福島民報のシリーズ「【廃炉の現場】第1部デブリ取り出し」の(2)~(3)です。
まだまだ五里霧中という感じです。
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【廃炉の現場】(2)第1部デブリ取り出し 作業阻むコロナ 2号機試験見通せず
福島民報 2020/11/03
最長で二十二メートルになる金属性のロボットアームが六カ所の関節を駆使し、蛇腹(じゃばら)状に伸び縮みする。東京電力福島第一原発から、約一万キロ離れた英国・イングランド東部のオックスフォードにある研究施設。福島第一原発2号機の溶融核燃料(デブリ)取り出しに向け、各国の英知が結集している。
英国は新型コロナウイルスの感染対策で三月下旬にロックダウン(都市封鎖)を実施した。六月に解除されたが、欧州各地で感染が再拡大しており、五日から再び外出制限される。廃炉工程表に示した2号機のデブリ取り出しが来年に迫る中、新型コロナが廃炉作業に陰を落としている。
■数センチ単位
英国原子力公社の遠隔操作・ロボット技術センター(RACE)で当初は八月に、取り出し装置がデブリに到達するかの試験を実施する予定だった。現在、感染防止のため、RACEの研究体制を縮小しており、試験の見通しは立っていない。
来年二月以降、楢葉町にある日本原子力研究開発機構(JAEA)楢葉遠隔技術開発センターにロボットアームを移送し、操作訓練を予定している。開発を担う国際廃炉研究開発機構(IRID)は「工程への影響を最小限にとどめたい」と調整に努める。
2号機格納容器内部の放射線量は毎時約二一〇シーベルトと極めて高く、デブリ取り出しの障壁となっている。二〇一七(平成二十九)年二月、IRIDが開発したサソリ型自走式ロボットで格納容器内を調査したが、自力走行できなくなり途中で断念した。
ロボットアームは一定程度の放射線量に耐えられる仕様となっているが、限られた時間で数センチ単位の慎重な作業が求められる。格納容器側面からデブリを取り出すには、圧力容器直下にある制御棒の駆動装置など複雑な構造物を避ける必要があり、わずかな誤差も許されない。
緻密な作業には十分な訓練が欠かせないが、新型コロナのため英国の技術者が来日できるか不透明となっており、楢葉遠隔技術開発センターでの訓練にも影響している。
■最多42トン
2号機には二百三十七トンのデブリがあると推定される。このうち、格納容器の底部に溶け落ちたデブリとは別に、圧力容器内には1~3号機で最も多い四十二トンが残る。圧力容器内のデブリ取り出しは格納容器からの取り出し工法を応用できるものでもない。一からの作業が必要になるが、調査の手法や開始時期は未定のままだ。
デブリを圧力容器下部から取り出した場合、作業時にデブリや周辺の構造物が格納容器底部に落下する恐れがある。機器への影響や廃炉作業の新たな障害を生む懸念があるため、現実的ではないとの見方がある。
側面や上部から取り出す場合、調査機器を圧力容器内に入れるための貫通部を設ける必要がある。そのためには、建屋上部の使用済み核燃料プールから核燃料取り出しをするのが前提となる。ただ、2号機の核燃料取り出しは二〇二四年度の開始を予定しているが、完了時期は示されないままだ。
「一つ山を越えたとしても、すぐに次の山が見えてくる」。東電の担当者は山積する課題に頭を悩ませる。
【廃炉の現場】(3)第1部デブリ取り出し 1号機「未知」の領域 開始時期決まらず
福島民報 2020/11/07
二〇一七(平成二十九)年三月、東京電力による福島第一原発1号機の原子炉格納容器の調査は、思うような結果を得られなかった。格納容器の底部にある溶融核燃料(デブリ)の状態を把握するため、ロボットを投入した。一メートル近くに上る金属などの成分を含んだ堆積物が存在し、行く手を阻んだ。東京電力の担当者は力なく語った。「想定外だった」
炉心溶融(メルトダウン)が起きた1~3号機の中で、1号機はデブリの詳細な情報が得られていない。地震による津波の直後に注水が停止し、ほとんどの燃料が格納容器底部に溶け落ちたとみられる。格納容器の中心部には圧力容器を支える土台があるが、デブリが相当な量あるとみられる土台内側の状況は分かっておらず、取り出し開始時期は決まっていない。
廃炉に携わる研究機関や行政の関係者は1号機のデブリ取り出し作業について、口をそろえる。「いまだ『未知』の領域」
■格納容器底部
二〇一五年、宇宙線の一種「ミュー粒子」を使った調査が1号機で行われた。ミュー粒子の反発を分析し、格納容器内のデブリの位置や量を調べるためだ。関係機関の推計では、デブリの総量二百七十九トンのうち、九割以上が格納容器底部にあるとされている。
東電などは、今年度後半に新しいルートで改めて格納容器内部、さらには圧力容器を支える土台の内側を調べる予定だ。
現在、格納容器の内部は水で常に満たされ、“冷温停止”状態を保っている。潜水機能付きボート型ロボットは複数の種類を開発した。カメラで内部を把握し、超音波で堆積物の厚さや形状などを計測する。ウランから発せられる中性子の流れを測定し、デブリの位置の特定も目指す。全体で数カ月かけるこれまでにない規模の調査になる見通しだ。
東電などは操縦の訓練を重ねているが、事故で様相が変わった内部は不明な部分が多い。国際廃炉研究開発機構(IRID)関係者は「圧力容器の真下に当たる土台の内側など中心部に入れない事態も想定される」と不安を明かした。
■浸食
東電などは1号機のデブリ取り出しについて、燃料の大半が溶け落ちている格納容器底部の状況把握が、鍵を握ると予測する。
デブリの上にある堆積物は厚い場所で一メートル近くに上っていると推計される。堆積物は「砂状」「柔らかい」との見方があるが、映像だけが主な判断材料で、研究者間で詳細なデータが必要とされている。放射性物質の量次第では、除去や搬出で、より慎重な作業を求められる。
事故直後、核燃料は核分裂を繰り返して高温になった上、再び冷却されるまでに時間を要した。底部のコンクリートと放射性物質が反応を起こした可能性は高く、コンクリートへの侵食程度も見通せない。
原子力関係の有識者は「デブリのコンクリートへの侵食度合いによって作業の工程、難度は大きく違ってくる。格納容器に損傷を与えず、調査、取り出しをする技術、作業手順も不可欠だ」とした。侵食の状態をいかに正確につかむか。廃炉に向けた重要な課題として浮かび上がる。