トリチウム汚染水の海洋放出で疑いもなく言えることは、福島県の海産物等に対して致命的な風評被害を与えるということです。風評被害に留まらすに、実害を伴うことは言うまでもありません。
安倍首相は、汚染水タンクの保管が2年後に限界になるのを口実に、夏ごろまでに方針を決める可能性も示唆したようですが、政府本位で期限を設け、時間切れで方針受け入れを迫る事態は断じて許されません。
福島民報が「トリチウム水処分『時間切れ』許されない」とする社説を掲げました。
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社説 トリチウム水処分「時間切れ」許されない
福島民報 2020/03/14 09:30
安倍晋三首相は風評の根深さと、克服にどれほどの努力と歳月を要するのかを承知しているのか。東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分を巡り、「意思決定まで時間をかけるいとまは、それほどない」と福島民報社などのインタビューに答えた。夏ごろまでに方針を決める可能性も示唆した。
具体的な風評対策さえ明らかにしていない中での言及は、あまりに無責任だ。汚染水タンクの保管が二年後に限界になるのを口実に政府本位で期限を設け、時間切れで方針受け入れを迫る事態は断じて許されない。時間をかけて国民の理解を広げ、負担を分かち合う手だても講じた上で最終判断してしかるべきだ。
海洋放出、大気放出のどちらを選んでも、風評への懸念は根強い。加えて、どこで放出するかが極めて重要になる。本県のみで行われたり、本県から始まったりすれば、風評は再燃しかねない。
安倍首相は「(本県だけからの放出に反対する)このような声も含めて関係者の意見をしっかりと伺い、政府として責任を持って決定する」と述べた。梶山弘志経済産業相は、首相に先立つインタビューで「現時点では福島ありきではない」と明言した。
日本世論調査会の調査で、放出により風評被害が起きるとの回答は計90・9%に上った。「大きな被害が起きる」が27・8%だったのに対し、「ある程度の被害が起きる」は63・1%を占めた。
仮に本県で放出された場合の局面は異なる。風評が上積みされ、ある程度の被害で済まないと認識する必要がある。「福島ありき」を否定した梶山経産相の発言に、安倍首相は重い責任を負うのは言うまでもない。全閣僚が共有するべきだ。
政府の小委員会は二月にまとめた提言で、「処分を急ぐことで風評被害を大きくすることはあってはならない」と指摘した。風評対策を強め、丁寧な説明と意見の聞き取りによって、広く合意を得る必要性も強調した。
政府が県内各地で始めた提言内容の説明に対し、県内放出に反対する意見や慎重な判断を求める声が相次いでいる。風評は本県だけの問題ではない。意見を聞く対象は全国に範囲を広げて当然だ。政府が時間を費やし、取り組むべき課題は多い。
安倍首相の「いとまがない」発言に沿って、処分方針を結論ありきで導き出すようでは、被災地に寄り添う姿勢に反する。首相自らが肝に銘じるべきだ。(五十嵐稔)