2019年6月8日土曜日

08- 中通り原発集団訴訟 住民側提案で和解勧告に

 福島県中通り地方の住民52人が集団提起した損害賠償請求訴訟で、5月28日、福島地裁は住民、東電の双方に和解勧告することを決めましたが、それは原告側が望んだもので、訴訟に疲れた住民側が「心身ともに限界」に達したという面がありました。
 河北新報が続報を出しました。
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福島 中通り原発集団訴訟> 
住民側提案で和解勧告「消耗戦」心身ともに限界、苦渋の選択
河北新報 2019年06月07日
 東京電力福島第1原発事故を受け、福島県中通り地方の住民52人が集団提起した損害賠償請求訴訟で、福島地裁は住民、東電の双方に和解勧告することを決めた。原発事故後、各地の住民が提起した集団訴訟で和解勧告が出るのは極めて異例。住民側が望んだ勧告で、事故から歳月を経た中での苦渋の選択だった。(福島総局・斉藤隼人)
 
<多くは安堵の声>
 会議室に女性のすすり泣く声が響いた。
 「毎日不安だったが、頑張ってきて良かった…」
 勧告方針が示された5月28日、住民約20人が福島市民会館に集まった。「これからは穏やかに暮らしたい」「正直ホッとした」。率直な思いを次々打ち明け、その多くは安堵(あんど)感だった。
 
 住民は2016年4月に提訴。訴訟終盤の今年3月、地裁に「和解勧告してほしい」と訴えた。裁判を起こした原告側から「和解を」と切り出すのは一見、真意が分かりにくい。
 通常、和解は裁判官が「この事案は話し合いで解決できそうか」を見極め、提案することが多い。原発集団訴訟で和解勧告した例が他にないのは、東電に対する峻烈(しゅんれつ)な住民感情が影響している。
 中通り訴訟の住民も「東電は裁判でも不誠実な対応を続け、許すことはできない」と口をそろえる。一方で「心身ともに限界」との本音も共通した。
 
 原発事故から8年3カ月。原告の多くが60~80代で、がんを患っていた女性が提訴後、70代で亡くなった。
 原告の平井ふみ子さん(70)=福島市=は「みんな疲れ果て、控訴、上告となれば次々脱落するのが目に見える。訴訟は負担が大きく、普通の主婦が手を出せるものではなかった」と話す。植木律子さん(72)=同=は「訴訟が常に頭にあり、次の人生を歩めない。悔しさと絶望でいっぱいだが、もうこれしか道がない」と語った。
 
<逃げ得との批判>
 近年、原発集団訴訟はこうした「消耗戦」の様相が顕著になってきた。福島県浪江町の1万5788人が13年に申し立てた和解仲介手続き(ADR)では1000人超が死亡。後の訴訟に参加した町民は現時点で224人だけだ。東電が和解拒否を続けると結果的に請求総額が減り「逃げ得」との批判が出ている。
 他方、中通り訴訟で住民代理人を務める野村吉太郎弁護士は「裁判所が命令する判決と異なり、東電が非を自主的に認める和解には大きな意義もある」とプラス面を強調。「既に住民は金銭を期待していない。東電にはただ和解案の受諾を望む」と述べた。
 
 地裁は秋にも和解案を示し、和解が成立すれば原発集団訴訟で全国で初めて。
 東電は過去、各地のADRで「個別事情を考慮しない一律の慰謝料増額は公平でない」と和解拒否を度重ねた。福島地裁は今回、各住民の事情を考慮した個別の支払額を示すとみられ、東電の対応が焦点となる。