東京新聞が「女川原発 その時避難できるのか」とする社説を出しました。
女川原発は東日本大震災時地盤が1m沈下し、13mの津波で浸水し、外部電源5回線のうち4回線が遮断されました。残る1回線で辛うじて冷温停止に持ち込むことが出来ましたが、深刻事故に至らなかったのは「運がよかった」からとされています。
東京新聞は、特に二つの問題点を挙げています。
一つは東日本大震災の最大の揺れの強さは2930ガル(宮城県栗原市)だったのに対して、基準地震動を1000ガルにとどめている点です。1000ガルにした理由は現行の原子炉の強度がそこまでしか持たないからと思われます。
もう一つは、規制委が避難計画の妥当性を審査しないことで、住民は深刻事故時に渋滞が起きれば速やかに逃げられず、「広域避難計画に実効性がない」という点です。
どちらも重大ですが、それでも敢えて「適合」とするのは「再稼働ありき」が前提だからとしか考えられません。
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【社説】女川原発 その時避難できるのか
東京新聞 2019年11月29日
原子力規制委員会は、宮城県女川町などに立地する東北電力女川原発2号機が国の規制基準に適合するとの結論を出した。だがこれまで繰り返し述べてきたように、それは安全のお墨付きではない。
3・11後、規制委が新規制基準に「適合」とする原発は、これで九原発十六基。このうち五原発九基が、それぞれに課題を抱えたままですでに再稼働しているが、中でも、東北の被災地にある女川原発は特別だ。
女川町内では六百人以上が震災で犠牲になった。いまだ二百五十人以上が行方不明のままだ。震災の傷痕が住民の心に深く残る町である。
女川原発は東京電力福島第一原発同様、被災した原発だ。
地盤が一メートル沈下した。2号機の原子炉建屋では、千カ所以上でひびが見つかった。十三メートルの津波による浸水被害もあった。外部電源五回線のうち四回線が遮断され、残る一回線で辛うじて冷温停止に持ち込んだ。福島との違いは「運」というしかないだろう。
東北電は、想定する最大の地震の揺れ(基準地震動)を震災前の五八〇ガルから一〇〇〇ガルに引き上げ、約三千四百億円を投じて、防潮堤のかさ上げに伴う地盤改良工事や、浸水防止壁の設置などに取り組んできた。
だが、東日本大震災の最大の揺れの強さは二九三三ガル(宮城県栗原市)だった。自然の猛威は常に人間の想像力の上をいくというのが、大震災の教訓ではなかったか。天災への備えに「これでよし」はない。津波を生じやすいとされる「アウターライズ地震」が追い打ちをかける恐れもあるという。
規制委は避難計画の妥当性を審査しない。そのことに多くの住民が強い不安を感じている。
女川原発の敷地の一部がかかる石巻市などが策定した避難計画では、十四万五千人が自家用車やバスに分乗し、仙台市などへ移動することになっている。
今月、石巻市民らが「渋滞が起きれば逃げられない。広域避難計画に実効性がない」として、市と県による「地元同意」の差し止めを求める仮処分を仙台地裁に申し立てた。地元同意は事実上、再稼働への最終関門だ。
宮城県の村井嘉浩知事は「立地自治体だけでなく、県内市町村の声をよく聞いて(再稼働の是非を)判断したい」と話している。
そうしてほしい。そして福島など隣接県の意向も可能な限りくんで、賢明な決断をくだすべきではないか。