2019年10月23日水曜日

関電と森山元助役“蜜月”の裏で反原発町長襲撃計画

 以前に簡単に触れたことのある高浜町元町長の襲撃計画事件の詳報版です。
 
 2000年代の早い時期に、関電の高浜原発ではプルサーマルの導入を目指していましたが、高浜町の今井理一町長(当時)が強硬に反対したため計画は頓挫しました。
 すると、ある時期、関西電力若狭支社の副支社長で高浜原発を牛耳っていたKという幹部が、警備犬を使っている警備会社の従業員のA、B二人に、警備犬に町長を襲わせて殺害するように依頼してきました。
 幸いに計画は実行されずに終わったのですが、Kからは「はよ、殺さんかい」とくどいくらいに催促してきたということです。
 
 この事件はその後裁判沙汰になりましたが、Kは有罪にはならず逆にAとBがKを脅迫したということで有罪になったのでした。Aたちは官憲も関電側についているからだと主張しています。
 関電の幹部が絡んだ、実に陰惨で恐ろしい事件です。
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【極秘資料入手】関電と森山元助役“蜜月”の裏で反原発町長襲撃計画
今西憲之 週刊朝日 2019.10.21
 福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)から3億2千万円もの金品を受領した問題で、八木誠会長、岩根茂樹社長ら6人が辞任に追い込まれた。朝日新聞によると、関電が高浜町に寄付した約44億円のうち、35億円超は森山元助役が在任中の10年間に集中していたという。
 関電の現役社員はこう嘆く。
「会社にクレームの電話、メールがすごい数に上っています。外の現場で仕事している作業員は『金返せ』と文句を言われるなど大変ですよ。死人に口なしで森山元助役が悪いんだと言わんばかりの記者会見を幹部らがやったのが、逆効果だった。持ちつ持たれつという悪しき関係です。延命を図ろうと言い訳してますます傷口を深くした」
 
 社員が言う、「持ちつ持たれつ」という関電と森山元助役の関係性を示す極秘の捜査資料を筆者は入手した
 案件は関電の高浜原発を舞台にした恐喝事件だ。2008年8月、高浜原発の警備犬の訓練委託業務を巡り、大阪府警は、警備犬訓練会社の元社長Aさんと元役員Bさんを恐喝容疑で逮捕した。高浜原発のK副所長から150万円を脅し取った容疑だった。AさんとBさんは裁判で執行猶予付き有罪判決が確定後、ぶ厚いその捜査資料を持って筆者の取材に応じたのだ。
 
 Aさんは1999年から関西電力と契約を締結し、原発警備のために警備犬の訓練飼育業務を受託していた。当時はMOX燃料を使用するプルサーマル計画が検討されていた。
 だが、北朝鮮が潜水艦で韓国領内を侵犯するなど原発へのテロ行どを危惧する声があがっていた時期でもあった。
<警備犬を配置して不法侵入の未然の防止><MOX燃料受け入れ時の警備の一助として活用>などと契約書には記されている。
 当時の高浜原発の警備は、全国の原発で警備業務を一括で請け負っていた「原子力防護システム企業名」が元請けで、その下に森山元助役が株主、役員を務めていた警備会社「オーイング」が入っていた。そこにAさんの警備犬業務が加えられた。
 ところが、ある日、AさんはK副所長から警備犬で町長を襲撃したいという相談を受け、仰天したという。
 
 Aさんの供述調書によれば、<Kは私にこの犬で町長襲撃できないか等ととんでもないことを言ってきたのです><町長犬で殺れんか、犬を放して証拠残らないように殺ってくれんか。町長を殺ってくれたら保証したる>と命じられたというのだ。
 当時、高浜町長だった人物はMOX燃料受入れプルサーマル計画には慎重な姿勢を見せており、関電にとっては大きな難題だったという。
 敏腕ドッグトレーナーでもあったBさんは、K副所長に命じられ、町長が飲食に使う酒場を調べたり、尾行するなど、本来の業務とはかけ離れた仕事をしたと供述していた。
「高浜町の町長選挙があった時です。K副所長やX町議が町長側の陣営が『選挙違反している』などと言い出し、警備犬の仕事をしているスタッフを行かせた。すると、スパイかと疑われて、詰問され、逃げ帰ってきた。それでも、K副所長は知らん顔。Aさんとも話し合って警備犬の業務から手を引くことにした」(Bさん)
 
 この時、BさんはK副所長と話し合った内容を録音しているが、この録音は裁判でも証拠となっている。
<Bさん :高浜の町長、(町長を襲撃という)ああいうふうな話がありましたわな?>
<K副所長うん>
 明確に、警備犬による町長への襲撃話を認めているのだ。
 K副所長は同様に供述調書でも<この犬で町長を襲えないか>と話したことは認めていた。
 そしてK副所長は高浜町の町長選挙でBさんらに、町長陣営への「スパイ」活動を依頼した動機について、<町長が、法律で定められた弁当の数を大幅に超過する数を配っている。また、公務員である区長らを動員して弁当を配っているという選挙違反まがいの話を聞きました><公平公正であるべき選挙運動において不正行為が行われる(中略)違反状況を写真に撮ることを思いついた>と述べている。高浜原発の副所長が、地元の選挙、政治に介入していたとんでもない行為を認めているのだ。
 
 高浜原発のK副所長とAさん、Bさんがこうしてもめた2007年頃、関電側の代理人として登場したのが、森山元助役だった。
 森山元助役と高浜原発のK副所長との件で話し合ったのはAさん、Bさんの代理人Xさんだ。筆者が代理人Xさんを取材すると、最初に森山元助役と会ったのは、京都府舞鶴市のホテルの喫茶店だったという。
 代理人Xさんによると、森山元助役はオーイングの名刺を手渡しながら、「関西電力に頼まれて、代わりにきました」「穏便に解決したいと関西電力からも言われている」と関電の「名代」だと強調したという。
 当時、Aさん、Bさんは警備犬とK副所長の今井町長襲撃計画をマスコミに売り込み、報道させようと水面下で動いていた。森山元助役は代理人Xさんこう要請した。
「2人を止めてほしい。マスコミにネタを売るとか、ビラをまくとか、やめてくれないか」
「いろいろ文句があるのはわかる。私が関電との間に入るのでゲタを預けてくれないか。関電はなんとでもなる」
 そして、森山元助役はこう続けた。
「手ぶらだとか、そういうことはない」「あとは、下請けに入ってもらえるようにする。適当な会社を作って、やってもらえれば何とかします。関電にはこちらから、話をしますから」
 2人の代理人Xさんは、森山元助役について関電の「フィクサー」のような存在かと感じたという。
 
 その後も森山元助役とは2度、面会。最終的に話し合いは決裂し、刑事事件ヘと発展した。代理人Xさんは森山元助役が雑談の中で発した言葉を今も鮮明に記憶している。
「私が助役をやっていた時、何もない町が立派になったのは関電、原発のおかげです。それゆえ私も、信頼を得ています。原発で町は潤っている。もちろん、関電にお返しもしっかりしています。持ちつ持たれつですね。それで信用が築かれた」
 今回の3億2千万円の金品提供を示唆するような話だった。交渉が決裂した後も、代理人Xさんには様々なルートから森山助役、関電の情報がもたらされるようになった。
「森山さんや吉田開発など高浜原発の業者が、関電の特定の幹部に現金などでキックバックしていると情報を得ていました。京都の国税の関係者に詳しく伝えた。関電が公表しているのは、金沢の税局が税務調査した3億2千万円。しかし、私の得た情報では、その数倍くらいの金額だった。まだ関西電力は隠蔽しているのではないか」(代理人Xさん)
 森山元助役と関電幹部らの闇は想像以上、根が深いようだ。(今西憲之)
※週刊朝日オンライン限定記事