2020年3月12日木曜日

福島原発事故から9年 脱原発で出直すしかない

 福島原発過酷事故の深刻さを考えれば日本は脱原発で出直すしかないはずなのに、 安倍政権はエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置付け、30年度の電源に占める割合を2022(原発30基ほどを稼働)とする目標18年の見直しで変えようとせず、電力各社は原発の再稼働に向けて邁進しています。
 原発に経済的メリットがないと分かっているのに、現有の核燃料を使えば当面の燃料代が浮くからという理由で危険な再稼働に走るのは許されないことです。
 北海道新聞が「脱原発で出直すしかない」とする社説を掲げました。
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社説 「福島第1」事故から9年 脱原発で出直すしかない
北海道新聞 2020/03/11
 東京電力福島第1原発で炉心溶融につながる過酷事故が起きてから、きょうで9年となった。
 地元の帰還困難区域の一部で今月、初めて避難指示が解除されたものの、避難生活を送る福島の人たちは今も約4万人を数える。
 9年の時を経てもなお、地元の人たちが以前の暮らしを取り戻す見通しは全く立っていない。
 なのに政府は原発の再稼働を進める方針を改めようとせず、電力各社は反省を忘れたかのように原発絡みの不祥事を連発している。
 あってはならぬ過酷事故を起こした以上、脱原発で出直す以外の道がないことを自覚すべきだ。

■復興いまだ見通せず
 政府は昨年暮れ、福島第1原発の廃炉の工程表を2年ぶりに見直した。そこから読み取れるのは作業の遅延である。
 例えば、原子炉建屋のプールに残る使用済み核燃料の取り出し開始は従来計画よりも1号機で最大5年、2号機で最大3年遅れる。
 プールからの燃料取り出しは平時でも定期検査ごとに行われており、本来は難しい作業ではない。
 思うように進まないのは、事故でがれきが散乱したり、建屋が汚染されたりして、安全に作業できる環境が整わないからだ。
 溶け落ちた核燃料(デブリ)に至っては詳しい状態が分からず、除去のめどすら立っていない。
 にもかかわらず、政府は2041~51年に廃炉を完了する目標を維持した。「出口」を変えず、廃炉が全般的に進んでいるかのような誤解を与えるのは問題だ。
 復興いまだ見通せず―。それが福島の被災地の現実である。
 福島第1原発の敷地内には、現在も放射性物質トリチウムを含む汚染水がたまり続けている。
 経済産業省の有識者委員会は先月、保管スペースをこれ以上確保できないとして、薄めて海に流す案を有力とする提言をまとめた。
 土地が不足するのは早くから分かっていたのに、政府は具体的な対策を先送りし続けてきた。
 地元の漁業者が強く反発するのは当然だろう。福島県沖の昨年の水揚げは約3600トンと震災前の約14%にとどまる。風評被害を恐れ、漁獲を増やしたくても増やせないのだ。
 このまま海洋放出を強行すれば、風評被害が拡大し、地域の漁業は崩壊しかねない。政府には丁寧な対話を通じ、地元が納得する解決策を見いだす責務がある。

■不誠実な政権の姿勢
 「未来を拓(ひら)く産業が、今、福島から次々と生まれようとしています」。安倍晋三首相は1月の施政方針演説で、福島の現状をこう語り、今年の東京五輪を「まさに『復興五輪』だ」と強調した。
 現実とこれほど乖離(かいり)した国会演説も珍しいのではないか。
 首相は13年の五輪招致の際、福島第1原発の汚染水処理について「私が保証する。状況はコントロールされている」と世界に向けて断言した。
 過去の軽々しい発言とのつじつま合わせのため、結果の出ていない「復興」をことさら強調するのは、被災者に対して不誠実だ。
 首相がなすべきは、その場限りの聞こえの良い言葉を発することではない。福島の教訓を踏まえた政策を打ち出すことである。
 核燃料サイクルはすでに破綻し、原発が動くほど高レベル放射性廃棄物が行き場もなく積み上がっていくのが日本の現状だ。
 それでも安倍政権は、18年に改定したエネルギー基本計画で原発を「重要なベースロード(基幹)電源」と位置付け、30年度の電源に占める割合を20~22%とする目標も変えようとしなかった。
 目標達成には約30基の稼働が必要となり、非現実的である。来年の基本計画見直しに向け、脱原発の具体的道筋を示すべきだ。

■反省なき原子力ムラ
 電力業界は最近、福島の被災者の痛みなど眼中にないかのように不祥事を繰り返している。
 デタラメぶりが極まったのが日本原子力発電だ。原子力規制委員会に提出した敦賀原発2号機の審査用の地質データを無断で書き換えていたことが先月発覚した。
 敦賀2号機は真下に活断層がある可能性が指摘されている。データ改ざんは、国民の生命や財産よりも自己保身を優先する企業体質を図らずも示したと言えよう。
 四国電力は1月、伊方原発3号機の定期検査中に誤って原子炉から制御棒を引き抜いたり、一時的に外部電源を失ったりするトラブルを続発させた。関西電力の金品受領問題も解明が進んでいない。
 泊原発でのトラブルが続く北海道電力を含め、これでは国民が信頼して原発を委ねるのは無理だ。
 国策民営の原発政策を改め、再生可能エネルギーを軸にした新たな電力供給の仕組みを築かない限り、福島事故に終わりは来ない。