2011年の福島第一原発事故以降、反原発の象徴的存在であったドイツがクリーンエネルギーの未来に向け 核融合の研究を推進しているということです。
水素の微小な原子同士を衝突させてエネルギーを放出させる核融合反応は、核分裂とは異なり本質的に安全なものとされています。
最近の実験では「一貫した正味のエネルギー利得」が生み出され始めているということで、信頼性の高い材料の供給網が確立され、発電所に必要な特殊鋼材や数千点に及ぶ特注部品を大量生産できるようになれば、核融合発電が向こう10年以内に実用化される可能性があるということです。
厳密に言えばまだ慣性核融合エネルギーの基礎的な科学的根拠が示されたという段階ではあるのですが、フォーカスト・エナジーのフォーナーCEOは「核融合はもはや単なる構想ではない。科学的に厳密な検証が行われており、現在では産業化の道筋が明確になっている。ドイツの関与は、この技術が実験室を超えて実用段階に移行する準備が整っている証拠だ」と述べ、核融合発電の実現に大きな期待を示しました。
この分野では他に米国、中国、英国、欧州諸国などが研究を加速させるため、実験用原子炉や先進材料、高出力レーザーや磁石に多額の投資を行っています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
福島原発事故で原子力発電から撤退したドイツ、核融合へ方向転換
Forbes JAPAN 2025/12/17
2011年の福島第一原子力発電所事故以降、反原子力の象徴的存在であったドイツが今、大きな方向転換を図っている。同国はクリーンエネルギーの未来に向け、核融合研究を推進しているのだ。これは、安全上の懸念から原子炉を閉鎖し、再生可能エネルギーへの移行を進めてきたドイツ政府による15年間にわたる核分裂技術からの撤退とは対照的な動きとなる。
この変化は、放射性廃棄物を最小限に抑えながら、ほぼ無限にエネルギーを生み出す核融合技術への信頼性が高まっていることを示している。現代の原子力発電を支える核分裂とは異なり、核融合反応は本質的に安全で、最近の実験では一貫した正味のエネルギー利得が生み出され始めている。この画期的な成果は、米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の国立点火施設(NIF)で初めて達成され、その後数回にわたり再現された。
他方で、核融合の商業化にはまだ時間がかかる。核融合開発を手がける独フォーカスト・エナジーを共同で設立したトーマス・フォーナー最高経営責任者(CEO)は、信頼性の高い産業サプライチェーン(供給網)が確立され、発電所に必要な特殊鋼材や数千点に及ぶ特注部品を大量生産できるようになれば、核融合発電が向こう10年以内に実用化される可能性があるとしている。同CEOは筆者の取材に対し、「これは数十年にわたる科学的基盤が政策の野心と結び付く瞬間だ。ドイツの取り組みは、核融合がもはや遠い夢ではなく、21世紀の戦略的かつ拡張可能なエネルギーの選択肢であることを示している」と強調した。
太陽のエネルギー源である核融合は、水素の微小な原子同士を衝突させてエネルギーを放出させる。重い原子を分裂させて長寿命の放射性廃棄物を生み出す核分裂とは異なり、核融合は環境負荷を最小限に抑えつつ、ほぼ無限にクリーンエネルギーを生み出す可能性を秘めている。核融合の研究は数十年にわたって続けられてきたが、商業発電を実現するために必要なエネルギー利得が実験で示されるようになったのはごく最近のことだ。
2022年、LLNLのNIFで「点火」と呼ばれる画期的な成果が達成された。点火とは、投入したエネルギーより多くのエネルギーを生み出す核融合反応だ。最初の成功以来、同様の実験が複数回繰り返され、結果が再現可能であり、偶然の現象ではないことが確認された。
この画期的な成果は専門家同士の相互評価を通じて検証され、政策立案者や電力会社の間では、核融合が将来的に電力供給を支えるかもしれないという確信が高まりつつある。核融合は最終的に、信頼できるエネルギー源となる可能性がある。研究に携わった科学者らは「結果は外部専門家による検証を経ており、慣性核融合エネルギーの基礎的な科学的根拠を示している」と説明した。
■産業と供給網の課題
核融合を実験上の成功から商業的な利用へと転換するには、実験室での成功以上のものが求められる。施設には巨大な鋼構造物や数千個に及ぶ精密設計部品、特殊材料が必要であり、一朝一夕に実現するものではない。核融合が大規模に電力を供給できるようになる前に、信頼できる供給網を確立することが重要な一歩となる。
フォーカスト・エナジーはこの課題の解決に向け、ドイツのエネルギー大手RWEと提携している。この提携は、RWEが産業規模のプロジェクト管理や技術的な専門知識、欧州の電力網への新技術統合に関する豊富な経験を有している点で意義深い。ドイツにとって、この提携は単なる財政上の理由以上の意味を持つ。これは、核融合が再生可能エネルギーを補完し得ると同時に、同国の気候目標とエネルギー安全保障目標に沿うという戦略的な賭けを表している。フォーナーCEOは「RWEとの提携により、実環境での展開が加速する」と強調。「実験室で点火を実現することとは別だ。それを家庭や産業を確実に支える電源へと変えることはまた別問題だ。ドイツがその橋渡し役を担っている」と説明した。
こうした大きな進展にもかかわらず、核融合は長い間慎重に扱われてきた。科学者や政策立案者は過去数十年にわたり、核融合が「常に30年先」の技術だと警告してきた。繰り返される遅延によって、同技術は遠い夢のままかもしれないという懐疑論を生み出してきたのだ。
フォーナーCEOは、今日の状況が変化しているのは、科学的検証と産業化の準備が一致したためだと指摘する。LLNLでの最近の点火実験は、複数の専門家による検証を経て再現性が確認されており、エネルギー利得が単発の偶然ではないことを実証した。工学や材料科学、供給網計画の進歩に加え、RWEなどの電力会社との提携により、実験室での成功を商業発電へと転換するために必要な基盤が整いつつある。
フォーナーCEOは次のように述べた。「核融合はもはや単なる構想ではない。科学的に厳密な検証が行われており、現在では産業化の道筋が明確になっている。私たちは投げかけられたあらゆる技術的批判を乗り越えてきた。ドイツの関与は、この技術が実験室を超えて実用段階に移行する準備が整っている証拠だ」
■世界的な競争の最前線に立つドイツ
核融合の商業化を巡る世界的な競争が激化する中、ドイツは同技術への取り組みを再開した。米国、中国、英国、欧州諸国などは核融合研究を加速させるため、実験用原子炉や先進材料、高出力レーザーや磁石に多額の投資を行っている。点火実験から技術的な節目に至る成功のたびに、競合者は実験室規模の実証から送電網対応施設への移行を迫られる。
この取り組みに参加することで、ドイツは後れを取る意思はないことを示している。同国は産業基盤や技術的な専門知識、RWEのような大規模な電力事業者との連携といった要素を兼ね備えており、科学的な成功を商業発電へと転換する上で優位性を持っている。政策立案者にとっては、核融合技術は断続的な再生可能エネルギーの限界に対する防衛手段でもある。言い換えれば、核融合炉や核分裂を利用した小型モジュール炉(SMR)が24時間365日、低炭素の電力を供給するようになれば、人類にとって大きな一歩となるだろう。
ドイツを代表する応用研究機関であるフラウンホーファー協会は、同国の深い産業・技術的専門知識が発電だけでなく、ハイテク基盤や技術の輸出、ライセンス供与を通じて、核融合商業化の第一波を捉えるのに役立つとしている。同協会のホルガー・ハンゼルカ会長は「卓越した研究技術力を有するわが国は、核融合に基づく炭素排出量の少ないエネルギー生産を実現する上で有利な立場にある」と強調した。
ドイツの核融合研究の推進は、エネルギー政策の戦略的な再調整を示しており、単なる技術実験以上の意味を持つ。同国は産業基盤を活用し、米国、中国、英国、その他の欧州諸国を含む世界的な競争の最前線に自らを位置付けている。
核融合の商業利用にはまだ10年程度を要するが、再現性のある科学的な成功や厳格な検証、調整された産業供給網により、無限のクリーンエネルギー時代はついに手の届くところまで来ている。ドイツ、そして世界にとって、核融合の実用化に向けた秒読みが始まった。 Ken Silverstein