2022年8月16日火曜日

海洋放出 海底トンネル工事始まるも得られていない「地元理解」

 東電はトリチウム水の海洋放出に必要な海底トンネルなど設備の工事を始めましたが、地元の関係者らの理解は今も得られていません。一体誰が関係者の了解を得るのか、その主体は誰になるのかを考えると、まず福島県ではなく、東電かとなるとそれも無理でやはり国になる筈というのが著者の岸井氏の考察です。

 政府は風評被害対策や漁業振興策など、総合的な政策をどう組み上げていくか。そしてどのタイミングで誰が関係者に会い理解を求めるか、しかも漁業関係者は断固反対と明言しているので簡単には行きません(国はこれまで説明会を600回も行っていますが、それは地元の説得とは違います)。
 そもそも突如海洋放出に決めたのは、現地を訪れた当時の菅義偉首相でした。こうなってみるとそれが大いに問題をこじらせた可能性があります。
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福島原発、処理水の「海洋放出」問題...海底トンネル工事始まるも、得られていない「地元理解」
                       岸井雄作 J-CAST 2022/8/15
                            ジャーナリスト
東京電力福島第一原子力発電所(福島県)の汚染水を浄化した処理水の海洋放出をめぐり、東電は2022年8月4日、放水に必要な海底トンネルなど設備の工事を始めた。23年春までの完成をめざす。同原発廃炉に向けた懸案の一つがようやく動き出す。
ただ、天候などで工事が順調に進む保証はないうえ、福島県漁業協同組合連合会(県漁連)は反対の立場を崩していない。実際の放出の前提となる「地元理解」は得られていないことになり、予定通り放出できるか、予断を許さない。

タンクに保管する「汚染処理水」、23年秋以降満杯に
福島第一原発では、1~3号機で溶けだした燃料を冷却する水と地下水が混じり合った高濃度の放射性物質を含む「汚染水」が日々、発生している。
これを多核種除去設備「ALPS(アルプス)」にかけ、放射性物質の濃度を下げている。これが「汚染処理水(処理済み汚染水)」と呼ばれるものだ。しかし、ALPSで除去できない「トリチウム」という放射性物質が含まれている。このため、一定の基準以下まで濃度を薄めた「処理水」として放出するというのが、いわゆる「海洋放出問題」だ。
「汚染処理水」は原発敷地内のタンクに保管している。早ければ、22年秋にも満杯になると言われたこともあるが、現在の見通しでは23年秋以降に満杯になるという。また、今後の廃炉作業のために必要なスペースを確保するために、タンクを減らす必要がある――これが、海洋放出が必要な理由だ。
J-CASTニュース 会社ウォッチが2021年4月16日付「汚染処理水の海洋放出 原発推進派と反対派それぞれの言い分」などで報じたように、政府は21年4月、海洋放出の方針を決定した。
これを受け、東電が必要設備整備などをまとめた「放出計画」を12月に原子力規制委員会に申請し、22年7月、認可を受けた。そして、福島第一原発が立地する大熊、双葉両町と福島県は、県と2町が東電と結ぶ安全協定に基づき、着工を「事前了解」し、今回の着工になった。

トリチウム濃度...海水で大幅に希釈し、放出する計画
東電は、海底トンネルを通して沖合1キロで放出する計画で、そのためのトンネル掘削や、処理水を移送する配管の設置などの作業を順次始める。トンネル出口部分は水深約12メートルの地点を掘削して鉄筋コンクリート製の箱を設置し、放出口を付ける。
計画では、トリチウムの濃度を国が定める排出基準の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水の基準の7分の1になるよう、海水で希釈して放出する。放出前に処理水をためてトリチウム濃度を測定する水槽(容量2000立方メートル)は、22年12月以降につくる予定だ。
ただ、工事の日程は余裕がない。
もともと、東電の計画では22年6月に工事を始め、工事期間は10か月で、23年4月完成だった。着工が2か月遅れており、天候による遅れなども考えられることから、完成は23年夏ごろにずれ込む可能性もあるという。タンクが満杯になるまで、余裕は少ない。

何をもって「地元理解」とするのか?
処理水の放出について、地元の関係者らの理解は今も得られていない。
政府と東電は2015年、福島県漁連に対して「関係者の理解なしに、いかなる処分(海洋放出)もしない」と文書で約束している。
全国漁業協同組合連合会(全漁連)は「断固反対」との姿勢を貫き、22年6月に「断固反対であることはいささかも変わらない」との特別決議を採択している。福島県漁連の野崎哲会長も7月末、報道陣の取材に「放出反対は、いささかも変わるものではない」と述べている。
そもそも、何をもって「地元理解」というか、はっきりしていない。
今回の県・2町の「事前了解」も、あくまで工事の計画に必要な安全対策が備わっているかを確認する手続きに過ぎない
内堀雅雄福島県知事は8月2日夕、県庁で東電の小早川智明社長らに事前了解を伝えた後、「さまざまな意見があり、県民や国民の理解が十分に得られているとは言えない。関係者の理解が得られるよう、丁寧に対話を重ねて下さい」と釘を刺した。
国と東電が、処理水の取り扱いについては当事者」(内堀知事)だから、住民や漁民から国と東電が了解を得る必要があり、県は主役ではないという意味だ。
東電も、「処理水のプロセスは政府の決定に従って取り組んでいる。今後、国とも相談しながら、プロセスを検討したい」(小早川社長)というように、東電として地元に説明するとしても「理解を得た」と独自に宣言できるはずもない

最終的には「国の責任」...風評被害対策、漁業振興策どう組み上げるか?
そうなると、地元理解、とりわけ漁民の理解を得る作業は、最終的に国が責任を持つしかない
政府は放出の方針決定後、これまでに漁業関係者などを対象に、約600回以上の説明会を開いてきた。21年4月、放出決定直前に菅義偉首相(当時)は全漁連幹部と面会し、漁業者、国民への責任ある説明や風評被害への対応、福島県をはじめ全国で漁業が継続できる方策などの要望を聞き、努力する考えを伝えている。
政府は風評被害対策や漁業振興策など、総合的な政策をどう組み上げていくか。そして、どのタイミングで誰が関係者に会い、理解を求めるか......東電の工事の進捗をにらみながら、複雑な連立方程式を解く作業が続く。(ジャーナリスト 岸井雄作)