トリチウム汚染水の処分方法を巡り、経産省の担当者は16日、海洋放出する場合、全量放出に45年ほどかかる事故前のルールを採用せず、短期間で流す検討も必要になると述べました。
事故前の基準では年間に放出できるトリチウム量の上限を22兆ベクレルと定めていたのですが、それでは保有量の約1000兆ベクレルの放出を完了するまでに45年掛かるので、それを1年で完了させても住民に健康上の支障はないという主張です。
22兆ベクレルを1000兆ベクレルに上げても問題がないというのは、事故前のキロ当たり100ベクレルが放射性廃棄物に当たるという定義を、いきなり8000ベクレルまでは危険でないと変更したのとまったく同じ流儀で、支離滅裂と言うべきです。
1年で放出しても、近隣住民の被爆は自然界から受ける放射線量の千分の一以下にとどまるというのもどういう計算なのか不明だし、それでは従来の年間22兆ベクレルという規制は一体何だったかということになります。
そもそも肝心の、魚介類を介した食物連鎖で人体に取り込まれるトリチウムの被害について全く言及がないのも不可解です。
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福島第一原発 汚染水、短期間で放出も 事故前ルール採用せず
東京新聞 2020年3月17日
東京電力福島第一原発で大量保管中の放射性物質トリチウムを含む汚染水の処分方法を巡り、経済産業省の担当者は十六日、有力視される海洋放出を選択した場合、全量放出に四十~五十年ほどかかる事故前のルールを採用せず、短期間で流す検討も必要になるとの認識を示した。放出期間は、漁業関係者らが懸念する風評被害がどれほど続くかという議論に一石を投じるが、そもそも漁業者らが海洋放出に同意する見通しはない。 (宮尾幹成)
経産省資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司廃炉・汚染水対策官が、本紙などが加盟する県政記者クラブとの勉強会で説明した。
福島第一の高濃度汚染水を浄化処理した後のトリチウムが残る汚染水の処分方法を議論していた経産省の小委員会は、二月十日に決定した報告書で、海洋放出が最も現実的との結論を出した。
これに対し、事故後に海産物の出荷制限や風評被害で打撃を受けた茨城沿海地区漁業協同組合連合会は「風評の再燃は必至」と強く反発し、大井川和彦知事も「白紙で検討を」と求めている。
事故前の福島第一では、年間に放出できるトリチウム量の上限「管理目標値」を二十二兆ベクレルと定めていたが、現在はその規定はない。処理済み汚染水のトリチウム濃度は一リットル当たり平均七十三万ベクレルで、東電が示す最大保管可能量を掛けると約千兆ベクレル。これを全量放出するには、年二十二兆ベクレルのペースでは四十五年を要する。
一方、政府の廃炉工程は、事故から三十~四十年後に廃炉を終える目標を堅持。奥田対策官は、仮に海洋放出を決めた場合の課題として「年二十二兆ベクレルでは(廃炉の)年限を超える。そこをどうするかは検討しなければならないポイントの一つだ」と指摘した。
敷地内に保管されている処理済み汚染水を一年で全て海洋放出しても、近隣住民の被ばくは自然界から受ける放射線量の千分の一以下にとどまるとする小委員会の評価結果も紹介した上で、「関係者の意見を聞きながら決める。政府として今の時点で考えていることはない」と強調した。
今回の勉強会は経産省側から申し出があり、県庁内で開かれた。奥田対策官によると、東京や福島県で開いた実績はあるが、本県では初めて。開催理由について、大井川知事や漁業関係者が海洋放出に懸念を示したことで県内での報道が増えている点に触れ、「県内の報道の方々にもきちんと説明したいと思った」と述べた。