2019年11月3日日曜日

福島原発、台風19号で「汚染物質大量流出」の深刻現場(1)(2)

 今回の台風起因の大雨によって福島県で放射能汚染物を入れたフレコンバッグが相当河川に流出し問題になっています。政府はひたすら「安全である」とか「環境への影響はない」などの言い訳を並べていますが、実は2015年に飯舘村で、フレコンバッグが448袋流出したという大惨事が起きていたのでした。
 この教訓が全く生かされていないことを「アサ芸Biz」が明らかにしました。
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福島原発、台風19号で「汚染物質大量流出」の深刻現場(1)
「3.11よりしんどい」の本音
アサ芸Biz 2019年11月2日
 日本列島を縦断した台風19号は、福島第一原発をも直撃。大きな爪あとを残した。だが、大雨被害に見舞われたにもかかわらず、その実態はほとんど報じられていない。そこで「過酷被災地」を徹底取材。するとズサンな現場が見えてきたのだ。
 
 福島県田村市。郡山市に隣接する中通り中部の街を襲った台風19号は、「想定外」の被害をもたらした。中通りを縦貫するのは、宮城県に注ぐ阿武隈川。その支流の多くが氾濫し、田村市も水害に襲われたのだ。支流の大滝根川も例外ではなく、台風が過ぎ去ってから10日が経過した10月22日時点でも河川沿いの住宅の多くが床上浸水に見舞われ、その後始末に追われていた。船引町に住む住民が苦しい胸の内を明かす。
今回の台風は3.11の東日本大震災よりもしんどい。震災当時、福島県の沿岸部は地震による津波の被害がありましたが、内陸部にあたる田村市の被害はそこまでひどいものではありませんでした。もちろん、(福島第一)原発事故による放射能の影響は無視できないですが、直接的な実害自体は少なかったので、地元ではそれほど神経質にはなっていなかった。ところが、今回の台風では河川の増水で水道局や発電所がダメージを負ってしまい断水や停電につながった。ウチの地域では、水道管の中継地になっていた橋が流されて、つい3日前(10月19日)まで水道が出ませんでした」
 
 実際、台風の爪あとは相当深刻なもので、JR郡山駅とJRいわき駅を結ぶ磐越東線はいまだ運転を休止したまま。10月25日になり、ようやくバスによる代行輸送が始まったばかりである。
 車の運転がままならない高齢者や学生は、孤立した生活を10日以上にわたって送らざるをえなかったというのだ。
「(台風19号以前に上陸した)台風15号の被害が大きかった千葉県や死者数の多いいわき市は全国ニュースに出てくるけど、福島の内陸部の話はまったく出てこない‥‥。ボランティアも来ないから自分たちで何とかするしかないんだ」
 と先の地元住民は肩を落とす。
 
 だが被害はそれだけではなかった。大滝根川の氾濫により、川沿いに程近い場所に一時保管されていた「除染廃棄物」が流出。一部が河川に流れてしまったというのである。地元記者が解説する。
「除染廃棄物の入った袋は『フレコンバッグ』と呼ばれ、田村市にも福島第一原発の事故後に除染された土壌などの一部が袋詰めされて保管されていた。ところが、今回の台風で周辺の水かさが増した影響で一部の袋が流されてしまいました。田村市によると23日の時点で20袋の流出を確認。そのうち19袋は回収し、残りの1袋は周辺の水かさが下がりしだい回収の予定です。また、回収した19袋のうち8袋の中身は無事でしたが、残り11袋については中身が破けて、全て流出した空っぽの状態だったようです」
 
 環境省は今回の台風19号による「フレコンバッグ」の流出が実に55袋に上ることを公表。小泉進次郎環境相も10月15日の国会答弁で、
「回収されたものは容器に破損はなく、環境への影響はないと考えられる。引き続き、現場やそれぞれの仮置き場の状況の確認を実施していく」
と、大量流出の事実を軽んじ、あくまで「安全である」と強調するばかりなのだ。
 
 
福島原発、台風19号で「汚染物質大量流出」の深刻現場(2)
15年にも「流出騒動」の前例が
アサ芸Biz 2019年11月2日
 だが、こうした行政の姿勢に疑問を呈するのが、原発問題の取材を続けているジャーナリストの木野龍逸氏である。
「人体には影響のない数値が出たのは事実でしょう。放射能というのは一度、空気中や水中に出ると希釈されるもので、当然、除染廃棄物内の濃度よりも薄まります。ですが、人体に影響のない数値でも、未来永劫、健康に害がない保証はありません。福島原発の事故当時に民主党幹事長だった枝野幸男さん(現・立憲民主党代表)も『ただちに人体に影響はない』とコメントしていましたが、即刻、影響が目に見えるものじゃないですからね。すぐさま、実態の究明と対策に乗り出してもらいたい
 
 実際、環境省は「周辺の空間線量の値には影響はみられない」と放射能による汚染はみられないとの見解を示しているが、はたして自治体による「台風対策」は十分だったのか。田村市生活環境課原子力災害対策室の渡辺庄二室長に確認すると、今回の台風の勢力が想定外だったと証言する。
「環境省からは県を通じて大型台風接近に対して警戒態勢を取るように指示が出ていましたが、具体的な方策については各自治体に委ねられていました。田村市では地域巡回を徹底して流出に備えていました。ですが、想定外の雨量だったために除染廃棄物の袋の流出を防ぐことはできませんでした
 さらにはズサンともいえるフレコンバッグの管理実態についても指摘すると、意外な回答が返ってきた。
「田村市は18年に生活圏の除染を完了させていて、仮置き場に置かれた袋を中間貯蔵施設に運搬する段階でした。通常、雨風による流出を防ぐために袋の上にシートを養生するものなのですが、運搬に向けてほとんどが養生されていないムキ出しの状態でした。再び、シートで養生しようにも1日2日で終わる作業ではないため、結果として野外に放置する状態となりました。流出が確認された地点の空間線量や水線量を測定し、人体に影響のない数値だったと確認しています」
 
 しかし、こうした行政側のお気楽な回答は今回が初めてではない。田村市に70年住む男性が怒りで声を震わせる。
2015年に飯舘村で流出した前例がまったく生かされていない。実際、大型の台風が来るのはわかっていたのに、袋は道路や川の周辺に野ざらしにされていた。国や行政はどのような対策を行ったのか、疑問しか出てこないよ」
 過去にも同様のケースで、フレコンバッグが流出していたのだ。地元記者が解説する。
「実は15年9月に大雨で飯舘村を流れる河川が増水。これにより田んぼに置かれていたフレコンバッグが448袋流出したという大惨事が起きた。その中身の多くは稲刈り後の稲だったといいますが、その時も『数値に影響はない』の一点張り。根本的な改善策には至らなかっただけに、同様の台風や大雨などの自然災害が起きた時に、はたして対策が十分講じられるのか、大いに疑問が残ります」
 
 環境省も今後の再発防止策を検討していると語っているが、具体案については、いまだ示されていないのが現状だ。田村市側の対策も十分とはいえない。
「大雨のケースに備えて流出が想定される箇所に土嚢袋を敷き詰めるなどして対応しています。根本的な河川の整備につきましては、原子力災害対策室の管轄ではありません。農道沿いなのか市道沿いなのかによって異なる部署ごとに整備を進めていく予定です」(渡辺室長)
 これでは河川沿いの住民はたまったものではないだろう。