2022年3月19日土曜日

この地震大国で原発再稼働という恐怖と倒錯(日刊ゲンダイ)

 法大名誉教授の五十嵐仁氏は、「東北地方で大きな地震が発生し、日本は常に原発の危険と隣り合わせなのだという事実をあらためて突きつけられた。原発は、いざ戦争になれば攻撃対象にもなる。この地震大国で、海岸沿いにズラリと原発が並ぶことに恐怖を覚えるなら分かるが、何が何でも再稼働に突き進もうとする自民党政権は、とても正気とは思えない(要旨)」と、自民党の原発推進派の議員らでつくる「電力安定供給推進議員連盟」が、ウクライナ危機に便乗する形で緊急的に原発を稼働させ、国民生活を守るための措置を講じる必要がある」などとする決議文を政府に出したことを批判しました。

 日刊ゲンダイの記事:「この地震大国で原発再稼働という恐怖と倒錯」を紹介します。
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この戦争はそう簡単に終わらない
この地震大国で原発再稼働という恐怖と倒錯
                          日刊ゲンダイ 2022/3/18
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 16日深夜の地震は、あらためて、日本における原発のリスクを思い起こさせた。
 震源は福島県沖で最大震度6強。直後に広域で停電したこともあって、情報が手に入らず、原発は大丈夫なのかと不安な気持ちで過ごした人は少なくないだろう。
 電気が復旧しテレビをつけてみれば、廃炉作業中の東京電力福島第1原発でタービン建屋の火災報知機が作動というニュース。福島第2原発でも使用済み燃料プールのポンプが停止し、タンクの水位低下を確認などと聞けば、いやが応でも11年前の東日本大震災と原発事故の戦慄が蘇ってくる。
 ロシアによるウクライナ侵攻でも、原発の潜在的リスクが浮き彫りになっている。ロシア軍はチェルノブイリ原発を占拠。送電線が切断されて電力供給が止まったという報道には背筋が凍る思いがしたものだ。南東部にあるザポロジエ原発も占拠され、砲撃による火災も起きた。
 原子炉6基を擁するザポロジエ原発は、出力600万キロワットで欧州最大の規模だ。では、世界最大はどこかというと、日本にある。新潟県の柏崎市、刈羽村にまたがる東京電力柏崎刈羽原発は、7基の出力が計820万キロワットを超える世界最大の原発だ。
「ロシアとウクライナの戦争の最中に、東北地方で大きな地震が発生し、日本は常に原発の危険と隣り合わせなのだという事実をあらためて突きつけられました。原発は、いざ戦争になれば攻撃対象にもなる。電源喪失の可能性もあり、二重、三重の危険性を抱えている。この地震大国で、海岸沿いにズラリと原発が並ぶことに恐怖を覚えるなら分かるが、何が何でも再稼働に突き進もうとする自民党政権は、とても正気とは思えません。それもウクライナ危機に便乗する形で、この機会に一気に再稼働を進めてしまおうとしているから悪質です」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

国民の命や安全より目先のカネ
 ロシアとウクライナの戦争で石油や天然ガスなど化石燃料の調達が不安定化し、エネルギー価格が高騰。自民党の原発推進派の議員らでつくる「電力安定供給推進議員連盟」(細田博之会長)は15日、電気料金の爆上げや安定供給の維持が懸念されていることを理由に、「安全の確保を優先しつつ緊急的に原発を稼働させ、国民生活を守るための措置を講じる必要がある」などとする決議文を萩生田経産相に手渡した。
 萩生田は「再稼働が円滑に進むよう国も前面に立つ」と応じていたが、この決議では、原発の新規制基準で義務づけられたテロ対策施設の設置期限を見直し、施設が未完成でも稼働できるようにすることを求めている。この際、基準も安全確保も無視して再稼働に突き進もうというのである。
「本来なら公平中立な立場でなければいけない細田衆院議長が、自民党の原発推進派議連の会長として再稼働を要求していることにも驚きました。危機に乗じて原発再稼働や核共有を言い出すなんて、ウクライナの現状から何を学んでいるのか。原発は侵略やテロの標的になり得る。それに、日本の地震の多さや津波のリスクを考えれば、他の国よりも原発稼働のリスクが高いことは明らかです。政治家が本気で『国民生活を守る』というのなら、脱原発に向かうしかないのに、自民党の政治家は“国民の命や安全より目先のカネ”なのです」(政治評論家・本澤二郎氏)

「原発稼働のコストとリスクは利益を上回る」
 日本の福島原発事故を受け、すぐさま脱原発を決め、今年中に達成する見込みのドイツはここ数年、ロシアへのガス資源依存を強めていた。今回の侵略行為に抗議し、経済制裁を強めるために原発の稼働延長案が浮上。だが、短期と中期のシナリオを検討した結果、原発の稼働延長はせず、国内に残る原発は年内にすべて閉鎖されることになった。「原発を稼働させるコストとリスクは利益を上回る」というのだ。
 それなのに、事故の当事国である日本では、原発再稼働を求める動きが活発化しているという倒錯。核共有とか敵基地攻撃能力とか勇ましい議論の前に、原発のリスクに真剣に向き合うべきではないのか。それこそが本当の安全保障というものだろう。
 14日の参院予算委員会で、ウクライナで原発が攻撃されたことについて聞かれた岸田首相は、「原発の安全に対して国民の関心が高まっている。原発を警備する警察の専従部隊を置く福井の取り組みを横展開できないか検証したい」と答弁。山口原子力防災相は「原発を爆破するとチェルノブイリよりすさまじい被害が出る」と言っていた。
 危険は承知の上で、止められない。そこには、日本が資源に乏しいエネルギー輸入国というジレンマがある。
 ロシアとウクライナの戦争が長期化すれば、日本はますます窮地だ。エネルギー価格や穀物価格の急騰にどこまで耐えられるか。アベノミクスの円安政策もあって「円」は弱く、貿易収支は7カ月連続で赤字が続いている。
 そこへきて、米連邦準備制度理事会(FRB)は16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決定。2年ぶりにゼロ金利政策を解除する。異次元緩和を続ける日本は深刻だ。円安がさらに進み、輸入物価の上昇が家計や企業を圧迫するのは確実。そうなると、電気料金値上がりに悲鳴の国民からも、原発再稼働を求める声が大きくなってくるかもしれない。
 すでに自民党だけではなく、日本維新の会や国民民主党もエネルギー価格高騰の対策として、再稼働を訴えている。

防衛費倍増より再エネと食料自給自足
「東日本大震災での福島原発事故を経験した直後から、再生可能エネルギーに大きく舵を切っていれば、まったく状況は違ったでしょう。エネルギーの地産地消で、脱炭素にもなる。戦争など他国の事情に左右されずに国内で電力を賄える体制が整っていれば、今のような苦境には陥っていなかった。ところが、原発を温存したい経産省は再エネの普及を邪魔してきたし、原子力ムラとズブズブの自民党もスキあらば再稼働を狙っている。しかし、ウクライナ危機で原発のリスクがはっきり分かった以上、エネルギー安全保障を考えれば、再エネによる自給自足は喫緊の課題です」(五十嵐仁氏=前出)
 欧米メディアは経済制裁の効果やプーチンの錯乱を盛んに喧伝して、経済的に困窮したロシアがすぐに音を上げて停戦に応じるような希望的観測を流している。果たして、本当にそうなるのか。この戦争は簡単に終わらないのではないか。
 持久戦で困るのは、日本のようにエネルギーや食料を輸入に頼っている国だ。ロシアはデフォルト危機で国債は紙くずになるかもしれないが、そもそも資源の豊富な国だ。穀物の輸出大国でもある。小麦の主要産地で、日本人が好きな蕎麦の輸出も世界一。一種の鎖国を敷けば、国民を食わすことはできる。
 ロシアは14日に穀物の輸出を制限すると発表したが、それは国内の供給分を確保するためだ。食料自給は国民の命に直結する。ある意味、エネルギー資源より重要とも言える。
 翻って日本はどうなのか。直近の食料自給率は40%を切っている。エネルギーも食料も輸入に頼る国は脆い。国会では、岸田政権肝いりの経済安保法案が審議入りしたが、安全保障というならば、半導体や防衛費の倍増より、再エネと食料自給自足に予算を振り向けるべきではないか。この期に及んで原発再稼働なんて倒錯している。今こそ大転換が必要だ。