2022年3月28日月曜日

「露侵攻でもドイツの脱原発は変わらない」飯田哲也氏

 ロシアのウクライナ侵攻を機に原発の安全性が注目されています。毎日新聞が、原発やエネルギー政策に詳しい環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長にインタビューしました。

 インタビューの中で、飯田氏は「ドイツに関しては、今回のウクライナ侵攻で脱原発が揺らぐことはなく、むしろ再生可能エネルギー化が加速するのは間違いない再生エネ化を進めるドイツやデンマークなどのスピード感を見ると、日本は何周も遅れている感じがする」と述べています。
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「露侵攻でドイツの脱原発は変わるか」飯田哲也氏に聞く
                             毎日新聞 2022/3/26
◇飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長に聞く
 ロシアのウクライナ侵攻について、原発やエネルギー政策に詳しい環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長に聞いた。ロシアへの依存度が高い欧州の天然ガスをどうすべきか、さらにドイツの脱原発へ与える影響などが焦点となる中、飯田さんは欧州の現状をどのように考え、どんな直言をするのだろうか。【聞き手は毎日新聞経済プレミア編集長・川口雅浩】

 ――欧州連合(EU)はロシア産の化石燃料への依存を段階的に解消することで合意しました。しかし、EUは天然ガスの4割超、原油の約3割、石炭の約5割をロシアからの輸入に頼っており、とりわけロシアに大きく依存するドイツやイタリアなど早期脱却に慎重な国もあります。
 ◆飯田哲也さん EUは2027年までにロシアの化石燃料依存から脱却し、22年内にロシアへの依存を3分2減らして3分の1とする計画を発表しました。
 具体的には、天然ガスの調達先をロシア以外に求め、液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすこと。あとはバイオメタン(家畜のふん尿などから取り出すガス)や再生可能エネルギーで作った水素を大量に増やすとしています。バイオメタンは増やせるかもしれませんが、再エネ由来の水素はそう簡単には増やせないと思います。

 ――EUはそんな短期間に代替の天然ガスが見つかるのでしょうか。
 ◆欧州の天然ガスの需要は、ざっと3分の1が電力、3分の1が産業用で、残る3分の1が暖房や給湯です。需要のピークは冬なので、今年末から年明けにかけての冬にどう備えるかが問題で、最大のヤマ場、チャレンジになっていくでしょう。
 おそらくこの問題は翌年の冬も続きます。しかし、時間があればあるほど、対策は取りやすいだろうと思います。

 ――どんな対策が考えられるのでしょうか。
 ◆ロシア以外の調達先として、アルジェリアやカタールなど既存の天然ガスの産地にどこまで切り替えできるか。スペインには欧州最大のLNG基地があり、米国から大量に輸入できます。一時的にLNGの輸入を拡大し、ロシアへの依存度が高いドイツなどへ振り分けていくことが考えられます。

 ――石油や石炭はどうなるのでしょうか。
 ◆脱炭素で需要が減っている石炭はなんとかなると思いますが、石油はたいへんだろうと思います。ドイツのショルツ首相が「ロシアからの原油の禁輸はまだドイツは決断できない」と言っているのは理解できます。
 朗報は、欧州では電気自動車(EV)へのシフトが急激に進んでいることです。ロシアのウクライナ侵攻でガソリン価格が上がっていることもあり、欧州はEVへの転換をさらに加速させていく可能性があります。

 ――国際エネルギー機関(IEA)は欧州がロシアへの依存を減らすため、ロシア以外の国から天然ガスを輸入することや、EU内で23年までに運転停止が決まっている原発5基をしばらく存続させることが有効だと提言しています。ドイツは22年中に国内に残る3基の原発を全廃する予定ですが、影響はあるのでしょうか。
 ◆このIEAの提言に対して、ドイツのハベック経済・気候保護相は「原子力に関する誤った議論をこの時期にしないでほしい。来冬の天然ガスの不足に原発は何の役にも立たない」とクギを刺しました。ドイツの経済・気候保護省と環境省は、原発の稼働期間を延長しても、天然ガスの供給不安の解消に果たす役割はわずかだと、はっきりと反論しています。
 ドイツが3基の運転を続けても、来冬のピーク時の天然ガスの代替にはなりません。運転を延長するには法律も変えなくてはならず、それには1年以上を要します。新たに核燃料も調達しなくてはいけません。従って、電力会社も運転の延長に反対しています。
 ドイツに関しては、今回のロシアのウクライナ侵攻で脱原発が揺らぐことはなく、むしろ再生可能エネルギー化が加速するのは間違いないと思います。欧州では英国やフランスなど原発に依存する国もありますが、脱原発で再生エネ化を進めるドイツやデンマークなどのスピード感を見ると、日本は何周も遅れている感じがします。

飯田哲也(いいだ・てつなり)さん略歴
 1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。神戸製鋼所で原子力プラントを設計したが、原子力産業に疑問を感じて退社。研究者を経て2000年にNPO法人「環境エネルギー政策研究所」を設立した。経済産業相の諮問委員会の委員を務めるなど、政府や地方自治体のエネルギー政策の立案にもかかわる。福島原発事故後、原発や再生エネをめぐる積極的な提言が注目されている。