2022年9月21日水曜日

関電の蔵王撤退の教訓 再エネ拡大のカギ握る丁寧な合意形成 

 風力発電事業計画が各地で挫折している背景について産経新聞が取り上げました。同紙は再エネ事業者地元の信頼を得られているかが重要であるにもかかわらず、立地選定の甘さや地元対話のずさんさが際立っていると指摘しました。そして事業者が住民をないがしろにする姿勢をとるのは論外で、遠回りになっても丁寧な合意形成を行うことから始めるべきだと述べました。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
関電の蔵王撤退の教訓 再エネ拡大のカギ握る丁寧な合意形成
                            産経新聞 2022/9/19
関西電力(大阪市)が蔵王連峰(宮城、山形両県)に計画した風力発電所の建設事業が、景観や環境への悪影響を懸念する地元の反発の高まりで、7月末に白紙撤回された。再生可能エネルギーの拡充が国策として進められる中、再エネ事業者と住民間の同様のトラブルは今後も全国各地で生じる可能性がある。関電の蔵王撤退は、地元の信頼を得る形での合意形成が事業成否のカギを握るということを改めて浮き彫りにした。

■高まった不信感
「地域の意見を踏まえ、計画の見直しを検討した結果、環境への配慮と事業性の両立が難しいと判断した」
関電は7月29日、こうコメントし、蔵王連峰で計画していた風力発電事業の中止を発表した。
計画は最大で高さ約180メートル、直径約160メートルの風車を最大23基を建設するものだった。この事業概要が明らかになったのは、関電が5月30日に環境影響評価(アセスメント)に基づく「計画段階環境配慮書」を経済産業省や両県に示したからだ。
しかし、関電のその後の対応は、立地選定の甘さや地元対話のずさんさが際立った
建設予定地に蔵王を選んだ理由について関電は、風況が良く、送電網や幹線道路が近いなど、発電拠点としての効率性を挙げた。ただ、事業想定区域に蔵王国定公園や絶滅危惧種のイヌワシの行動圏が含まれていたことから、住民の不信感が強まることになった。
また、住民説明会で、関電の担当者の回答が首尾一貫していない部分や二転三転する場面も目立ったという。関電幹部が蔵王を訪れた際にも、誠実な対応に欠けていたと評された。
生態系への影響の懸念に加え、関電に対する住民の不信感が高まり、宮城県側の地元、川崎町長や蔵王町長、山形県側の山形市長らは相次いで反対の意見書をそれぞれの県知事に提出。宮城県の村井嘉浩知事も反対の立場を鮮明にした

■「法整備必要」
事業継続が困難だと判断した関電について、村井氏は29日、記者団に撤退方針を評価しつつ、これまでの関電の対応に加え、国の制度設計にも苦言を呈した。
「蔵王連峰の景観を汚してしまうことは県民感情として承服しがたい。住民が反発する場所で、法律上問題がないからといって、一方的に前に進めるのはあってはならない。住民感情を基に賛成か、反対かの判断を、自治体に与えるといった法整備が必要ではないか」
風力発電施設や太陽光発電施設などの建設は景観や生態系への影響だけではなく、災害を誘発する危険性も指摘され、再エネ事業者は蔵王以外でも全国各地で地域住民と軋轢(あつれき)を生んでいる。一方、環境影響評価法に基づき、地元自治体の首長は再エネ事業に対し、意見は表明できるが、最終的には地元自治体の同意がなくても事業化可能となっているのが現状だ。
国も傍観しているわけではない。経産省や農林水産省、環境省など関係省庁の有識者会議は7月末、地域と共生した再エネ施設の拡大に向け、地元地域での説明会など事前周知の義務化などを盛り込んだ提言案をまとめた。政府は今後、必要な法整備を行う方向だ。

■「遠回りになっても」
政府は2030(令和12)年度の電源構成を、再エネで36~38%にする目標を掲げている。20年度に19・8%(速報値)だった割合を、10年でほぼ倍増させるためには、太陽光や風力の拡大が欠かせないとされる。
脱炭素に貢献する再エネ拡充の必要性は、今回反発した蔵王の住民の間でも一定の理解を得られていたとみられる。
「蔵王風力発電建設計画の中止を求める会」の共同代表を務めた飲食店経営、佐藤雅宣さん(43)は、再エネの拡大に理解を示しつつ「事業者が計画ありきで進めようとすれば、住民は不信感を抱いて反発する。遠回りになっても丁寧な合意形成を行うことから始めるべき」と指摘する。

もう1人の共同代表の農業、佐藤大史さん(40)も「エネルギーの地産地消は進めていくべきで、住民も反対のための反対ではなく、事業者と最適解を見つける努力が必要になる。事業者が住民をないがしろにする姿勢をとるのは論外だ」と話している。(奥原慎平)