柏崎刈羽原発の6号機は2012年以降運転停止が続いているので、運転員の半数以上が原発を動かしたことのない『未経験者』です。
再稼働に当たり運転員の能力や設備に問題はないのか、新潟放送が東電などに確認しました。
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「経験と知識があっても簡単ではない」運転経験ゼロが半数以上の柏崎刈羽原発 “再稼働への答え”迫る中で東京電力に運転能力はあるのか
BSN新潟放送 2025/12/16
新潟県にある東京電力・柏崎刈羽原発の6号機は、早ければ2026年1月にも再稼働できる状態となります。ただ運転停止が長期化したことで、運転員の半数以上が原発を動かしたことのない『未経験者』です。能力や設備に問題はないのでしょうか?
■五感を使って異常がないかチェック
運転員歴3年目の河端恒介さん(27)。電気を生み出すタービンなどを見て回り、その細かな変化から異常がないかチェックするのが仕事の一つです。耳で聞き、手で触れて…五感を使って音や振動を感じ取ります。
ただ、この日いたのは“柏崎刈羽原発”ではありません。横浜市にある南横浜火力発電所です。
河端恒介さん
「柏崎刈羽原発では今、タービンや発電機の熱や振動は感じることができないので、実際に触ってみて、どれくらいの温度なのか、場所によって温度が違ったり、振動の大きさが違ったりといったことを感じることができた」
■“稼働する発電所”で若手運転員が“実践”
南横浜火力発電所は、東京電力と中部電力が設立したエネルギー会社『JERA』が運営しています。実際に稼働している発電所で、この日は柏崎刈羽原発の若手運転員が研修を行っていました。
発電所の“心臓部”、制御室ではベテラン運転員に指導を受けながら運転管理を実践。動いている発電所の中でこうした操作パネルを触るのは、河端さんにとって初めての経験です。
柏崎刈羽原発6・7号機運転員 河端恒介さん
「再稼働後の柏崎刈羽原発6号機の現場を、イメージできるようになった」
2012年当時の記者リポート
「午前0時前です。6号機の発電がストップしました。柏崎刈羽原発は全号機が運転を停止します」
福島第一原発の事故後の2012年、柏崎刈羽原発では当時稼働中だった6号機が定期検査に入ったのを最後に全号機が停止。それから“13年以上”が経過しました。
商用の原子炉として『過去最長』となる可能性があるこの停止期間は、早ければ来年=2026年1月にも再稼働を目指す東電に対し、避けられない課題を突き付けています。
■原発再稼働は「10年も停止した乗用車を稼働することと同じ」
住民
「もう十何年も動かしていない原発だし、(過去に)地震に遭った原発なので、“ただマニュアルに沿っただけの運転”で運転できるはずがないと思う」
地域の会委員
「(再稼働を)例えて言うなら、10年も停止した乗用車を稼働することと同じだと思う。10年も止まっていたプラントの各起動試験は、様々なトラブルがあると思う」
1996年に営業運転が始まった6号機は、今年で着工から34年です。
建設から長い時間の経つ施設と、それを扱う運転員。再稼働を巡り県が行った意識調査では、東電の運転を「心配」とする回答が7割近くを占めましたが、東電はそれでも運転に自信を持っています。
柏崎刈羽原発 稲垣武之所長
「今の6・7号機の運転員は、若い人も含めてすごく高いレベルにある。これからすぐに運転に入れと言われても、確実に彼らはちゃんと運転操作、そして異常対応をしてくれると、私は自信を持って言える」
■原発で事故が起きた場合に「どこまでできるかが勝負」
一方で、柏崎刈羽原発6号機の設計にも携わった元技術者・後藤政志さん(76)は、「現状では事故を止めるための仕組み作りが不十分だ」と指摘します。
その上で、「(長期停止で)運転経験のない人がずっと増えている。経験と知識を持っていても、そう簡単に事故の時には対応ができないのが原発。事故が起こった時にどこまでできるかが勝負」と話します。
そして、さらに懸念がありました。
福島第一や柏崎刈羽の1号機から5号機は、『沸騰水型』と呼ばれる原子炉の中で発生させた蒸気を直接タービンに送る原子炉ですが、6号機は当時、世界初となるその“改良型”の原子炉として運転を始めました。現在設置されているのは、6・7号機を入れても国内で4基しかありません。
建設から時間が経つ古い原発である一方、比較的新しいシステムを取り入れた原発のため、後藤さんは「運転に伴う知見が十分に蓄えられていない」と話します。
後藤政志さん
「動いていないから劣化して錆びたり、それが一つ。でも逆もある。動いていないから運転経験が少ない。知見がたまっていないし、経験がたまっていないから、いろいろな劣化要因が出てきているかとか、そういった問題が出切っていないかもしれない」
■“来たる日のために” 訓練を続ける運転員
新潟県刈羽村にある訓練センターではこの日、原発の中枢・中央制御室を模したシミュレーション施設で、暗闇の中、訓練が行われていました。想定は地震により外部電源が喪失したという過酷な状況です。
「プラント緊急停止しました。SBO(全交流電源喪失)発生中。建屋内にいる人は退避願います」
この日は炉心損傷を防ぐために原子炉を冷やす手順を確認しました。
柏崎刈羽原発には10月末現在で255人の運転員がいますが、中でも東電が再稼働を目指す6・7号機は、106人のうち半数以上の61人が原発を動かしたことがない未経験者です。
稲垣武之所長は、運転員の役割について、こう話します。
「日々、発電所の設備を最前線で見つめている人。発電所の安全を守り、そして地元・地域の皆さまにとって安心いただける発電所をつくる“守護神”のような存在だと。長い(停止)期間の『実体験で感じる』ことができないという影響は少なからずあるとは思っている」
■“再稼働への答え”迫る中で東京電力に運転能力はあるのか
柏崎刈羽原発では、年間の5分の1に当たる70日をシミュレーター訓練に充て、運転員の養成に重点を置いているということです。
柏崎刈羽原発6・7号機 山岸英明当直長(53)
「福島第一原発の事故を経験している当社としては、同じような事故を起こさないために日々繰り返し訓練をして、自分が経験したような失敗談を含めて若い子たちにしっかりと伝えて、知識につながればいいなと」
ただ、受け継がなければならないのは技術や経験といった“形のないもの”。
そこで東電が力を入れるのが、経験豊富なベテラン=その名も『シフトテクニカルアドバイザー』が助言や指導を行う取り組みです。
運転員になって3年目の河端さん。この日は運転歴40年のベテランと、マンツーマンで設備のパトロールを行いました。
柏崎刈羽原発6・7号機運転員 河端恒介さん(27)
「運転中の現場についてはまだ知らないこともたくさんあるので、きょうも新しく教えてもらったこともあった。現状の自分の知識の量に満足せずに勉強し続けて、安定した運転に貢献できるような運転員になりたい」
花角知事が11月21日に“容認”を表明し、残すは県議会の判断を待つばかりとなった原発再稼働。東電の実力が問われるのは、これからです。