2022年8月20日土曜日

先も見えない海洋放出ではなく 汚染水の量減らず抜本的対策を

 海洋放出は菅首相(当時)が現地を視察した時にいきなり宣言しました。しかし地元漁業者などの了解はいまだに得られていません。国と東電はどうする積りでしょうか。
 福島第1原発の汚染水の海洋放出は、放出先の海水で薄めるというあり得ない方式に基づくものです。もしもそれが許されるのなら、現在日本で行われている排水処理装置は一切不要になります。排煙・排ガスの処理についても同様で、排出先の大気で希釈するだけで規制値をクリアできるので、脱塵装置も要らなければ脱硫装置なども一切不要になります。
 要するに放流先の海水や大気で希釈するという超安易な考え方は、現行の公害防止の法体系を根本から破壊するもので許されません(現行法は一定量以上の排水や排ガスに対しては濃度の規制だけでなく総量規制も掛けています)。

 こうしたあり得ない進め方に対して、福島大学の芝崎直明教授はまず公害問題の原理からも総量規制をすべきであると述べています。
 そして具体的な対策として、凍土壁が不完全で原子炉格納容器の地下部分への流入量を制御できない以上、10年程度を視野に置いた対策として、地下水をくみ上げて地下水位を管理する「サプドレン(井戸)を増強する」ことで、地下水位の変動を抑えて汚染水の発生を抑制することを提案しています。
 そのうえで、100年程度を見越した対策として、現行の凍土壁の外側に広域遮水壁を設置することを提案しています。それによってエリア外の地下水との遮断が完全になれば原子炉格納容器の地下部分への流入量の制御は極めて容易になります。
 いずれも汚水の発生量を抑制するうえで効果的です。特にサブドレンを増強することで汚染水の発生を抑制するというのは簡単に実施できる方法で、優れた着想です。
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東電福島第1原発 汚染水対策
 先も見えない海洋放出ではなく 汚染水の量減らず抜本的対策を
              福島大学教授 柴崎直明さん
                       しんぶん赤旗 2022年8月19日
    しばさき・なおあき 1960年生まれ。専門は地下水盆管理学・水文地質学・応
      用地質学。国際航業(株)調査事業部の主任技師、インド国立地球物理
      学研究所客員研究員などを務め、現在、福島大学共生システム理工学類教授。
      福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会専門委員編著『福島
      第一原子力発電所の地質・地下水問題一原発事故後10年の現状と課題ー

 政府・東京電力は東電福島第1原発事故で発生した放射能汚染水を処理した後の高濃,度のトリチウム(3重水素)などを含む汚染水(アルプス処理水)を薄めて海に放出する計画について、多くの批判を無視して進めています。海洋放出ではなく汚染水の抜本的な対策を求めてきた福島大学教授の柴崎直明さんに聞きました。  (三木利博)

 -海底トンネルの設置など東竃の放出計画を原子力規制委員会が先月認可し、今月、東電は本体工事を開始しました。
 政府が昨年4月、海洋放出の方針を決定してから、東電は、あとはやるだけだと「放出ありき」で準備を進めてきました。昨年の8月下旬に海底トンネルを掘って沖合1キロ先に放出すると言い出し、ボーリング調査を開始したのが12月でした。の結果が出ないうちに東電は規制委に計画の変更認可申請を出し、福島県などに事前了解願いを提出しました。さらに12月からは、認可が必要ない工事を 「環境整備」という名前で、放出前の水槽「放水坑」の掘削や、1キロ先の放出口の海底のしゅんせつなどを行ってきました。認可され、自治体の事前了解を得るとすぐ、立坑の底に据えた掘削機械シールドマシンを使ってトンネルを掘り始めました。工期を遅らせないことが主目的になって、突っ走っている感じを受けます。

 -政府・東電は汚染水のタンクが増えて廃炉作業に支障をきたすと海洋放出を正当化しています。
 海洋放出は安易な理由で選択されました。経済産業省の小委員会で多核種除去設備(アルプス)を通した後のいわゆる「処理水」の処分について海洋放出以外の処分案が議論されたこともありましたが、結局、コストが一番安く、通常運転の原発でトリチウム水を放出している例があるからとして、海洋放出が現実的だとしたのです。しかし、アルプスを通してもトリチウム以外に除去できない放射性物質が含まれ、通常運転の場合とは運います。国の基準の濃度より薄めて流すといいますが、公害問題の教訓からも放射性物質の総量規制をすべきです。
 海洋放出の建前は、タンクが来年にはいっぱいになるという理由です。確かに敷地内にはタンクが1000基以上並んでいますが、福島第1原発の敷地の枠内でしか考えていないのが問題です。調査や調整は必要でしょうが、海に流さずに敷地外で安全に保管する場所についてベストを尽くして検討したのでしょうか

 -地下水や雨水が建屋に流入し汚染水が増えています。その汚染水を減らす抜本的な対策を先送りにしていると指摘していますね。
 これまでの汚染水対策を振り返ると、建屋の上流側に井戸を掘って地下水をくみ上げる「地下水パイパス」はうまくいかず、地盤を壁状に凍らせる「凍土壁」(陸側遮水壁)を切り札として2018年に完成させましたが、効果は限定的です。当初は流入量をゼロに近づけるといっていたのに。それ以後は地表をモルタルなどで覆うフェーシングや・建屋屋根の修理などの雨水対策ばかりしています
 結局、いまだに汚染水発生量は1日当たり130150トンで推移しています。このうち建屋への地下水・雨水流入量が主な汚染水発生量の中身となっています。6月上旬は雨が多く、建屋への流入量は1日あたり220~245トン(週平均)もありました。
 今後30年で放出を終えるという政府・東電の計画自体が日々発生する汚染水量を減らさなければ破たんします。先も見えない。このままでは廃炉作業のあらゆるところにしわ寄せがくるでしょう。
 廃炉に向けた政府・東電の「中長期ロードマップ」では、策定から10年たっても廃炉まで「30~40年後」は変らず、敷地を更地にするのかどうかさえ明らかにしていません。原子力政策を進めて事故を起こした責任をどう取って、後始末をどうするのか。国や東電には覚悟がないのではないかと言わざるを柳ません。

 -柴崎さんらの研究グループは汚染水の発生量を減らす対策を提案しています。
 政府・東電の問題点は、原発敷地の地質や地下水の実態把握が不十分なまま、甘い見通しで、日々発生する汚染水の量を抜本的に減らすという根本問題に手をつけてこなかったことです。
 私たち(地学団体研究会の有志でつくる福島第一原発地質・地下次問題団体研究グループ=原発団研)は地下水流入を止めるため、10年程度の中期的な対策として、地下水をくみ上げて地下水位を管理するサプドレン(井戸)を増強すること、100年程度を見越した長期的な対策として、凍土壁より広く、長さ3・7キロを囲む広域遮水壁の設置と、地すべり対策で使われてきた集水井を組み合わせるという提案をしています。どれも在来工法で実績があります。重要なことは対象地域だけでなく周辺地域も含めて地質や地下水の実態をしっかり調査することです。
 早く汚染水発生量をゼロに近づけてこそ、廃炉作業が進むと考えています。海洋放出の必要もなくなります。