2022年9月5日月曜日

海に県境はない 安心感の担保を/JCO臨界事故でも風評被害を痛感

 福島原発汚染水の海洋放出の影響は隣接する茨城県の漁業者にも及びます。農林水産省の統計では、茨城県産の海面漁業産出額は原発事故発生後約3割減りました。近年は漁獲量増加に伴い事故前を上回るに至りましたが、食用のほぼ全ての魚種を対象とした放射性物質サンプリング検査は現在も続いていて、廃止の議論は出ていません。それ程大きな影響があったということです。

 1999年のJCO臨界事故は作業員3人が大量被ばくうち2人が死亡し周辺地域の600人超の住民も被ばくしました。15キロはなれた茨城県ひたちなか市の海鮮系飲食店では客足事故前の半分以下に減り、元通りになるまで3年かかりました。
 海洋放出に伴う被害は福島県に限りません。福島民報が報じました。
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【理解と了解 処理水海洋放出~茨城編(上)】海に県境はない 大津漁協「安心感の担保を」
                            福島民報 2022/09/03
 処理水海洋放出計画を巡り、福島県だけでなく、隣接する茨城県の県民からも「放出反対」の声が相次ぐ。風評発生を防ぐには「国民的な理解と安心感の醸成が欠かせない」との指摘も上がる。茨城県内の事業者らの現状や思いを探る
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 水揚げされたばかりのシラスがコンテナに詰められ、次々と建物に運び込まれていく。日差しを浴び、きらきらと銀色に輝く。
 いわき市南部地域に接する茨城県北茨城市の大津漁港。同市の漁師鈴木清司さん(31)は残暑が続く8月下旬、シラスの水揚げ作業に励んでいた。「新鮮な旬の魚を味わってもらいたい」と力がこもる。一方で、先行きへの不安が拭えない。約70キロ離れた東京電力福島第一原発で来春にも、放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出が計画されているからだ。
 「(福島沖と茨城沖で)海はつながっている。放出が始まれば茨城県産の魚介類のイメージが悪くなり、また売れなくなってしまう
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 大津漁協によると、茨城県産の魚介類も福島県産と同じく「常磐もの」として全国に流通している。主要魚種はシラスやヒラメ、アンコウ、メヒカリなど。漁協関係者は「福島とほとんど変わらないよ」と話す。
 農林水産省の統計では、茨城県産の海面漁業産出額は原発事故発生後、約3割減った。2012(平成24)年以降は徐々に回復し、近年は漁獲量増加に伴い事故前を上回っている。
 ただ、食用のほぼ全ての魚種を対象とした放射性物質サンプリング検査は現在も続いている。茨城県によると、廃止の議論には至っていない。県の担当者は「魚介類の安全性を気にしている消費者は多い。処理水の海洋放出も予定されているのでなおさらだ」と事情を説明する。
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 茨城新聞社が今年夏の参院選に合わせて茨城県内の有権者を対象に実施した世論調査の報道によると、処理水海洋放出に「反対」と答えた人は回答者の44・3%に上り、「賛成」の35・5%を上回った。「分からない・無回答」は20・2%。年齢・性別では、特に若年層と女性で放出に慎重な傾向が見て取れた。
 大津漁協の坂本善則専務は、福島県沖と茨城県沖の海に県境はないとし、「処理水を海洋放出すれば茨城県産にも風評被害が発生する」と主張する。国などが科学的に安全だといくら情報発信しても、それが消費者に広く伝わり、安心感が醸成されなければ買い控えが起き、取引価格が落ちるとの見方だ。
 原発事故発生後、風評被害に長年苦しめられてきた経緯を振り返り、「ようやくここまで来たんだ。死活問題であり、消費者の安心感が担保されない現状での放出には反対だ」と語気を強めた。


【理解と了解 処理水海洋放出~茨城編(下)】よみがえる悪夢 JCO臨界事故 風評痛感
                             福島民報 2022/9/4
JCO臨界事故でも被害を受けたと語る須田さん。福島県のみに負担を強いず、全国各地で放出するべきだと訴える=ひたちなか市の「那珂湊おさかな市塲」
 茨城県は1999(平成11)年9月のJCO臨界事故により深刻な風評被害を受けた。臨界事故と東京電力福島第一原発事故の両方で影響を受けた事業者は、処理水海洋放出による「3度目の悪夢」に強い懸念を抱く。茨城県産の魚介類を看板商品にしている飲食業者は処理水に関する国民的な理解醸成と風評抑止に向け「福島県だけに負担を強いず、全国各地で放出してはどうか」と提案する。
 JCO臨界事故は東海村の核燃料加工会社ジェー・シー・オー東海事業所で発生した。作業員3人が大量被ばくし、うち2人が死亡した。周辺地域の600人超の住民も被ばくした。30万人以上の住民が避難や屋内退避を余儀なくされた。茨城県の報告書によると、影響は農畜水産業や商工業、観光業など幅広い産業に及び、被害額は合わせて150億円超に上った。

 茨城県ひたちなか市の那珂湊漁港近くで海鮮系飲食店を営む須田千鶴子さん(57)は臨界事故による風評被害を経験した一人だ。店舗は臨界事故の発生現場から南に約15キロの場所にある。当時は経営者ではなかったため被害額などは不明だが、客足は事故前の半分以下に減ったのを覚えている。「元通りになるまで3年はかかった」と振り返る。
 その12年後、今度は原発事故に見舞われた。「行っても大丈夫か」「魚介類は安全か」。毎日のように観光客から問い合わせがあり、その度に、放射性物質検査で安全性が確認されていると粘り強く伝えた。それでも売り上げは事故前の2~3割程度まで落ち込んだ。風評の厄介さを再び痛感した。
 須田さんは2度の経験を踏まえ、処理水海洋放出による風評発生をどうにかして防げないかと思案する。国民的な理解醸成が鍵だとし、「科学的に安全ならば全国各地で放出すべきだ。国民が自分事として処理水問題を考えるきっかけとなる」と訴える。福島県沿岸部に親戚がいるといい、「福島だけに負担を強いるのは納得できない」と思いを寄せる。

 処理水海洋放出による影響に懸念を抱くのは漁業関係者に限らない。ひたちなか市で干し芋などの加工業を営む鬼沢宏幸さん(60)も臨界事故と原発事故の両方で被害に遭った事業者として、政府に慎重な対応を求める。放出により茨城県のイメージが悪化しかねないとし、「できれば流さない方がいい」と語る。
 北茨城市で「常磐もの」のアンコウを売りにした旅館を営む武子能久さん(46)は処理水処分の必要性を感じており、「(放出は)致し方ない」と話す。一方で「確実に影響が出る」とし、風評対策に加えて幅広い事業者への支援を求めた。