福島第1原発で増え続けるトリチウム含有水の扱いを検討する政府小委員会に対して、経産省は1年間で海洋や大気に全量放出した場合、一般の人の年間被ばく線量に比べ約1600分の1~約4万分の1にとどまるとして「影響は十分に小さい」との評価結果を示しました。
工場排水の規制は放流口の濃度や総量について行うもので、海水で希釈された後の濃度を基準にすることはありません。
放射能もまず外界に出さないことが原則で、大気や海水で希釈された後の議論をするのは邪道です。
NHKがトリチウムに関する記事を出しましたので併せて紹介します。
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原発処理水放射線「影響小さい」 1年全量放出で、経産省が推計
共同通信 2019/11/18
東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の扱いを検討する政府小委員会が18日開かれ、経済産業省は、現在保管中の水に含まれるトリチウムなどの放射性物質を1年間で海洋や大気に全量放出した場合、一般の人の年間被ばく線量に比べ約1600分の1~約4万分の1にとどまるとして「影響は十分に小さい」との評価結果を示した。
経産省によると、砂浜からの外部被ばくや魚などの摂取による内部被ばくを想定した海洋放出は約0.052~0.62マイクロシーベルト、吸入による内部被ばくなどを想定した大気放出は約1.3マイクロシーベルトとした。
トリチウムとは? トリチウム含む水、なぜ発生?
NHK NEWS WEB 2019年11月18日
福島第一原発では溶け落ちた核燃料を冷やすために注入している水は核燃料に触れるため放射性物質を含んだ汚染水となってしまいます。
回収して「ALPS」(アルプス)と呼ばれる装置で放射性物質を除去する処理をしていますが、取り除くことが難しいトリチウムなどの放射性物質が一部残ってしまい、原発の敷地内にタンクをつくって保管する状態が続いています。
「トリチウム」とは
トリチウムは日本語では「三重水素」と呼ばれる放射性物質で水素の仲間です。
大気中の水蒸気や雨水、海水などの中に含まれるなど自然界にも存在します。
トリチウムが出す放射線はベータ線と呼ばれる種類で、エネルギーが弱く、空気中ではおよそ5ミリしか進みません。
また、トリチウムは放射線を出しながら、ヘリウムに変化していくため、量が減っていきます。
12年余りで元の量の半分になります。
水素の仲間であるため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴で、福島第一原発でも汚染水を処理したあとに残ってしまいます。
トリチウムは稼働する原子力発電所でも発生し、基準以下にして、環境中に放出されています。
国内の原発では、1リットルあたり6万ベクレルという基準値以下であることを確認したうえで海に放出しています。
海外でも各国で基準を定めて放出しています。
原子力規制委員会は、科学的には福島第一原発の場合も、基準以下に薄めて海へ放出することが合理的な処分方法だとする見解を示しています。
しかし、事故から8年半余りがたち、漁業や農業、観光といった福島県の産業に復興の兆しや道筋が見えてきた中で、再び風評被害が起きることへの根強い反対の意見も出ています。
国や電力会社はトリチウムの放射線のエネルギーは弱いため、外部からの被ばく影響はほぼないとしています。
また、基準以下であれば、体内に取り込んだときに起こる内部被ばくについても放射性セシウムと比べて十分に小さいとしていて、これまでトリチウムによる健康被害の報告は確認されていないとしています。
一方、濃度や量によっては、体内に取り込んだ場合にどのような影響が出るか解明されていない部分もあると指摘する専門家も一部にいます。
6つの案「トリチウム水をどう処理するか」
このトリチウムが混じった水をどうするか、現在、6つの案が選択肢として挙げられています。
▽まずは、トリチウムなどの濃度を基準以下に下げて、海洋に放出する案です。
国際的に原発などの原子力施設で発生するトリチウムは海洋放出が認められていて各国で行われています。コストももっとも安く、時間的にも最短で処分が終わるとされています。
▽2つ目は濃度を基準以下にしたあと、1000度ほどの高温で蒸発させ排気筒から大気中に放出する案です。
40年前にメルトダウンを起こしたアメリカのスリーマイル島原発で行われた方法ですが、放射能を帯びた焼却灰が残る課題などがあるとされます。
▽3つ目は、電気分解で水素にしたうえで、基準以下にして大気に放出する方法です。
これは技術開発が一部、必要とされています。
▽4つ目は、2500メートルほどの深さまで打ち込んだパイプで地層に流し込む案です。
これは地球温暖化対策で海外で実用化されている、二酸化炭素を地下に貯留しようとする方法を参考にしたものですが、放射性物質については実績がなく、閉じ込め続ける適切な地層があるかなどが課題とされています。
▽5つ目は、セメントなどに混ぜて板状にし、地下に埋める方法です。
実績はなく、地下に広大な面積が必要となることなどが課題とされています。
▽そして6つ目は、タンクなどを増設して長期に保管することで、トリチウムが減衰して、量が減るのを待ったり、トリチウムを取り除く技術開発を待ったりする選択肢も加えられました。
それぞれ課題が
選択肢のうち海洋放出も含めた5つはいずれも環境中に出すもので、国が福島県や東京で開いた住民対象の公聴会では反対の意見が多くあがりました。
仮に濃度を基準以下にしたとしても、
▽福島県の漁業に致命的な打撃を与えるとか、
▽近隣諸国の輸入規制が広がり、観光業にも影響を及ぼしかねないといった風評被害を懸念する声です。
▽また6つ目の、タンクを増設しての長期に保管する案については、東京電力は、原発構内の用地には限界がありいずれ敷地の外にタンクを増設する必要が出てくるため住民の理解を得られるかや、輸送のリスクが高まるとしています。
またタンクが増えていくため、津波の影響や老朽化などによる大量の漏えいが起きるリスクもあるとしています。
それぞれの選択肢が抱える課題を解決する方策は果たしてないのか、これまで以上に知恵を集め、議論を尽くすことが求められているといえそうです。