2022年9月14日水曜日

福島の避難指示解除区域の住民帰還頭打ち 居住率3割にとどまる

 国の避難指示が解除された福島県内の区域で、住民登録者4万9346人のうち、実際に住んでいるのは31・5%(1万55455人)にとどまることがわかりました。

 居住率は、避難指示区域が部分的だったり、早期に解除されたりした地域ほど比較的高く、避難解除まで時間を要したりした市町村の場合、商業施設や交通インフラを整えても住民が思うように増えていません。避難解除の時期が遅れるほど現住所とのつながりが強化されるためと思われます。
 河北新報が、11地区の居住率をグラフで表示しました。
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避難指示解除区域の住民帰還頭打ち 福島第1原発事故被災地、居住率3割にとどまる
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 東京電力福島第1原発事故に伴う国の避難指示が解除された福島県内の区域で、住民登録者4万9346人のうち、実際に住んでいるのは31・5%(1万5545人)にとどまることが、各市町村への取材で分かった。全住民の避難が唯一続いていた双葉町で8月末に一部解除。事故から11年半で居住ゼロの被災自治体は解消されたが、帰還は頭打ちの様相となっている。(報道部・吉田尚史)
       【グラフ】避難指示解除11市町村の居住率
 調査中の双葉町を除く10市町村に聞き取りをし、7月31日か8月1日時点の解除区域の居住率などを算出した。避難先から戻った住民のほか、復興事業関連の作業員や移住した人なども居住者に含む
 居住率が6割を超えたのは田村市(都路地区東部)85・0%、南相馬市(小高区、原町区の一部)60・1%、楢葉町64・0%の3市町。避難指示区域が部分的だったり、早期に解除されたりした地域ほど比較的高い傾向が続く

 一方、立ち入りが制限される帰還困難区域を抱えていたり、避難解除まで時間を要したりした市町村の場合、商業施設や交通インフラを整えても住民が思うように増えていない
 2017年3月に解除された飯舘村は32・1%、同時期に解除された浪江町も14・5%と低迷。第1原発立地自治体で、今年6月末に帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)が解除された大熊町は6・0%だった。自治体によっては避難元から住民票を移すケースも増えている。
 時間経過とともに解除範囲が広がるため単純比較はできないが、双葉町を除く10市町村を対象に昨年実施した同様の集計でも31・6%と横ばいの結果だった。
 住民は高齢者が多く、65歳以上の割合(高齢化率)は42・7%で、全国の28・9%を大きく上回る。川俣町(山木屋地区)が66・2%と最も高く、川内村(東部地区)60・3%、飯舘村58・5%と続いた。
 15歳未満の子どもの割合は全体で6・0%。楢葉町が8・2%と最も高く、葛尾村7・1%、浪江町6・5%など。新規転入した子どもが総数を底上げした町もあった。町内に学校がない大熊町は最も低い1・3%(5人)にとどまった。
 8月末に帰還困難区域の復興拠点で避難指示が解除された双葉町は計1449世帯3574人が住民登録(7月末時点)。町秘書広報課は「正確ではないが、約30人が町内で生活しているとみられる」と推計する。現時点で居住率は1%に満たない可能性がある

■市町村、移住促進に懸命 新住民・働く世代を重視
 東京電力福島第1原発事故に伴う国の避難指示が解除された福島県内の区域では、全体の居住率が31・5%にとどまる一方、解除時期の差などによって各地の明暗が分かれている。市町村は移住政策を一段と加速させるなど、働く世代を呼び込んで地域を持続させようと懸命だ。
 スーパーや道の駅が役場周辺に集まる浪江町。2017年春に帰還困難区域を除いて避難指示が解除されて5年半近くになり、居住環境は改善されてきたものの、人口は伸び悩む。
 解除区域の住民登録数1万3137人のうち、実際に住んでいるのは14・5%(1903人)。35年の居住人口8000の目標は遠く、町は「非常に厳しい数字」(企画財政課)と捉える。東日本大震災前、双葉郡最多の2万1555人だった登録数も転出などで1万5750人まで減った。
 「町内の買い物環境はまだ十分とは言えないので、利便性を高めていきたい」と吉田厚志企画財政課長。町はJR浪江駅周辺の再開発を計画中で、新たな商業施設区画などを設けてにぎわいを生み出す狙いだ。
 同じ17年春に帰還困難区域以外が避難解除された富岡町も状況はあまり変わらない。解除区域の居住率は23・3%(2026人)。町に戻った住民と新たに転入した人の割合は、ここ数年ほぼ半々という。
 復興庁が21年度に実施した住民意向調査では「戻らない」と答えた割合は浪江町で52・4%、富岡町が49・3%で前年からほぼ横ばい。「既に生活基盤ができている」「避難先の方が生活利便性が高い」「医療環境に不安がある」などの理由が両町とも上位だった。
 人口減少は自主財源の要である税収に影を落とし、自治体運営はさらなる効率化を突き付けられる。富岡町の原田徳仁企画課長は「10年以上避難先で暮らしているので、帰還する町民の数が伸びるのはおそらく難しいだろう。であれば、新しい住民の呼び込みが欠かせない」と説明する。
 商業施設や病院、学校など一定の生活基盤が整い、各市町村は移住促進や交流人口拡大に力を注ぐ。
 富岡町は一歩踏み込み、本年度、国などの補助を受け関連事業予算として破格の約1億4000万円を確保。事業規模は右肩上がりで20年度の20倍に上る。
 一方、今年6月に帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)が解除されたばかりの大熊町は、先行自治体の背中を追う。復興拠点の居住率は住民登録5881人に対し、わずか0・2%(11人)。19年に解除された大川原、中屋敷両地区と合わせても6・0%(389人)止まりだ。
 町民に戻ってもらおうにも、大川原地区に設けた住宅地は既に満杯状態。町は復興拠点内のJR大野駅周辺の再開発を急ピッチで進め、新たに住宅エリアや産業拠点を整備する。
 同町の幾橋功企画調整課長は「町内の本格開発はこれから。即効性はないかもしれないが、次世代にバトンを引き継ぐため10年、20年、30年先の基盤を今つくらなければならない」と長期スパンで先を見据える。