年以上が経過し、40年を超える原発も4基あるため、仮に建設中のものも含めすべての原発が60年まで運転したとしても、2030年代から設備容量は減り始め、2040年代からは大幅に減少していくことになり、2050年の実現を目指す脱炭素社会への貢献は限定的になります。
このため政府は、既存の原発を実質的に60年を超えて運転できるようにすることや、廃炉になる原発を次世代原子炉に立て替えることで、原発の発電規模を維持したい考えです。

原発廃炉の現状は
行動計画の案では、次世代型原子炉の開発にあたって、廃炉になった原発の建て替えを念頭に置くとしましたが、国内では東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、原発への依存度を下げる政府方針や、新たな規制基準への対応などを背景に廃炉の決定が相次ぎました。
原発事故の前、国内には54基の原発がありましたが、事故のあと、福島第一原発の6基と福島第二原発の4基をはじめ、運転開始から40年を超えていた福井県にある日本原電・敦賀原発1号機や、関西電力・美浜原発1号機など合わせて21基の廃炉が決定されました。
現在、国内の原発は33基となっていて、別に3基が建設中です。

原子力の課題への対応は
行動計画の案では、長年積み残されてきた使用済み核燃料の取り扱いや、放射性廃棄物の処分といった課題についても、対応を加速させるとしています。
国は使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムを、再び原発の燃料として使う「核燃料サイクル」を推進していますが、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は完成時期が見通せず、プルトニウムを含む燃料を一般の原発で使うプルサーマルも計画どおり進んでいません。
さらに、再処理工場が稼働しないため、全国の原発では使用済み核燃料がたまり続けていて、貯蔵プールがいっぱいになり運転できなくなるおそれも指摘されています。
行動計画の案では、再処理工場の完成に向けて国が指導し、産業界を挙げて支援するとしたほか、プルサーマルの実施に協力する自治体を対象に、新たな交付金を設けるなどとしています。
また、北海道の2町村で文献調査が進められる高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの処分地選定については、シンポジウムを開くなどして全国での理解活動を強化するとしています。
しかし、長年積み残されてきた課題をこうした取り組みで解決できるかなどについては、これまでの審議会でほとんど議論されていません。

審議会委員の意見は
経済産業省が示した案に対して、審議会の委員からは、脱炭素社会の実現や電力の安定供給の観点から、おおむね理解を示す意見が多く出た一方で、具体的な政策の実現には国民の理解が前提になるとして、丁寧な説明を行うべきとする意見や、現時点では国民の理解を得るだけの議論や、コミュニケーションが足りていないとして、案の取りまとめに反対する意見も出されました。
このうち、経団連から参加している、小野透委員は「停滞してきた原子力政策を前に進める点では大きく評価したい。ただ、どの政策も国民への理解が大前提になるので、運転期間の延長が必要なことや、安全性が規制機関によって確保される点について明確な説明が必要だ」と述べました。
また、廃炉を決めた原発や運転期間が40年を超える原発が立地する福井県の杉本達治知事は「原子力の将来の規模と、それを確保するための道筋を明確にするよう求めてきたが、具体的にどのように次世代原子炉の開発や建設を進めるのか示してほしい」と述べました。
原発に批判的な立場から政策提言を行っているNPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「福島の教訓を放棄する内容で到底賛同しかねる。エネルギー基本計画で定めているとおり、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、原発依存度を可能なかぎり低減する方法を考えるべきだ」と述べました。
このほか、消費生活アドバイザーでつくる団体から参加している村上千里委員は「時間をかけて議論していくべき問題だとの指摘が出ている中、拙速に結論を出そうとしていると見える。『国民とのコミュニケーションの深化』を掲げるならば、1年程度は時間をかけて議論するべきだ」として、現時点での取りまとめに反対する意見を述べました。

専門家「明らかに原子力回帰」
原子力委員会の元委員長代理で、原子力政策に詳しい長崎大学の鈴木達治郎教授は、今回の行動計画の案について「明らかに『原子力回帰』と言っていい、原子力をさらに維持拡大していく2050年までは間違いなく使い続けるという宣言だ。脱炭素とウクライナ情勢を踏まえた電力危機への対応として説明されているが、長期的に見てすべて必要なことかというと説明ができていないと思う。一般の国民は原発の依存度を少しずつ縮小していくイメージを持ってきていると思うが、今回の案はそれと逆行していると思われ、なぜいま維持、拡大するのか説明が必要だ」と指摘しています。
また、今回の案に原子力政策が抱える使用済み核燃料などの課題への対応が盛り込まれた点についても、「高レベル放射性廃棄物や福島第一原発の廃炉で出る廃棄物をどうするのかなど、国レベルできちんと議論しなければいけないが、全くされていない」と話しています。

松野官房長官「まずは審議会での議論に期待」
松野官房長官は、午後の記者会見で「現時点で経済産業省として何らかの方向性を決定したものではなく、引き続き審議会で議論が続けられると聞いている」と述べました。
そのうえで「原子力政策については『GX=グリーントランスフォーメーション実行会議』での岸田総理大臣の指示を踏まえ、年内を目途に専門家に議論していただき、政府の今後の方針を明らかにしていくこととしており、まずは審議会でさまざまな観点から議論が深められることを期待したい」と述べました。

全原協会長 “安全確保を大前提に要請に沿った議論を”
原発が立地する自治体で作る全原協=全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を務める福井県敦賀市の渕上隆信市長は、28日に示された行動計画の案についてコメントを出しました。
この中では、「全原協として既存の原発の最大限の活用や次世代革新炉の開発・建設などについて安全確保を大前提に検討を行うよう求めてきたところであり、我々の要請に沿った議論が進められていると認識している。引き続き、立地地域の意見を踏まえて議論を進め、国として明確で力強い原子力政策が示されることを期待する」としています。