福島原発事故で避難した82世帯216人が、東電に計約18億8000万円の損害賠償を求めた集団訴訟「福島原発避難者訴訟」の控訴審が12日、仙台高裁であり、一審・地裁いわき支部判決を変更し、賠償額を約1億2000万円増額し、計約7億3000万円を支払うよう命じました。
全国で約30件ある同様の避難者訴訟で、控訴審判決が出るのは初めてです。
小林裁判長は、一審では細分化しなかった慰謝料を〈1〉避難を余儀なくされたこと〈2〉避難の継続〈3〉古里の喪失・変容―の3点に分けて認定しました。
また地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測の「長期評価」に基づき、東電が「08年4月ごろには津波到来の可能性を認識していた」と指摘し、「東電の対応の不十分さは誠に痛恨の極みで、慰謝料の算定に当たって重要な考慮事情とすべきだ」と述べました。福島民友が報じました。
神戸新聞の社説を併せて紹介します。
(註 福島民友や神戸新聞は賠償額を約1億2000万円増額としていますが、共同通信は計約1億5000万円、朝日新聞は1億4900万円と報じています。民友の記事を積算すると1億3550万円になるので後者の方が正しいように思われます)
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原発避難...賠償「増額」 仙台高裁初判決、東電08年には津波認識
福島民友 2020年03月13日
東京電力福島第1原発事故で避難した8市町村の82世帯216人が、東電に計約18億8000万円の損害賠償を求めた集団訴訟「福島原発避難者訴訟」の控訴審が12日、仙台高裁であり、小林久起裁判長は一審・地裁いわき支部判決を変更し、賠償額を約1億2000万円増額し、計約7億3000万円を支払うよう命じた。全国で約30件ある同様の避難者訴訟で、控訴審判決が出るのは初めて。
小林裁判長は、「突然の避難により、地域の人間関係を断たれ、場合によっては職業生活を失い、家族の一体性すらも阻害された」とし、慰謝料を〈1〉避難を余儀なくされたこと〈2〉避難の継続〈3〉古里の喪失・変容―の3点に分けて算定。一審では細分化しなかった避難に関わる慰謝料を分類分けして認定した。
帰還困難区域の原告については一審判決の賠償額を維持し、居住制限区域・避難指示解除準備区域の原告125人に100万円、緊急時避難準備区域の原告21人に50万円の慰謝料を追加で認めた。
小林裁判長は、政府に設置された地震調査研究推進本部が2002(平成14)年に公表した地震予測の「長期評価」に基づき、東電が「08年4月ごろには津波到来の可能性を認識していた」と指摘し、「対策工事の計画を先送りにしていた」と認定。「東電の対応の不十分さは誠に痛恨の極みで、慰謝料の算定に当たって重要な考慮事情とすべきだ」と述べた。
原告は原発事故当時、南相馬、浪江、双葉、大熊、富岡、楢葉、広野、川内の各市町村に住んでいた住民。18年3月の一審判決は、東電が既に支払った賠償額を上回る損害を認め、原則として避難区域の原告に150万円、第1原発半径20~30キロの原告に70万円を上乗せし、原告213人に対する計6億1000万円の賠償を命令。双方が控訴した。
仙台高裁の判決を受けて東電は「今後、内容を精査して対応を検討する」とのコメントを発表した。
社説 原発避難者訴訟/東電は高裁判決の直視を
神戸新聞 2020/03/13
東京電力福島第1原発事故後、避難区域となった福島県の8市町村から避難した216人が損害賠償を求めた訴訟で、仙台高裁は東電の責任を認定した。原告らが主張した「ふるさと喪失」を明確に認め、賠償額は一審の福島地裁いわき支部判決から1億2千万円増額された。
被災者の心情に沿った画期的な内容といえる。郷里を奪われた人たちの怒りや悲しみに、司法が寄り添う姿勢がいっそう鮮明になった。
原発事故を巡っては全国で約30の集団訴訟が起きている。一審段階ではすべて東電の賠償責任を認める判決が出ているが、控訴審判決は初めてで、結果が注目されていた。
判決は、津波による事故の予見可能性があったとも断じた。東電は指摘を直視して、原告の早期救済に動き出さねばならない。
一審の福島地裁いわき支部判決は、213人に対する計約6億1千万円の損害賠償を認めた。地域社会そのものが失われた「ふるさと喪失」についても一定の理解を示した。
しかし東電が既に支払っていた慰謝料からの大きな上積みはなかった。また津波による事故の具体的な予見可能性も否定していた。
今回の高裁判決は一審の判断を覆して「敷地の高さを超える津波が到来し、原子炉を安全に停止する機能を喪失する可能性があると認識していた」と断じた。対策工事が先送りされる中で原発事故が起きたことに対して「被害者の立場から見れば、誠に痛恨の極み」と述べた。
東電はこの言葉を重く受け止めなければならない。
原告の多くは、第1原発の30キロ圏内から福島県内外に避難した人たちである。9年前の震災と事故により無理やり郷里を奪われ、避難を強いられてきた。そのつらさは、賠償金で解消できるものではない。
東電の旧経営陣3人が強制起訴された刑事裁判では、一審で無罪判決が出ている。一方、民事訴訟では東電の過失責任を認める流れができつつある。
神戸地裁でも避難者による集団訴訟が審理されている。古殿宣敬弁護団長は「対策していれば事故は防げたと高裁が認めた。兵庫訴訟は主に避難区域外からの避難者だが、指摘された東電の悪質性は同じ」と、同様の判決が続くことを期待する。
集団訴訟の原告は計1万人以上となり、訴訟に加われなかった避難者もいる。福島地裁の別の集団訴訟では昨年12月、初めて和解案が示されたが、東電側が拒否した。
長期の裁判は住民にとって大きな負担となる。今後、各裁判所から原告に配慮した和解案が示されれば、東電は積極的に応じるべきだ。