時事通信が「政府に問いたい! 小泉氏ら元首相5人の書簡は本当に不適切なのか」とする記事を掲げました。通信社(時事通信や共同通信)は一般に政府寄りと言われているので、このように政府に対して正式に疑問を呈するのはよくよくのことです。
政府(や福島県の専門家会議)は、単に福島県児童の甲状腺がんと原発事故は関係ないというのみでその根拠は示してきませんでした。
記事は「因果関係を認めると、原発をやめなければならなくなるのが怖いのではないか」、 「『適切でない』ことは何か。真実をしっかりと見極める必要がある」と述べています。
元首相5人の書簡が本当に不適切なのであれば、政府はその根拠について明確に(定量的に)示すべきです。
それとは別に、植草一秀氏が、日本の元首相5名がEU欧州委員会に対して送付した書簡による声明に対する批判を政府とメディアが流布していることに対して、その批判は正当ではなく元首相5人の指摘は事実であると述べました。
一般に公害問題では日本政府に限らず、自分たちが証拠を突きつけられるまでは企業やそれを擁護する政府は「無害」だと主張するのが常です。
福島原発事故以前には小児甲状腺がんは年間100万人に1人か2人しか発症しないと言われていました。それが事故が起きると俄かに100万人に10だったというような説が流布されました。しかしいま福島県で確認されているのは38万人中266人で、100万人当たりでは700人に相当する異常なレベルです。
政府は抽象的に「スクリーン効果」によるものなどと主張するのではなく、数値的に納得できる説明をするべきです。
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政府に問いたい! 小泉氏ら元首相5人の書簡は本当に不適切なのか
時事通信 2022年02月12日
東京電力福島第1原発事故の影響により、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる。このような内容を含む、小泉純一郎氏ら元首相5人の書簡に対し、山口壮環境相が2月1日、「誤った情報を広めている」と抗議文を送った。(文 時事総合研究所代表取締役・村田 純一)
岸田文雄首相も同2日、国会答弁で書簡を「適切ではない」と批判。自民党の高市早苗政調会長らも同様の見解を示すなど、政府・自民党から非難が相次いだ。
◆脱原発と脱炭素
これに対し、書簡を取りまとめた民間団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)や、甲状腺がん患者の訴訟弁護団は「誤った情報ではなく、真実だ」「不当なバッシングだ」などと抗議している。
この背景には、「脱炭素」を理由に原発推進を図ろうとする国内外の動きと、それに対する反原発派の懸念があり、政権側には、原発のマイナスイメージや反原発世論を拡大したくないという思惑がちらつく。
小泉氏らの書簡は1月27日付で、欧州連合(EU)欧州委員会の委員長宛てに細川護熙、鳩山由紀夫、菅直人、村山富市各氏との連名で送付された。
その趣旨は「脱原発と脱炭素の共存は可能」とし、脱炭素化に貢献するエネルギーの投資先として、原発を含まないよう求める内容だ。欧州での原発推進の動きに異を唱えたもので、この中に福島第1原発事故に触れたくだりがある。
「私たちはこの10年間、福島での未曽有の悲劇と汚染を目の当たりにしてきました。何十万人という人々が故郷を追われ、広大な農地と牧場が汚染されました。貯蔵不可能な汚染水は今も増え続け、多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ、莫大(ばくだい)な国富が消え去りました」
◆小児甲状腺がん
問題視されたのは「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ」との表現だ。
環境相は抗議文で「福島県の子どもに放射線による健康被害が生じているという誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見を助長することが懸念される」と指摘し、表現は「適切でない」と批判した。
岸田首相は2月2日の衆院予算委員会でこの抗議文と同じ文言を棒読みし、「風評」を払拭(ふっしょく)するという政府の姿勢を示した。
元首相らの書簡発表と同じ日、福島原発事故の影響で「小児甲状腺がん」を発症したとして、事故発生当時6~16歳で福島県に在住していた6人が東電に対し計6億1600万円の損害賠償を求め提訴した。
原発事故の影響とした、このような提訴は初めて。国や東電関係者には衝撃が走ったに違いない。
福島県の甲状腺がん発症について、国や県は「県や国連などの専門家会議により、現時点では放射線の影響とは考えにくい」とし、原発事故との因果関係を否定している。
環境相らが元首相らに抗議する根拠もここにある。裏では、原発の再稼働や新増設を目指す「原発ムラ」の意向が働いているのだろう。
◆適切でないのは
「原自連」の幹事長を務める河合弘之弁護士は、環境相の抗議に対し、次のように反論する。
「小児甲状腺がんは100万人に1、2人しか発症しないような病気だが、福島原発事故後(当時18歳以下の)38万人の中で266人の発病があった。これを多数と言わないで何と言うのか。その子どもたちは手術後に再発したり、他の部位にがんが転移したり、過酷な放射線治療を受けたりしている。これを苦しんでいないと言えるのか。もし因果関係がないと言うなら、なぜ政府は甲状腺がんの原因を究明しないのか。因果関係を認めると、原発をやめなければならなくなるのが怖いのではないか」
「適切でない」ことは何か。真実をしっかりと見極める必要がある。
(時事通信社「コメントライナー」より)
【筆者紹介】
村田 純一(むらた・じゅんいち) 1986年早大法卒、時事通信社入社。福岡支社、政治部、ワシントン特派員、政治部次長兼編集委員、総合メディア局総務、福岡支社長を経て、2020年7月より現職。政治部では首相官邸、自民党、民社党、公明党、防衛庁、外務省などを担当し、政治部デスク歴は約7年。時事通信「コメントライナー」の編集責任者で政治コラム等も執筆。
5名の元首相指摘は事実
植草一秀の『知られざる真実』 2022年2月12日
日本の元首相5名が欧州連合(EU)欧州委員会に対して送付した書簡による声明に対する批判を政府とメディアが流布しているが、批判は正当なものと言えない。
日本政府はSDGsの活動に巨額の公費を投入しているが、SDGsの活動そのものに黒い背景があることを国民は知っておかねばならない。
モンサントが開発し、販売を続けてきたグリホサート除草剤。巨大資本の側はグリホサートの問題を認めてこなかった。
米国の裁判所がグリホサート散布とがん発症の因果関係を認めたことで、ようやくグリホサートの有害性に対する客観的評価が変化したという現実がある。
SDGsの活動が原発推進の大義名分に使われているという側面が厳然と存在する。
欧州連合(EU)欧州委員会は本年1月、発電時に二酸化炭素を出さない原発を地球温暖化対策に資する“グリーン”な投資先として認定する方針を示した。
これがSDGsの闇の部分だ。原発を推進するためにCO2が強調されている。
電力、電機、その他産業の「原子力ムラ」はSDGsを原発推進の最大の支援要因として活用している。
原発推進の政府もその目的のためにSDGsを全面利用している。亡国の政策だ。
細川護熙、村山富市、小泉純一郎、鳩山由紀夫、菅直人の日本の5名の元首相は、原発推進が未来を脅かす「亡国の政策」だと批判した。正しい主張である。日本は活断層の上に立地する世界最悪の地震大国である。日本における原発推進は「亡国の政策」そのもの。
フクシマの事故を経験して、この事実は明白になった。
それにもかかわらず原発を推進するのは正気の沙汰でない。
5名の元首相の声明は、東京電力福島第1原発事故により、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ、この過ちを欧州の皆さんに繰り返してほしくないことを指摘した。
この指摘に誤りはない。5名の元首相が書簡を送付した1月29日、事故発生当時6~16歳で福島県内に在住していた6人が、原発事故で放出された放射性物質により甲状腺がんを発症したとして、東電を相手取り、計6億1600万円の損害賠償を求めて提訴した。
6人のうち4人は手術で甲状腺を全摘している。転移や再発が確認され、手術を複数回受けた人もいる。
元首相5人が声明を書簡として送付したことについて、岸田内閣の山口壮環境相が2月1日に、福島県内の子どもへの放射線の健康影響について誤った情報を広めているとして、抗議する書簡を送った。
また、自民党に転籍した細野豪志衆院議員は、書簡の「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」の記述について、「科学的事実に反する」とツイートしたが、細野氏のツイートが「事実に反して」いる。
東京電力福島原発事故により、福島で放射性ブルームを浴び、その後甲状腺がんと診断された若者が266名確認されている。福島原発事故以前に、年間100万人に1人か2人の発症しかなかった小児甲状腺がんが、福島で事故当時18歳以下だった38万人のなかで、すでに266名の発症がある。
このことを「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」と表現したことについて、「科学的事実に反する」と評価することが間違っている。
もっとも、細野議員は「事実に反する」とは述べていない。ここが巧妙なポイントだ
細野氏も「事実に反する」とは表現できないのだ。
なぜなら、「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しんでいる」ことは「事実」そのものだからだ。
細野氏が述べる「科学的事実」というものを疑うことが重要だ。
誰が「科学的事実」を決定するのか。
細野氏が述べる「科学的事実」を決定しているのは国や県、あるいは国際機関だ。
しかし、国や県、あるいは国際機関が事実をねじ曲げることは日常茶飯事。
何らかの思惑があれば、国や県、国際機関は事実をねじ曲げることを厭わない。
身近なところではワクチン副反応。多数の人がワクチン接種後に急死している。
しかし、日本政府は1例も因果関係を認めていない。
日本政府はがん発症多発の原因を「過剰検査」としているが、「過剰検査」が原因であることを客観的に証明していない。
客観的に証明せずに「総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくい」としているだけ。
5名の元首相の問題提起は適切であり、極めて意義が大きいことを明確にしておく必要がある。
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