2023年2月25日土曜日

原発60年超運転可能は 危ない原発ほど延命される愚策 古賀茂明氏

 週刊朝日3月3日号に、元経産官僚古賀茂明氏による「AERA dot. 」の記事が転載されました。

 古賀氏は、原発の運転期間に関する定めを規制委所管の法律から経済産業省所管の法律に移し、60年超の原発運転期間の長を可能にしたのは、岸田首相が規制委の山中伸介委員長と二人三脚で暴走を始めたものだとし、特に原発が停止した期間を延長分に加算できることにすれば、規制委の審査で20年稼働停止していれば、60年を超えて80年まで運転期間延長が認められるという、驚愕の改正だと指摘しています
 原発では「心臓部」にあたる原子炉圧力容器核分裂で生じる強い中性子線にさらされ劣化するので、安全性と運転期間が無関係というのはあり得ないとして、日本は世界の地震の10分の1が発生している地震大国なので、安全性には念には念を入れるのが当然で、地震や津波の審査を担当する石渡委員が延長に反対したのに、それを無視して多数決で押し切るなら規制委の存在意義はないと述べました
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危ない原発ほど延命される愚策 古賀茂明〈週刊朝日〉
                     古賀茂明氏 AERA dot. 2023/2/21
 危ない原発ばかりが延命されると言えば、そんな馬鹿な、と思う。だが、現にそういうとんでもない法律改正に向けて岸田文雄首相が原子力規制委員会の山中伸介委員長と二人三脚で暴走を始めた。安倍晋三元首相もできなかった「40年ルール」の撤廃を目指しているのだ。
 3.11の翌年2012年に原子炉等規制法が改正され、原発の運転期間は原則40年とし、1回に限り20年までの延長を認めた。最長でも60年で廃炉だ。これが「40年ルール」である。政府が現在検討中の法改正案では、まず、原発の運転期間に関する定めを規制委所管の法律から経済産業省所管の法律に移す。原発推進官庁であり福島第一原発の事故を起こした主犯格の同省に任せること自体が驚きだ。さらに、「40年ルール」の骨格を維持すると言いつつ、実際には、規制委による審査などで停止していた期間を除外し、その分を追加的に延長できるようにする。規制委の審査で20年稼働停止していれば、60年を超えて80年まで運転期間延長が認められる。驚愕の改正だ
 現在、管理体制に不備があったり、活断層の存在が疑われるなどの理由で、規制委の審査を通らない原発がいくつもあるが、この改正により、そういう「危ない原発」ほど長い運転期間が認められることになる。どう考えてもおかしい。
 40年ルールの根底には、どんな設備でも経年劣化により故障や事故が増えるという「常識」がある。原発では、「心臓部」にあたる原子炉圧力容器とこれを覆う格納容器は交換できない。特に、圧力容器は核分裂で生じる強い放射線の中性子線にさらされ金属材料が劣化する。古くなれば危ないと考えるのは当然だ。

 マクロン仏大統領が原発建設を推進していると報じられるが、その理由は、同国の原発の約半数が老朽化による金属劣化や補修予定により稼働が停止し、停電リスクが高まったからだ。原発の老朽化リスクが顕在化しているのがわかる。
 しかし、山中委員長は「原発の寿命は科学的に一律に定まるものではなく、規制委員会として意見を言う立場にない」として、ルール変更を容認した。原発の経年劣化を考えれば、安全性と運転期間が無関係というのはあり得ない。一方、5人の規制委委員の一人石渡明氏は「科学的・技術的な新しい知見に基づくものではなく、安全性を高める方向での変更とは言えない」と述べて反対を貫いた。科学者の矜持を示したのだ。
 大地震に襲われたトルコは複数のプレートの境目にあるが、日本も4つのプレートが境を接する国である。世界の地震発生地点を赤丸で示す気象庁の地図では、日本は真っ赤に染まり空白地点はない。この小国で世界の地震の10分の1が発生しているという。そんな国で原発を運転するのだから、念には念を入れてと考えるのは当然だ。石渡氏は、地震や津波の審査を担当する委員である。彼ほど、日本という地域がいかに危ないのかを知っている人はいない。だからこそ、老朽原発の運転期間延長に反対を貫いた。そうした専門家の知見を無視して多数決で押し切るなら規制委の存在意義はない
 40年ルール撤廃でより危険な原発の再稼働が促進される。国民は、この危機的事態に声を上げなければならない。
                 週刊朝日  2023年3月3日号