2022年3月25日金曜日

「原発攻撃」日本政府は知っていた「衝撃の被害予測」

 現代ビジネスに、「ウクライナ侵攻で“他人事ではない”『原発攻撃』…日本政府は知っていた『衝撃の被害予測』」とする記事が載りました。1984年に出された「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」という報告書については、13日付でLITERAの記事を紹介しましたが、今回の記事はその被害についてより詳細に述べています。
 (3月13日)周辺住民1万8千人が急性死亡! 原発攻撃時の被害想定報告書を隠蔽
 以下に紹介します。
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ウクライナ侵攻で“他人事ではない”「原発攻撃」…日本政府は知っていた「衝撃の被害予測」
                           現代ビジネス 2022/3/23
ロシア軍による原発攻撃の衝撃
 「日本の原子力発電所が攻撃され、大量の放射性物質が放出されれば、最大で1万8000人が急性死亡する」と被害予測した政府の研究報告書が存在することが話題となっている。
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 ウクライナに侵攻したロシア軍が、ウクライナの欧州最大の原子力発電所(以下、原発)であるザポリージャ原発に攻撃を行ったことは世界に大きな衝撃を与えた。
 幸いにも、現時点で原発の爆発など最悪の事態は発生していないが、11年3月の東日本大震災で東京電力福島第一原発の事故を経験している日本にとっては“他人事”ではない。
 3月14日の参院予算委員会では、岸田文雄首相がロシア軍によるウクライナの原発攻撃に関連して、国内の原発に警察の専従部隊を設置する議論を政府内で始める考え方を示している。
 こうした中、1984年にまとめられた「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」と題する報告書が話題となっている。
 この報告書は外務省が81年にイスラエルがイラクの研究用原子炉施設を爆撃した事件を受け、財団法人日本国際問題研究所に対して、想定される国内の原発への攻撃や被害予測の研究を委託したもの。
 報告書(B5判63ページ)は84年2月にまとめられたが、その驚きの内容に配慮して公表されることはなかった。
 報告書には、「本報告書が有する機微な性格および各方面への影響等を勘案し、限定配布の部内資料(「取扱注意」なるも実質的に部外秘)とするので取扱いには厳に注意願いたい」と明記されている。
 それでは、その驚きの内容を見ていこう。

3つの被害シナリオ
 原発への被害のシナリオは、(1)補助電源喪失、(2)格納容器破壊、(3)原子炉の直接破壊の3通りだ。
 シナリオ(1)の発電所の持つ補助電源のすべてが破壊された場合には、次のような事態を想定している
 発生する熱が原子炉施設の外に運び出されないことにより、炉心の温度は次第に上昇し、炉内の水の温度も圧力も上昇し、やがて1次冷却系の安全弁が開いて格納容器内へ蒸気となって吹き出す。
 その結果、格納容器間の温度と圧力が上昇し、その圧力によって容器が破壊するか、あるいは高温故に、容器のあるいくつかの貫通孔のシール部が劣化して気密性がそこなわれ、格納の働きを失う。
 炉心は過熱し、ついに溶ける。燃料棒中に閉じ込められていた放射性物質は温度上昇につれて動き易くなり、また燃料溶融によって解放され、気化するなどして、かなりの割合で原子炉容器内に放出される。
 溶けた炉心は原子炉容器の底にたまり、余熱の発生は続くので、その熱によって底がとけて抜け落ちる。そこで放射性物質の多くが炉外に出てしまい、さらに格納容器の破損箇所を通して大気中に出ていく。
 この過程の中で、燃料棒の被覆管材料が水と化学反応を起こし、水から酸素が奪われ、水素が発生する。この水素が爆発を起こし、被害が拡大する危険がある。
 このほかに、溶けた高温の炉心が、底にたまっている水に作用して水蒸気爆発を起こす可能性もあると想定している。
 これは、まさしく東日本大震災によって福島第一原発で発生した原発事故と“同様の事態”だ。攻撃ではなかったものの、東日本大震災で福島第一原発に起こった事態は、発生よりも27年も前に想定されていたということになる。

84年に想定されていた被害の全容
 シナリオ(2)の格納容器が爆撃(ないし砲撃)され、破損し、冷却機能が喪失した場合には、やがて炉心は溶融するに至り、すでに破損している格納容器を通り抜けて大気中に放射性物質が放散されると想定されている。
 さらに、シナリオ(3)の格納容器とその内部にある原子炉に対する徹底した攻撃の場合には、「現象の分析は難しい」とした上で、破壊された炉心の一部が堆積することもあれば、逆に粉砕されて広く飛散するかも知れず、その状況に応じて燃料棒ないしその破片の温度上昇の様子は相当に異なるものと思われるとしている。
 そして、被害の推定にあたっては、以下のような理由からシナリオ(2)の被害の推定を行っている。
 シナリオ(1)と(2)では、いずれも炉心溶融によって燃料棒内に閉じ込められていた放射性物質のうち、かなりのものが放出され、原子炉容器ないし容器から出ている配管系の破損によって格納容器内へ移り、さらに格納容器の破損箇所を通して大気中に放出する点で共通している。
 ただ、シナリオ(2)の場合には、炉心溶融から放射性物質の大気放出までの時間が比較的短いことのほかに、大気中に放出される放射性物質はシナリオ(1)の場合を上回る可能性が高いと思われる。
 シナリオ(3)については、さらに大きな被害を生ずる恐れはあるものの、大気中に放出される放射性物質の割合やその放出状況を数字をあげて分析することは現状では困難である。
 この結果、原子力発電所が100万kw級軽水炉で格納容器が爆撃(ないし砲撃)され、破損し、冷却機能が喪失した場合、原発近隣住民が緊急避難を全くしなければ、急性死亡は平均3600人、最大1万8000人に、急性障害は平均6300人、最大4万1000人になると推定している。急性死亡の主な原因は脊髄への被曝によるものだ。
 また、長期的影響晩発としては、晩発性の癌による死亡者が平均8100人、最大2万4000人発生し、長期にわたる土地利用制限(農作物などの土地利用および居住の禁止)は、制限距離は平均19マイル(約30km)、最大54マイル(約87km)に、制限区域は平均76平方マイル(約197平方km)、最大250平方マイル(約648平方km)に及ぶと想定している。

攻撃も想定した被害想定を
 15年の国会で、当時の山本太郎参議院議員(現、れいわ新選組代表)が九州電力の川内原発の稼働中の原子炉が弾道ミサイル攻撃の直撃を受けた場合、「最大でどの程度の放射性物質の放出を想定するのか」と「避難計画・防災計画作成の必要性は最大で何キロメートル圏の自治体に及ぶと想定しているのか」を質問している。
 これに対して、安倍晋三首相(当時)は、「仮定の質問であり、お答えすることは差し控えたい」とし、さらに、「弾道ミサイルによって放射能が放出されるという事態は、想定していない」と答弁している。
 だが、原発への攻撃に対する被害の推定を行った同報告書は存在していたのだ。
 報告書は84年のものであり、31年後の15年の被害推定には当てはまらないかもしれない。だが、84年当時にすでに原発が攻撃された場合の被害が推定され、それを政府が国民に知らせることなく、隠していたというのは重大な問題だ。
 東日本大震災によって、原発の安全性を問う声が強まり、多くの原発で安全性の補強が行われている。しかし、これは災害対策であり、原発に対する攻撃を想定したものではない。
 ロシア軍のウクライナ侵攻と原発への砲撃を“対岸の火事”と見ることなく、今こそ、再度、原発に対する攻撃を含めた安全性と被害の推定を行っておく必要がある。