2019年9月22日日曜日

東電旧経営陣3人無罪判決に 原告団、福島県民は納得しない

 東電旧経営陣3人をいずれも無罪とした19日の東京地裁判決を受け、被害者代理人や福島原発告訴団は不満をあらわにしました。
 20日付の河北新報は、判決に対する反響を報じる4つの記事を出しました。
 以下に紹介します。
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東電旧経営陣3人無罪 福島県民納得しない 告訴団非難
  河北新報 2019年9月20日
 「福島県民は納得できない」「原発を動かすのに高度な安全性は要らないのか」
 東電旧経営陣3人をいずれも無罪とした19日の東京地裁判決を受け、被害者代理人や福島原発告訴団は不満をあらわにした。
 
 「司法の歴史に汚点を残す判決だ」。被害者代理人の海渡雄一弁護士は記者会見で語気を強め、控訴を求める考えを示した。判決が国の地震発生予測「長期評価」の信頼性を認めず、大津波の予見可能性を否定した点を「多くの学者や技術者らが法廷で語った内容と大きく異なり、信用できない判断だ」と非難した。
 原発事故を招いた刑事責任が問われた初の裁判。3人が強制起訴され、公判が開かれた意義について海渡弁護士は「(安全対策の見送りを示唆する)東電内部の会議録や幹部のメールなど、闇に葬られていたはずの証拠を社会に示すことができた」と評価した。
 同席した武藤類子告訴団長(66)=福島県三春町=は「福島の被害に真摯(しんし)に向き合っていない」と強調。「こんなに証拠や証言を尽くしても、有罪にならないなんて…。事故の反省を社会が生かすことを阻む判決だ」と涙ながらに訴えた。
 
 
東電旧経営陣3人無罪 暮らしを破壊 傍聴席驚きと怒り
  河北新報 2019年9月20日
 東京電力福島第1原発事故の刑事責任を巡り、東京地裁が東電旧経営陣の3人に無罪を言い渡した19日、法廷の傍聴席からは驚きの声が響き、被告らは硬い表情で判決を聞いた。世界に類を見ない被害を招き、住民の当たり前の暮らしを破壊した原発事故は防ぐことができなかったのか。多くの死傷者を出した責任は問われず、被災地の住民は「残念だ」とうなだれた。
 
 福島第1原発事故の刑事責任の有無を巡る初の判決。勝俣恒久元会長(79)ら東電旧経営陣の3人はいずれもスーツ姿で、一礼して法廷に足を踏み入れた。
 「うそだっ」。主文の読み上げが始まると、満員の傍聴席から叫び声が上がった。傍聴人の視線がおのずと勝俣元会長、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69)に集まる。しかし3人は表情を変えず、真っすぐ前を見詰めた。
 午後1時15分に始まった判決読み上げは休廷を挟み、3時間強の長丁場となった。武黒、武藤両元副社長がしきりにメモを取ったり資料に目を通したりするのとは対照的に、勝俣元会長は裁判長に顔を向けて判決理由に耳を傾ける時間がほとんどだった。
 「間違ってる、こんな判断」。閉廷後も怒りが渦巻く傍聴席に、3人は一度も目をくれることなく足早に法廷を後にした。
 
■「原子力行政」を忖度
 石田省三郎指定弁護士は19日、東電旧経営陣に対する無罪判決について「国の原子力行政を忖度(そんたく)した」と指摘。「原発に絶対的な安全性までは求められていないと判断したのはあり得ない」と話した。
 「有罪に持ち込めるだけの論証をした」とした石田氏は「万が一にも事故は起きてはならないという発想があれば、このような判決にはならなかった」と語った。
 
■迷惑掛け申し訳ない
 東電旧経営陣3人は19日の無罪判決後、「事故により多大な迷惑を掛けて申し訳ない」とするコメントを出した。
 勝俣恒久元会長は「東電の社長・会長を務めていた者として改めておわびする」と謝罪。武黒一郎元副社長は「事故で亡くなった方々や負傷した方々にお悔やみとお見舞いを申し上げる」、武藤栄元副社長は「当時の東電役員として改めて深くおわびする」とした。
 
 
東電旧経営陣無罪 東電「コメントしない」 具体的な評価避ける
     河北新報 2019年9月20日
 東京電力福島第1原発事故を巡る東電の旧経営陣公判で被告3人が無罪判決を言い渡されたことを受け、同社と東北電力、内堀雅雄福島県知事は19日、それぞれ談話を出した。
 
 「コメントを差し控える」とした東電の談話は主文の言い渡し直後、文書で発表された。福島県民らに謝罪の思いをつづったが、判決に対する具体的な評価は避け「福島復興を原点に、原発の安全性強化対策に不退転の決意で取り組む」と記載するにとどめた。
 第1原発構内で同日あった廃炉作業の定例記者会見でも広報担当者が同じ談話を読み上げただけで、肝心な質問には「回答を控えさせていただきたい」と繰り返した。記者から「『誠心誠意、全力を尽くす』という談話を出しながら真心が全く見えない」と追及される一幕もあった。
 社内では「3人無罪」を予想する社員が大方を占めていたとみられる一方、複雑な思いで判決を受け止める社員もいた。
 
 ある社員は取材に「10年以上前に経営者が15メートル超の津波が襲来することを想定し、すぐに対策を講じることは難しかっただろう」と釈明しつつも「原発事故の道義的責任が会社にあることに変わりはない。復興に取り組むことで責任を果たしていきたい」と話した。
 いずれも福島第1原発と同じ沸騰水型炉の女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)、東通原発(青森県東通村)の再稼働を計画する東北電力は「司法の場で下された判断であり、当事者でもないことからコメントは差し控えたい」とした。
 内堀雅雄福島県知事も談話を出したが、判決への論評は避けた。東電が進めている福島第1、福島第2両原発の廃炉に関し「あらゆるリスクを想定し、県民の安全・安心を最優先に着実に進めてほしい」と改めて要望した。
 
 
福島被災者ら落胆「責任逃れだ」「対策できた」「支援今後も」 東電旧経営陣無罪
        河北新報 2019年9月20日
 東京電力旧経営陣公判で3人全員に無罪判決が出た19日、東電福島第1原発事故に伴う避難生活や風評被害に苦しむ福島県の被災者は怒りや落胆を隠さなかった。「無罪で終わりでない」。刑事裁判の高いハードルを複雑な思いで受け止め、事故の教訓の継承や被災者支援の継続を求めた。
 
 「あり得ない。人災なのに責任逃れだ」。浪江町から南相馬市に避難する主婦鶴島孝子さん(61)は絶句した。「長期の避難で家族はばらばらになり、いっときも安らげなかった。一生引きずっていかなければならないのか」と憤った。
 郡山市から青森市に避難する主婦(38)は「自主避難では家族の人間関係がぎくしゃくし、つらい思いをした。『原発事故さえなければ』との思いは強い。刑事責任が認められず、残念だ」と語った。
 
 厳格な立証が求められる刑事裁判の限界を指摘する声も出た。
 全町避難が続く双葉町から埼玉県加須市に避難する菅本章二さん(63)は「刑事責任を問えるほど巨大津波を具体的に予見できなかったとの判断はやむを得ない。ただ、何らかの津波対策はできたのでないか。教訓にすべきだ」と話した。
 「なぜ事故が起きたのかを解明してほしかった」と残念がるのは、会津若松市でホテルを経営する山崎捷子さん(80)。市内の教育旅行は事故前の8割しか回復せず「無罪だからといって避難者支援や風評被害対策をおろそかにしてはならない」と東電や国に注文した。