2020年4月8日水曜日

トリチウム汚染水の処分 地元は慎重な意見多く

 トリチウムを含む処理水の処分方法を巡り、政府は6日、福島市で県や市町村、業界団体から意見を聞く会合を初めて開きました会には福島県や県漁連など7団体の10人が出席しました。
 NHKが福島市での会合の発言内容を詳しく報じました。
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トリチウムなど含む水の処分 地元は慎重な意見多く 
NHK NEWS WEB 2020年4月6日
福島第一原子力発電所にたまり続けるトリチウムなどを含む水の処分方法について、国が地元、福島県の関係者の意見を聞く初めての会が6日、開かれ、参加者からは、風評被害の懸念から海や大気中への放出の実施に慎重な意見が多く出されました。
福島第一原発では、汚染水を処理したあとのトリチウムなどの放射性物質を含んだ水が、現在1000近くのタンクにおよそ120万トンためられていて、国の小委員会は、基準以下に薄めて海か大気中に放出する方法が現実的との報告書をまとめています。
これについて政府は、地元などから意見を聞いたうえで最終決定するとしていて6日、福島市で初めて開かれた会には県知事をはじめ、商業や水産関係などの7つの団体や組織の代表が参加しました。
参加者からは海や大気中に放出することによる風評被害を懸念する声が多く上がり、福島県漁連の代表は「若い漁業者になりわいを残していくためにも海への放出には反対だ」と述べました。
また、賛否は明らかにしないものの「基準以下にすれば安全というなら、福島県以外でも放出を議論すべき」とか、「国民の理解が進んでいない段階での放出は大きな風評被害が懸念される。貯蔵を続け結論を急ぐべきではない」などの意見が出されていました。
一方、風評などの損失の補償を徹底する前提で、将来世代に課題を残さないためにも、県内での放出に理解を示す意見も一部出されていました。
政府は今月13日にも福島県内で意見を聞く会を開催する予定です。

知事 処分方法について意見述べず 
6日の意見を聞く場で、福島県の内堀知事は国と東京電力に対し、農林水産業や観光に影響を与えることのないよう、関係者の意見を聞いて慎重に対応するよう求めましたが、処分方法についてみずからの意見は述べませんでした。
この中で内堀知事は、漁業や農林業、それに、教育旅行や観光などには原発事故による風評の影響が大きく残っていると述べました。
そのうえで、トリチウムが雨水や海水などにも含まれていることや、国内外の原発などから海に放出されていることが、国民に正しく理解されていないと述べ、こうした状況では、福島県への風評が上乗せされる可能性があると指摘しました。
そして、国と東京電力に対し、特に漁業に対する風評対策や、トリチウムに関する正確な情報発信に取り組み、関係者の意見を丁寧に聞いて慎重に対応することを求めました。
一方で、処分方法についてみずからの意見は述べませんでした。福島県はこれまでも明確な立場を示しておらず、内堀知事の発言が注目されていましたが、6日も言及することはなく、報道陣の取材にも応じませんでした。

宿泊業の団体 補償求めたうえで海への放出支持 
福島県内およそ530の宿泊業者で作る県旅館ホテル生活衛生同業組合の小井戸英典理事長は、トリチウムなどを含む水の処分で発生する損害を補償するよう求めたうえで、観光への影響が比較的抑えられるなどとして、海への放出を支持する方針を表明しました。
小井戸理事長は、はじめに、トリチウムなどを含む水が海か大気中に放出されれば、それを嫌う人が福島県に観光に来なくなるのは当然だと指摘し、「宿泊業がこうむるのは、風評被害ではなく実害だ」と強く訴えました。
そして、どんな処分方法でも、旅館やホテルなどの損害は避けられないとして、前例のない形で徹底して補償するよう求めました。
一方で、この水の処分については、将来世代への問題の先送りや他県への押しつけを避けるために県内で処分するのが道義的だという考えを示し、「観光的な影響が比較的狭い範囲に抑えられる」として、組合の総意として海への放出を支持する方針を明らかにしました。
小井戸理事長は、報道陣の取材に対し、「非常に苦渋の決断だった。どういう処分であっても被害は出るので、国には補償の対応をしっかりとお願いしたい」と話していました。

県商工会議所連合会「時間かけて説明を」 
福島県商工会議所連合会の渡邊博美会長は、トリチウムを含む水が放出された場合、風評が深刻化するのを懸念しているとして、国や東京電力が、時間をかけて水の安全性や影響を国内外に説明していくことを訴えました。
国の聞き取りに対し渡邊会長は、「原発事故から9年がたっても浜通りを中心に漁業関係や加工関係などの職種で失った販路を取り戻すのが困難な状況が続いている。処理水の処分に関しては、事故の当事者の東電、国が責任を持って対処する覚悟を示す必要があり、被害など影響があれば、補償なども含めて将来にわたって対処することの表明も必要だ」と述べました。
また、聞き取り後の取材に対しては「トリチウムを含む水の処分に関しては場合によっては風評被害が深刻化することが懸念されている。そのため国には、海洋放出などを急ぐのではなくタンクを増設するなどしたうえで、もっと広い範囲の住民に意見を聞き、消費者が安全性を理解したうえで処分方法を決定してほしい」と話していました。

県森林組合連合会「放出に強く反対」 
双葉地方森林組合の組合長で福島県森林組合連合会の秋元公夫会長は、海や大気中に放出する処分方法は販売先との信頼関係が失われ、森林が荒廃することも懸念されるとして強く反対しました。
秋元会長は、国からの聞き取りに対し、「原発事故からの復興が着実に進んでいる中で新たに放射性物質を大気中や海洋に放出することは反対だ。これまで構築してきた販売先との信頼関係が無くなるのではと心配している。森林の所有者たちが整備する意欲を失って、森林の荒廃を招き、災害が起きやすくなることも懸念される」と述べました。
その後の取材に対しては「双葉郡ではまず住民が帰ることが求められている中で、新たな放出となると双葉郡そのものがなくなってしまうのではと心配している。風評被害が落ち着いたところであり、国としては十分に考えて住民が戻ることを念頭に対応してほしい」と話していました。
そのうえで、議論の在り方として「安全なものであるならば全国の知事や国民の意見を聞くべきであり、双葉郡だけが福島県だけが責任を持つようでは考えがあまいと思う。全体の意見を聞く必要がある」と話していました。

町村会「全国各地で意見聴取を」 
福島県町村会の会長で北塩原村の小椋敏一村長は「処分方法については、福島県内だけではなく、全国各地で意見を聞いたうえで、国が責任を持って決めてほしい」と述べました。
そのうえで、県内の農林水産業や観光業への風評がさらに広がることのないよう実効性のある具体的な対策を求め、「トリチウムがどういうものかや処分方法の安全性について、分かりやすく説明し、国民の理解を得られるように情報を伝えてほしい」と述べました。

県漁連「全国の漁業者の意見を」海への放出には反対 
県内の漁業者の代表として出席した、福島県漁連の野崎哲会長は海への放出に改めて反対したうえで「海には県境がない」と述べて、福島だけでなく全国の漁業者の意見を聞くよう要望しました。
福島県沖の海では、震災と原発事故のよくとしから放射性物質の検査を続けながら試験的な漁を行っていますが、販路が失われたことや、根強い風評被害の影響などから、去年の水揚げは震災前のおよそ14%にとどまっています。
6日意見を聞く場に出席した野崎会長は、福島の漁業の現状について、ことし2月にすべての魚介類の安全性が確認され、これから水揚げを増やそうとしている時期だと説明しました。
そのうえで、震災後に担い手となった若い漁業者になりわいを残していくためにも海への放出には反対していくと主張しました。
また、「海には県境がなく、意図的なトリチウムの放出を福島県の漁業者だけでは判断できない」と述べ、全国の漁業者の意見を聞くよう要望しました。
野崎会長は取材に対し「例えば茨城県の漁業者からも絶対に反対という声が聞こえてきている。消費者の理解がどう進むのか不安なので、漁業者の全国組織とも連携して反対することも検討したい」と話していました。

相馬地方の自治体トップは 
原発事故で被害を受けるなどした相馬地方市町村会の自治体のトップも参加し、飯舘村の菅野典雄村長はトリチウムを含む水の処分について、「もし本当に議論する時間がないとするならば、国は腹をくくったうえで、早めに結論を出し、安全性の確保や賠償・生活保障の議論を進めていくのが大切ではないかと感じている」と述べました。
また、南相馬市の門馬和夫市長は、「風評被害への対策や安全性への説明が不十分など感じている。その理解を十分得られるよう一層の努力を求めるとともに時間がかかる場合は、貯蔵タンクの増設なども検討したうえで、期限ありきではない対応をお願いしたい」と述べ、慎重な検討を求めました。
また漁港を抱える新地町の大堀武町長は、「処分方法や実施時期は安全性や風評被害を十分に検討して決めるべきで、漁業関係者の理解を得たうえで進めるべきだ」と述べました。
そのうえで、「処分にあたってはIAEAの立ち会いなどを含め透明性の確保が必要だ。併せて風評被害対策を提案するとともに、漁業関係者の補償や支援、振興策に、国が全責任を持って対応してほしい」と話していました。
相馬地方市町村会の会長で全国市長会の会長でもある相馬市の立谷秀清市長は、科学的な根拠に基づいて国が関係者の合意を得たうえで判断すべきと指摘しました。
立谷市長は、「相馬市は沿岸漁業の拠点である漁港があり、これまで極めて被害を受けてきた。トリチウムを含む水の扱いによっては、さらなる被害も懸念される」と述べた一方で、「処理水の保管に物理的に限りがあるのは明白で国が科学的な根拠に基づいて漁業や観光業者など広く関係者の意見を踏まえて処分方法を判断すべきだ」と話しました。

経産副大臣「政府としてどこかで判断必要」 
意見を聞く会の座長を務めた松本経済産業副大臣は「本日伺った意見も含め、引き続き幅広い関係者の意見をしっかりと伺ったうえで処理水の取り扱いについて政府として責任を持って結論を出したい」と述べました。
ただ、寄せられた意見をどのように処分方法に反映するかや、反対する関係者と合意形成を図るのかについては、決まっていないと述べました。
一方で、「処理水をためるタンクの容量や廃炉作業を進める原発構内の敷地の問題など、物理的な制約があるのも事実で、政府としてどこかで処分方法を判断をしなければならず、丁寧に意見を聞きながら進めたい」と述べました。

専門家「意見聞く対象の全体像を早期に示すべき」 
関係者から意見を聞く会の開催について、原子力と社会との関係に詳しい東京電機大学の寿楽浩太准教授は、トリチウムを含む水の処分を巡って誰から意見を聞くべきか、対象が明確に示されていないとして、「こうした難しい合意形成の際には、どんな範囲の人にどう関与してもらって議論を進めるかという見通しを共有する必要があり、それなしには物事はうまく進まない。近隣地域の関係者や全国の消費者が状況を了解して社会全体の支持を得ながら進めていくことも必要で、意見を聞く対象の全体像を早期に示すべきだ」と話しています。
また、政府の最終決定に、集めた意見をどう反映するかなどの進め方についても「関係者の間でも意見は異なる。政府は、こうした意見をどう聞いて、どんな手順で決定につなげるのか明らかにして、お互いに納得できるような形で進めるべきだ」と述べました。

漁業の専門家「漁業者は到底納得できない」 
6日福島市で開かれた地元関係者から意見を聞く会では、海に放出した場合の放射性物質の拡散予測も資料として示されました。
これについて福島県の漁業に詳しい北海学園大学経済学部の濱田武士教授は、東京電力の予測の図がキロ単位で示されていることについて触れ、「放出口周辺の影響を見るにはより細かい単位の詳しい予測が必要で、放出の場所もいろいろ考慮されるべき。このレベルでは漁業者などは到底納得できないと思う。風評を最小限に抑えることが目的であれば、国民や消費者が納得できるような科学的根拠に基づいた十分に細かいデータが求められる」と指摘しています。