2022年8月18日木曜日

宮城県川崎町風力発電事業 公表から2カ月で撤回された事情

 関西電力が7月29日宮城川崎町で大規模風力発電事業計画を公表から僅か2ヶ月で撤回しました。数年かけて行われる「環境アセスメント」手続きのうち、最初の段階に当たる環境保全のため配慮すべきことをまとめた「配慮書」の段階での撤回でした。
 FNNがこの間の関係者の思いを聞きました。
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「風力発電事業」公表から撤回までわずか2カ月 住民と行政からの強い反対の声受け
                     FNNプライムオンライン 2022/8/17
宮城・川崎町で、大規模風力発電事業を計画していた関西電力が7月29日、計画を撤回した。
公表から撤回までわずか2カ月。企業が進める再生可能エネルギー事業の難しさが浮き彫りになった。私たちは、こうした事業とどう向き合うべきなのか?
    【画像】企業が進める再生可能エネルギーの難しさ

風力発電を撤回…混乱が残したもの   2022年7月29日。
関西電力再生可能エネルギー事業 多田隆司 本部長 「地元地域の方々のご理解ご支援なくして、事業はできないと思っています。この事業については、一旦見直すということで結論に至りました
関西電力は、川崎町で計画していた大規模風力発電事業を撤回することを表明した。計画の発表から約2カ月という早さで白紙となった、今回の事業。
2022年5月に公表された計画では、川崎町西部の山地に高さ約140メートルから180メートルの風車を最大で23基建設。総出力は9万6600キロワットで、一般家庭6万世帯分の電力をまかなうものだった。
蔵王連峰が選ばれた理由は、風の吹き方「風況」が良く、送電線や幹線道路が近いこと。効率的な再生可能エネルギーの生産拠点になりうる可能性からだった
しかし、計画の公表直後から住民団体が反対を表明。さらに…
宮城県 村井 知事:「事業実施想定区域に、国定公園を含めていることが異例。もっともなご意見だと思う
宮城県の審査会は、事業想定区域に「蔵王国定公園」が含まれ、景観や自然環境への影響があると指摘。関西電力は計画の縮小など見直しを進めてきたが、住民だけでなく、自治体も明確に反対の立場を示し、妥協点が見いだせなくなっていた

ワイナリー経営 目黒礼奈さん:「こちらはセラーになります。温度管理してワインを保管する場所
川崎町でワイナリーを経営する目黒礼奈さん。蔵王の麓に広がる自然豊かな環境に魅了され、2016年に神奈川県から川崎町に移住し、ワイナリーを始めた。
ワイナリー経営 目黒礼奈さん:「すごく環境が良くて、気持ちいい場所。自然が豊かなことはもちろん、川崎町がすごく好きな場所なので
今回の風力発電事業では、調査や建設工事の過程で自然環境に影響が出てしまうのではないかと、心配していたという。
ワイナリー経営 目黒礼奈さん:「計画撤回は心から良かったと思います。住む方々の環境が一番だと思うので、環境を害さない場所を選定してほしい

住民への説明が不十分として、計画に反対する立場を表明した立地自治体の川崎町長も、白紙撤回を歓迎した。
川崎町 小山修作 町長:「正直ほっとしていますし、対応が早かったなと思っています。良い要素が少なかったので、一旦白紙にするのは妥当

一方で、関西電力は計画撤回の一週間前、仙台放送の取材に対し、自治体や住民との「合意形成」の難しさを語っていた。
関西電力再生可能エネルギー事業本部 豊田玲子 マネジャー:「首長の意見は住民の意見を反映していると思うが、明確に首長が反対というのはそれほど多くない。最終的に首長がやはりやめてほしいというケースはある。そういった場合は事業を中止せざるを得ない。」

再生可能エネルギー事業の課題とは?
大規模な発電所の建設は環境影響評価法、いわゆる環境アセスメント法に従う必要がある。今回の計画は環境に配慮した事業にするため、数年かけて行われる「環境アセスメント」の手続きのうち、最初の段階に当たる環境保全のため配慮すべきことをまとめた「配慮書」の段階での撤回となった
地域社会とエネルギーの関わりに詳しい、東北大学の中田俊彦教授は今回の計画が撤回に追い込まれた背景に、環境アセスメントの仕組みの問題があると指摘する。
東北大学大学院工学研究科 中田俊彦 教授:「今のアセスのしくみは、事業者がある程度 画を書いてからじゃないと出せない。住民は何を言っても無駄なのかなという印象。そこで変えると、いい加減な計画だったと逆に突っ込まれる可能性がある。どういう事業にしたら軟着陸できるのか、メリットはどんなものがあるのか、腹を割って考えられる場を事前に設定するというのが本来だと思う」

最初の段階から具体的な計画が示されることで、住民は唐突な印象を受け、計画に抵抗感を持つといい、中田教授は今回の事案を日本の環境アセスメントの課題が現れたとみている。
関西電力側も、技術的、法的な検討を重ねた上で、地域に入って説明を始めたものの、蔵王に対する住民の思いを十分にくみ取れていなかったと振り返る。

記者:「地域に入ったタイミングは?」
関西電力再生可能エネルギー事業本部 豊田玲子 マネジャー 「一番最初に川崎町に伺ったのは2021年の12月。地域に入って、自分たちの認識が足りなかったと気づいたのが今回の状況」

温室効果ガスの排出ゼロを目指す上で、避けられない再生可能エネルギーの活用。中田教授は、企業が主導する計画に賛成や反対を述べるだけではなく、地域が主体的に考え、選んでいくことが重要と考えている。

東北大学大学院工学研究科 中田俊彦 教授:「事業者が来て誘われるんじゃなくて、僕らから選んでいく。事業者を呼んでヒアリングしてもいい。自前の電気を自分たちの電力で補えると実感する、大事なスタートだと思う」