2021年12月4日土曜日

遮水壁温度上昇 原因究明と対策急げ

 福島第一原発の建屋周辺の地盤を凍らせ、汚染水増加の原因となる地下水流入を抑える「凍土遮水壁」の一部で温度上昇が続いています。このまま凍土壁が解けて機能を失うことになれば、再び汚染水増加するので早急に原因を究明し、必要な対策を講じるべきですが、東電の対応は極めて遅く問題だと、福島民報が「論説」で述べました

 福島原発のデブリの冷却は、完全クローズ(ド)システムで行われる設計になっているのですが、実際には格納容器の下部に亀裂が出来ているため、そこから地下水が侵入し冷却水と混じりその分連続的に増加します。格納容器の下部が水浸しになるのを防ぐためには流入分を引き抜く必要があり、それがいわゆるトリチウム汚染水が発生している理由です。
 もしも凍土遮水壁が完全なものであれば、建屋周囲の地下水の水位を格納容器内の水位まで下げることができて、地下水の侵入を止められる(実際には限りなくゼロに近づける)ので汚染水の発生量をほぼゼロに近づけられます。しかし凍土遮水壁は完成した時点から凍結しない部分が残ったため、結局地下水の流入を止められなくなって、現在のような100万トン以上もの膨大な汚染水が溜まる状況に至ったのでした。
 その不完全な遮水壁にさらに穴が開くようだと流入量がその分増えるので、問題は一層深刻化します。福島民報が指摘する通りです。
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(論説)【遮水壁温度上昇】原因究明と対策急げ
                           福島民報 2021/12/03
 東京電力福島第一原発の建屋周辺の地盤を凍らせ、汚染水増加の原因となる地下水流入を抑える「凍土遮水壁」の一部で温度上昇が続いている。東電は「遮水機能は維持されている」としているが、氷の壁が解けて機能を失う事態になれば、再び汚染水の増加につながりかねない。早急に原因を究明し、必要な対策を講じるべきだ。
 凍土遮水壁は、1号機~4号機の建屋を取り囲むように約一・五キロにわたって配管を埋め、地盤を凍らせて地下水の流入を止める仕組みで、汚染水対策の切り札として二〇一四(平成二十六)年六月に大規模工事が始まった。二〇一八年九月に全ての地盤の凍結が完了してから、まだ三年しかたっていない。建設には約三百五十億円の国費が投じられた。
 温度が上がっているのは4号機南西側の凍土壁と排水路が地中で交差する地点で、八月二十七日以降、氷点下から上昇し、十一月中旬には一三・四度に達した。県原子力安全対策課の現地調査で、凍土壁の外側で一部の壁が解けている状況が確認された。
 温度上昇は八月下旬から始まっていたが、東電が公表したのは十月二十八日で、凍土壁内側の掘削調査を行ったのは十一月に入ってからだ。風評被害を受けている本県の復興にとって汚染水対策は最重要課題の一つであることを考えれば、あまりにも対応が遅すぎると言わざるを得ない。
 福島第一原発では、事故発生から十年が過ぎた今も一日当たり百四十トン前後の汚染水が発生し、それを多核種除去設備(ALPS)で浄化した後の放射性物質トリチウムを含んだ処理水も増え続けている。凍土遮水壁に加え、建屋山側で地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」、建屋付近の地下水を浄化して海に放出する「サブドレン」などの対策で、二〇一五年度(一日約五百トン)に比べれば汚染水の発生量が三割程度にまで低減されたとはいえ、ゼロにはできないままだ。
 重層的な対策で辛うじて一定程度に抑えられているだけで、どれか一つでも機能不全に陥れば、汚染水が増加するのは素人目に見ても明らかだ。現に台風など雨が多い時期には汚染水の発生量が増加する傾向にある。
 政府は放射性物質トリチウムを含んだ処理水を海洋放出する方針を決め、風評抑止対策に万全を尽くすとしているが、汚染水を出さないことが大前提であることを忘れてはならない。抑止どころか拡大を招かぬよう、対策を急がねばならない。(紺野正人)