新潟県は柏崎刈羽原発再稼働における問題点の抽出等に関して、3つの分野の検証委員会(事故原因、健康と生活への影響、安全な避難方法)の検証結果を取りまとめる委員会として検証総括委員会を設置し、委員長に池内了氏を選任しました。
しかし1回会合が開かれましたが、何故か2回目以降は召集せずに放置し、任期切れで自動的に委員会自体を解散させるという異常な方法で、実質的に総括の作業を妨害しました。県が代わりに総括しましたが、それは非常に形式的というしかないものでした。
しんぶん赤旗が池内氏に「論点・焦点」を聞きました。
池内氏は冒頭の部分で花角知事の姿勢は形式民主主義あるいは手続き民主主義と批判します。
要するに手続きさえ踏んでいればいいだろうという態度で、事故時の避難道路の整備や屋内退避のためのシェルターを造ることを国に要望してはいるものの、実際には「まだ全く手がついていないにもかかわらず再稼働を容認していく」というところにそれを感じると述べます。
それは極めて鋭い指摘であり、「安全な避難のために必要な条件が整わないうちに再稼動していいのか」という指摘こそは、県としては一番触れて欲しくない点です。
そもそも新潟県の特殊性は豪雪地帯という点であって、豪雪時に地震が起きた時の民家の損壊度は、中越沖地震時の比ではありません。それにもかかわらずその検討は何一つ行われていないまま、再稼働に進もうとしています。
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2025 焦点・論点 柏崎刈羽原発再稼働
「新潟県原子力発電所事故に関する検証総括
委員会」元委
員長・名古屋大学名誉教授 池内 了さん
しんぶん赤旗 2025年12月22日
東京電力柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働について、新潟県の花角英世知事が国の要請を「了解する」と表明したことに対して、「新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会」元委員長の池内 了名古屋大学名誉教授に聞きました。 (松沼環)
いけうち・さとる 1944年生まれ。総合研究大学院大学名誉教授、名古屋大学
名誉教授。世界平和アピール七人委員会委員。著書に『科学者と戦争』など。
新潟県原子力発電所事故に関する検証総括委員会
県が、三つの分野の検証委員会(事故原因、健康と生活への影響、安全な避
難方法)の検証結果を取りまとめる委員会として設置し、2018年2月に初会
合。同年6月の花角知事就任以降、1回会合が開かれましたが、県側は、議題
や運営方法で池内委員長と意見の相違があるとして2年以上開催しないまま、
23年3月末の任期切れを□実に全委員を再任せず解散。総括報告書は、同年9
月に県が事務的にまとめました。
県民投票で「信を:問え」広がる新.たな安全神話
-花角知事が柏崎刈羽原発6、7号機再稼働の容認を表明しましたね。
私は以前から、花角知事の姿勢は形式民主主義、あるいは手続き民主主義と批判してきました。要するに手続きさえ踏んでいればいいだろうと。例えば、事故時の避難道路の整備や屋内退避のためのシェルターを造ることを国に要望していますが、国の同意を得るだけで、実際にはまだ全く手がついていないにもかかわらず再稼働を容認していくところに、そういう姿勢を感じます。
-新潟県の県民意識調査では、再稼働の条件が整っているかの問い約6割が否定的な回答ですね。
知事は安全対策などを周知していくことで再稼働への理解が広がると釈明しています。しかし現段階で県民が理解できていないのであれば、どれだけ自分たちの説明が足りないのか反省する必要があります。
さらに知事の判断について「県民の意思を確認する」と言いながら、結局、県議会での自らへの信任にすり替えているのです。判断の責任を議会に投げてしまった格好です。
-手続き民主主義だけど、その手続き自体に問題があると。
県は、県民の疑問に対してまっとうに答えるのではなく、形式的に、東電福島第1原発事故に関する総括報告書を出し、県技術委員会の柏崎刈羽原発の安全性に関する報告書も非常に形式的です。
手続きの中身は、住民の意見をくむためでなく、ただ一通り済ましたという印象です。本当に県民の信を問うのであれば、県民投票をするべきです。
花角氏が最初に知事選に出た2018年の公約には、再稼働に問する判断について「県民に信を問う」とありました。誰が読んでも県議会の信任を問うこととは違います。今回の表明は裏切り行為です。
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-池内さんが委員長を務めた検証総括委員会は、花角知事の下で、途中から開催されなくなりました。本来どんなことが検証されるべきだったと考えていますか。
一つはタウンミーティングをきちんとやって、県民の意向を幅広くきちんと取り上げるべきだと主張してきました。
二つ目は、柏崎刈羽原発の安全性にも関係する福島第1原発事故の未解明の問題です。地震の揺れで計器が壊れたのではないかとか、水素爆発が建屋のどこで起きたのかとか、たくさんの問題が未解明のままです。それに対して柏崎刈羽原発は、きちんと手を打っていることを東電が示さないとだめです。そういう詰めた検証がなされていません。
三つ目は避難の問題です。重大事故が起きたとき、避難において放射線の被ばくが避けられないものなのかどうか。私は被ばくを前提にした避難は意味がないと考えています。
しかし、現実には被ばくが避けられないものだと考えられている。今の避難計画では、PAZ(50キロ圏内)では即時避難で、UPZ(5~30キロ圏内)では屋内退避が原則です。でも、避難するための道路や建物が壊れたり、大雪で自動車が動けなくなったりすると、いまの避難計画では何ともならない。このように複合災害時の避難計画の整合性、実効性が本当に議論されていません。
-原発事故での避難住民の被ばくがゼロにならない場合、どこまでなら容認できるのか社会的な合意はありません。
被ばくがない避難はあり得るのか?あり得るとは私は思えない。被ばくを前提とした避難しかないとなれば、原発を稼働させるべきではないのです。
今、原子力の安全神話が再び広がっています。被ばくしてもすぐに死ぬわけではない、だからそんなに気にすることはないという意見です。特に福島では、放射能のことを話すのは風評被害だと決めつけられています。放射能に対する安全神話になっているのです。
-かつての安全神話は、原発は重大事故を起こさないでしたが。
放射能、恐れるに足りずという新しい神話が宣伝されているのです。
それからもう一つ、神話に近いのは、日本では一度事故を起こしたのだから、たとえ再び事故を起こしたとしても、今度はたいしたことはないというものです。
例えば新潟県が実施した被ばくシミュレーション(模擬実験)がありますが、福島事故で放出された放射能の1万分の1程度という条件です。その結果、UPZなら屋内退避、PAZなら即時避難をすれば大丈夫としています。
福島事故では30キロ以遠でも避難が必要でした。福島事故と同じ放出量でシミュレーションをやるべきではないでしょうか。
―政府は原発推進をあらわにしています。
本当に近視眼的、無責任な対応だと思います。
今、原発の新設に乗りだしても15年、20年先でないと動かない。しかし、15年、20年先のエネルギー事情はどうなっているでしょうか。日本は、原発を増やそうとしていますが、世界の潮流は全然遠う。再生可能エネルギーが大幅に普及している。15年、20年先まで今のエネルギー政策のままでは日本は、完全に3周遅れぐらいになります。
原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出す核燃料サイクルは、ほとんど絶望的です。再処理施設も30年近く動かない。また、原発を動かして増え続ける使用済み核燃料の処分地も全然決まらない。どこも行き詰まりの中で、原発に固執するのは本当に無責任だといえます。
長期的視野に立ったエネルギー政策が必要です。市民も、しっかり考えて自分たちの判断を下す。そういう姿勢が必要だと思います。