2022年8月21日日曜日

映画になった元樋口英明裁判長 「原発で最高裁なぜ動かない」

 14年5月、大飯原発の運転差し止め判決を出した福井地裁の元裁判長・樋口英明さん69)を主人公にした映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」は、9月10日東京都中野区の「ポレポレ東中野」で封切りとなり、10月以降、北海道、福島、山形、宮城、群馬、長野、神奈川、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、広島、愛媛、大分、鹿児島、沖縄の各府県の19カ所の劇場で公開が決まっています。
 毎日新聞が、主人公の樋口さんと映画監督の小原浩靖さん(58)に、その後の原発差し止め判決や映画への立地自治体の反応について聞きました。
 元裁判長樋口さんによれば、一審判決で運転差し止めを命じた判決は福井地裁判決以降、今回の札幌地裁の判決で9例目となりますが、残念ながら高裁の控訴審で覆されることが多く、住民側は最高裁で判決が確定することを避けるため上告しないのが通例となっているということです。
 映画監督の小原さんは、原発の立地自治体の映画への反応について、「多くの映画館の支配人が作品も見ずに『うちで上映します』と快諾してくれました。でも、『ここは小さな町で、土木や建設など原発関連の人が多いので、支配人の私だけでは決められません』と、やんわり断られることもありました」と語ります
 【講演する樋口さんの画像↓】
  https://news.yahoo.co.jp/articles/01808f10b2ae056a7fc595bcae4bfceb7df5d2c9/images/000
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                             毎日新聞 2022/8/21
◇映画「原発をとめた裁判長」に込めた思い
 「いい判決が続いています。最高裁も動かざるを得ないと思います」。2014年5月、関西電力大飯原発の運転差し止め判決を出した福井地裁の元裁判長・樋口英明さん(69)はこう語る。映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」をめぐるインタビューで、主人公の樋口さんと映画監督の小原浩靖さん(58)に、その後の原発差し止め判決や映画への立地自治体の反応について聞いた。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】
 東京電力福島第1原発の事故後、原発の運転を差し止める判決は全国で相次いでいる。最近では21年3月、茨城県の日本原子力発電東海第2原発をめぐり、水戸地裁が「実効性のある避難計画が整えられていない」として、運転差し止めを命じる判決を出した。
 22年5月には北海道電力の泊原発をめぐり、札幌地裁が津波対策の不備を理由に運転を禁じる判決を出した。いずれも東電福島第1原発の事故の教訓を重く見た判決だ。樋口さんが裁判長を務めた福井地裁以降、今回の札幌地裁の判決で9例目となる。

◇「人権意識が高い裁判官」
 樋口さんは一連の判決をどうとらえているのか。
 「いい判決が続いています。いずれも人権意識が高い裁判官だと思います。水戸地裁が指摘した避難計画は大きな問題です。人口が密集する日本で、大規模原発事故の避難計画など作れるわけがありません。札幌地裁の津波の話も、きちんとした防波堤ができていないのだから、誰が見ても運転できないのが当たり前です」
 樋口さんはこう評価した。ところが地裁の判決は高裁の控訴審で覆されることが多い。樋口さんの判決は18年7月、名古屋高裁金沢支部が「原発の危険性は社会通念上、無視しうる程度にまで管理・統制されている」として取り消し、住民側逆転敗訴の判決を言い渡した。住民側は最高裁で判決が確定することを避け、上告しないのが通例となっている。
 「本来なら避難計画や防波堤の不備だけで、最高裁でも勝てるはずなんです。最高裁に人権派の裁判官がいないとは言いませんが、残念ながら多数を占めるとも思えません。避難計画や津波対策も大事ですが、最も重要なのは、やはり耐震性だと思います。最新の一般住宅より原発の耐震性が低いという具体的なデータを示し、訴えていけば、最高裁も動かざるを得ないと思います」と、樋口さんは語る(元裁判長が示した原発の耐震性衝撃のデータとは」参照)。
 「地震大国の日本で原発を動かすのは危険。再び事故が起きてからでは遅い」。樋口さんが映画で訴えたかったことは、これに尽きる

◇原発立地自治体に温度差
 映画は9月10日、東京都中野区の「ポレポレ東中野」で封切りとなる。10月以降、北海道、福島、山形、宮城、群馬、長野、神奈川、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、広島、愛媛、大分、鹿児島、沖縄の各府県の19カ所の劇場で公開が決まっている。
 この中には原発事故が起きた福島県はもちろん、原発が立地する宮城、静岡、愛媛、鹿児島の各県が含まれる。立地自治体の映画への反応はどうなのか。
 小原さんは「原発立地自治体の関心は高く、多くの映画館の支配人が作品も見ずに『うちで上映します』と快諾してくれました。でも、『ここは小さな町で、土木や建設など原発関連の人が多いので、支配人の私だけでは決められません』と、やんわり断られることもありました。劇場への配給活動を通じ、原発問題の根の深さを感じました」という。

 初演地となる東京・中野のポレポレ東中野は、社会的なドキュメンタリー映画を上映するミニシアターとして定評がある。ここでの上映が決まったことも、この映画の前評判を高めているようだ。