2022年9月26日月曜日

原子力規制委員会 更田豊志委員長 単独インタビュー

 原子力規制委発足から2期10年にわたり原発の安全審査などに従事し、後半の5年間は委員長を務めた更田豊志氏が9月25日をもって退任しました。テレビ朝日が豊田氏に単独インタビューをしました。
 インタビューでも述べているように規制委が「処理水」を安全と見做して、当初から海洋放出以外の選択肢を事実上持たなかったことには大いに違和感を持ちますが、それ以外に関してはそれなりの使命感をもって臨んでいたようです。
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原子力規制委員会 更田豊志委員長単独インタビュー 
   審査のハードル「決して下げない」
                     テレビ朝日系(A NN) 2022/9/26
委員時代を含め原子力規制委員会発足から2期10年の長きにわたり、原発の安全審査や福島第一原発(以下『1F』)の安定化に貢献した更田豊志委員長が9月25日をもって退任にするにあたり、テレビ朝日の単独インタビューに応じた。処理水の希釈海洋放出、先の見えない1Fの廃炉、そして岸田政権の「原発再稼働推進」という“政策転換”についてどのように考えるか、話を聞いた。
          (インタビュー:社会部・吉野実、報道ステーション・片野敦文)
▽処理水の沖合放出は「ベストというより過剰」
-処理水の希釈海洋放出を認可した。あれがベストな計画か。
A .そうですね、私たちが必要だと考える以上の対策になっているので、例えば、必ずしもあそこまで沖合で出さなければいけないとは思っていません。東京電力は自らの対策として沖合で出すという形をとっているが、心理的なものを除けば沖合で出す理由は余りない。規制から言えばベストというより過剰と言っていい対策です。

▽風評被害を抑えるのが先決
-そこまでのことが必要なのか。委員会、規制庁が「そこまでする必要性はないのではないとか」「やりすぎではないか」と指摘する必要はないのか。
A .何事にもメリットデメリットがある。科学的に考えてこれは過剰な部分があるとか、費用がかさむであるとか言うことによって、実現できなければ元も子もない。今、政府を挙げて風評被害対策に取り組もうとしているところであって、政府を挙げて、より多くの方の理解を頂くよう努力しているところです。科学だけ、技術だけでモノを言うべき局面と、必ずしもそうではない局面があると思います。

▽希釈処理水の安全性「決して欺こうとしているわけではない」
-希釈した処理水は「地元理解を得た上で」放出する約束がある。そこは何をもって理解を得たことになるのか。
A .例えば、比喩を使うのは良くないかもしれないが、手洗いの水を、どれだけ化学処理しても、それを飲むことに抵抗はありますよね。科学的にこれは、純粋な水と変わりありませんと言われても、もちろん心理的抵抗はある。液体放射性廃棄物の放出に際しても、これが環境に影響が出ない程度まで希釈されたものを、十分にコントロールして出している、と言っても、当然心理的抵抗はあるでしょう。異論反論があるのは当然のことだと思います。しかし、反論があるから実行できないとなると、あの困難な廃炉が暗礁に乗り上げてしまう。苦渋の選択ではあるが、外によりよい選択があるわけではないので、実行に移させてくださいと、お話しし続けるしかないですし、じゃあ、どこまで行ったら理解が得られたとみなすのか、単純な多数決の問題ではないだろうと思います。この間私が福島第一原子力発電所を訪れた際は、いわきの駅前では、処理水の希釈放出の実施に向けて、反対の声をあげておられる方がいた。それは、そういった方の活動や声があることは十分に理解できるけれど、でも避けて通れない。意見の対立は残るのだろうと思いますが、一方が一方を欺こうとしている訳では決してありません。

▽放射性廃棄物の処分は「国が前に出るべき」
-理解を得る作業はずっと続けると。
A .それはそうでしょうね。ただ、福島第一原子力発電所の廃炉に関して言えば、液体放射性廃棄物の処分は、今回、始まろうとしているところですが、固体の方がはるかに、もっと大きな問題として残るわけで、これから私たちは、固体廃棄物をどうするんだということに関しても、発信をしていかなければならない。
段々気づいたのですが、いくら東京電力が主体だからと言って、東電に任せてやれる時期を過ぎたかなと。片付けそのものは東電が主体となってやれるかもしれないが、廃棄物問題は、私たちも含めてですが、国が前に出ないともうどうにもならないと。米国の場合はハンフォード(注:ハンフォード核施設、ワシントン州)がTMI(注:ペンシルベニア州スリーマイル島の原子力発電所。1979年3月、過酷事故を起こした)のデブリ類を引き受けたのですが、元々軍用のごつい組織があって、あれだけの国土があってできたことですけれども、日本の場合、うちが引き受けよう、という地域が出てくると考えるのは、甘いと思うのですね。そういった問題を、東京電力が自ら発信しろ、道義的には東電に最後まで自分で責任を取り続けろというのはある意味正しいのかもしれないけれども、廃棄物に問題に関しては国が前に、もっと前に出る態勢を作っていかないと、中々これから先は難しいだろうというのは、処理水の問題を通じて、私たちも学びましたね。

▽デブリ取り出し「まだスケジュールは立てられない」
-2号機デブリ取り出しが2回目の延期になった。
A .デブリ取り出しに関しては、まだまだ今の時点で1年遅れ2年遅れというのを問題視するほど、はっきりスケジュールがたてられるものだと思っていません。一方でやはり期待を持っていたわけで、イギリス技術を導入して、国内では三菱重工が取り組んで、ただ、ちょっとした手元の違いが先で大きな違いになる。これはもう、分かっていたような話ではあるけれど、実際にやってみると難しいというのがああいう現場なのだと思いますが、海外技術と国内技術との間のコミュニケーションは必ずしもすぐに図れなかったと聞いています。

▽廃炉30-40年という期間に「特段の意味はない」
-30-40年で廃炉は土台無理ではないか。国と東電は腹を括(くく)って、地元へは、もっと時間がかかると言うべきでは。
A .私は一貫して、30-40年(という期間)は特段の意味はないと言っているのですが、ただ、じゃあ、何年かかるか分かりません、という姿勢が真面目な姿勢に映るか、というのはあるわけで、政府にせよ、NDF(原子力損害賠償廃炉等支援機構)にせよ、何らかの目標をまず掲げて取り組むのはアブローチとして一般的なことだと思います。とはいえ、30年40年(という廃炉期間)は何を意味するか、明確になっていないのも事実だと思います。

▽デブリ、まずは管理・保管された状態にすべき
-国は「デブリの全量取出し」と言っているが、まだ目指すべきか。廃炉に向けた工程表(ロードマップ)というのは、修正しないでいいのか。
A .ロードマップは適宜、一定期間を置いて、見直され続けるものと思っています。今のロードマップがそのままずっと維持されるものではないのは、それを策定している主体もよく理解していると思っています。それから、全量取り出しと言っていますが、取り出したものが、どこかに行くわけではないです。どこか、が見つかる宛があるわけでもないので、全量取出しというのは、今の時点で目指すべきは、管理した保管状態に持っていくことです。管理した保管状態というのは、一つは保管容器(キャスク)に入れた状態で、もう一つは、保管容器に入っていないまでも、固めた状態。この2つの状態に持っていくというのが、現在の目指すべき状態です。

▽冠水工法、検討はまだこれから
-NDFから、3号機のデブリ取り出しで、冠水工法が復活し、建屋の外に建屋を作って冠水するという案が示された。地下も含めて冠水する、というのは実現可能か。
A .本当に止水できるのか、(原子炉建屋の)四方に壁を作ったはいいけれども、床が中々埋まらず水が抜けてしまっては水位が上がってこないので…。だからやり方の検討はまだまだこれからだと思います。でもね、少なくとも、作業中の安心感は、その方があるんですよ。作業者の安全という観点から行っても、冠水させた方が、(被ばくの危険は少なくなり)安心だし。また、(放射性物質を含んだ)ダストの飛ぶ心配を考えると、がっちりしたもので冠水させるのは、少なくとも、作業を完了させるまでの期間は、かえって長引くかもしれないけど、作業中の安心感はあるように思います。

▽政府の再稼働推進方針-「私たちは私たちの仕事をするだけ」
-ある意味、一番聞きたいところですが、岸田内閣になってから、政府命令で再稼働を進めるということになって、経産大臣に対して、冬は9基再稼働しなさい、という命令を出した。こういう動きについてどう受け止めているか。
A .まず、9基というのはいずれも(設置変更)許可を受けていて、そのまま進めば動く予定のものです。あれは経産省、推進当局への指示だと受け止めています。規制側としては、規制側の役割を、これまでと同じように果たすのみです。私たちは私たちの仕事を粛々とやるだけです。

▽高まる審査効率化の声「圧力を感じたことはない」
-政府与党から新規制基準の審査の効率化をという意見が出ているが、政治的な圧力を感じたことはないか。
A .いや、何をもって圧力というのか分かりませんけど、政治的な圧力を感じたことは一度もありません。

▽最長60年の“原発寿命”「議論されるのは悪くない」
-運転期間最長60年、これを延長しろという声も出てきているが、こういう意見についてはどう思われるか。
A .もともと今の40年、プラス一回限りで最長20年っていうルールは、科学的・技術的な検討だけじゃなくて、国会においては政策的な非常に幅広い議論の末に定められたものです。技術的には議論の余地があるだろうと思っていますし、議論はされるのは悪いことじゃないと思います。

▽エネルギー源には「余裕」が必要
-政府方針では原子力の依存を低減するという一方で、岸田総理は次世代原発の推進や再稼働の推進を明言した。現実的な政策に転換したのか。
A .エネルギーセキュリティについて語る立場ではありませんけど、エネルギー源というのは容量という意味では余裕をもたせておかなければならない。というのは、それぞれの電源に弱みがありますから。再生可能エネルギーの中でも多くのものは異常気象であるとか、あるいは自然ハザード(注;地震、津波、竜巻、火山噴火等)によって影響を受けるものが非常に多くある。それぞれ弱点があるのでそれを補う形でエネルギー源を構成しなければならないのだと思います。

▽東京電力「困った」「出来ない」ははっきり言うべき
-東京電力は処理水処分を含めた廃炉にせよ、再稼働の問題にせよ、国の顔色を伺ってしまって自分たちで意思決定できない、どんどん主体性を無くしているように見える。
A .東京電力と進めている監視評価検討会(注:月1回のペースで開かれる規制委の会合の一つで、1Fの廃炉について突っ込んだ意見交換が行われる)で、私が委員として発足した時から指摘していたのは「できないことはできないと言ってね」と。東電がやらなければいけないのはわかるし、色々言われていますけど、「できません」っていうのは言ってくれないと、できないんだったら一緒に考えよう、とアドバイスしてきました。でも、まあ、東電はつらい立場に置かれていますよね。「できない」とは中々言わせてもらえない環境にあるし。繰り返しになりますけど、処理水の処分の時も東京電力が「やらせてください」と言えるような環境になかった。恐らく東電がそういうふうに発信することが好ましくないと考える向きもあったんだと思います。現場が主体性持って、現場の声が計画に反映されるようになることは大変重要です。一方で、これから最も困難になるであろう廃棄物の管理という点からすると、1Fの廃炉は、非常にざっくりした言い方ですけど、今まで以上に国が前に出ないと進まないと思います。

▽1F廃炉「政府内の協調・議論が必要」
-これから規制委と経産省との会合を増やさないといけないのでは。
A .規制と推進は明確に分離されているべきであって、我々は何基動かす必要があるという声を受けて、じゃあ(審査の)要求のハードルを下げようかとは夢にも思わないし、我々は要求水準を決して下げない。(ただ)1Fの廃炉はちょっと違うだろうと。規制と推進が分離して、それぞれ別途東電を叩いているっていう構図じゃどうにもならない。1Fの廃炉に向けた取り組みはこれまで以上に、政府内での協力とか協調・議論というのが必要になってくると思います。

▽新委員長の山中伸介委員長は「意思は強いがマイルド」
-山中新体制への期待、助言は。
A .すごく期待しています。委員長のキャラがものすごく変わりますから、(前委員長の)田中俊一さんも私もどちらかというと圧が強いタイプ、山中先生はソフトですよね。中は非常にがっちりした、非常に強い意志を持っている方だけど、少なくとも表面上はソフトじゃないですか。これは組織に新たな風を吹き込むことになるし、いい影響が出るのではないかという風に期待をしています。

▽「退任後も1Fの廃炉に関わり続けたい」
-今後はどうされるのか。1Fの廃炉に関してどう関わっていかれるか。

A .退任後の予定は全く何も決まっていませんけど、ただ希望としては福島と関り続けたいと思っています。(前委員長の)田中俊一さんの場合は、専門が放射線の遮へい等だったので、オフサイト、サイトの外でより専門性が生きるということで(福島県)飯舘村の農業の復興であるとか、あるいは土壌の利用であるとかで尽力されている。私の場合は(専門が)原子炉工学ですので、自分の知識や経験が生かせるのはおそらくサイト内になると思いますけど、であるだけに、1Fの廃炉に何か関わることができればと思っています。いずれにしろ、福島県、福島地域とのつながりは持ち続けたいと思っています。