2022年8月27日土曜日

原発回帰で一体誰が喜ぶのか ロシアに乗じたドサクサ紛れで悪魔の選択

 岸田首相24日、突如としてこれまで否定してきた原発の新増設を検討する方針を示し次世代原発の開発にまで言及しました。2011年の福島第1原発事故以降封印されてきた新増設や建て替えががあっという間に日の目を見たのでした。その理由ロシアによるウクライナ侵攻に伴う電力逼迫危機だというのですが、その脈絡が一向に理解できません。

 原子力ムラの圧力を受けて今がチャンスだと考えたのでしょうが、この原発回帰の逆流されません。ウクライナ戦争でエネルギー価格高騰したことと電力逼迫を理由に原発回帰に走るのはあまりにも安易です。しかも核のゴミの処理は愚か、避難計画の実効性、原発の安全性(特に耐震性)、コスト等々、原発に伴う問題点は何一つ解決していません。
 いまこそ諸外国が進めている再生エネの拡大に努めるべきです、日本では原発再稼働の余地を残すため再生エネへの電力網の開放は一向に進まず、そのために風力発電、太陽光発電は大いに遅れました。再生エネの普及に必要な安価な蓄電設備の開発も諸外国より遅れています。この際全てを「本筋に戻すべき」です。
 日刊ゲンダイの記事を紹介します。
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原発新増設、一体誰が喜ぶのか ロシアに乗じたドサクサ紛れで悪魔の選択
                        日刊ゲンダイ 2022/ 0826
                       (記事集約サイト「阿修羅」より転載)
 これを火事場ドロボーと言わずして、何と言うのか。岸田首相が24日、これまで否定してきた原発の新増設を検討する方針を示したことだ。
 2011年の東日本大震災で起きた東京電力の福島第1原発事故以降、新増設や建て替え(リプレース)は封印されてきた。「原発回帰」への一大転換となるが、その理由は、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う電力逼迫危機だというのだから、ドサクサ紛れにもほどがある
 検討の具体的内容は、「次世代革新炉の開発」「原則40年、最長60年としている運転期間の延長」「審査に合格している7基の追加再稼働」。エネルギーの安定供給に向け、年末に結論が出せるよう、あらゆる選択肢を議論するという。
 岸田が原発政策の大転換を表明したのは、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを議論する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」の場。「再生エネルギーや原子力はGXを進めるうえで不可欠な脱炭素エネルギーだ」と強調していたが、脱炭素を錦の御旗にしていることもうさんくさい
 これまで日本政府は地球温暖化対策に消極的で、2019年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)に出席した小泉進次郎環境相(当時)が、環境NGOから不名誉な「化石賞」に選ばれたことが大きなニュースになった。昨年開かれた「COP26」でも、日本は2回連続の「化石賞」受賞だった。
 それがウクライナ戦争で原油や天然ガスが高騰し、ガソリンや電気料金の値上がりが家計を圧迫すると一転、「脱炭素だ」「原発だ」と騒ぎ出す。今年3月と6月には電力需給逼迫警報が発出され、電力不足に対する国民の不安感は嫌でもあおられた。参院選後の今がチャンスと、岸田が考えただろうことは想像に難くない
「原発ムラの要望を受け、政府はずっと原発推進に転換したいと思い続けてきた。ロシアのウクライナ侵攻で格好の『口実』が生まれたわけです」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)

理念も整合性もない
 24日はロシアによるウクライナ侵攻から半年。岸田は前日の23日、関係閣僚や省庁幹部を官邸に集め、G7との連携による対ロ制裁やウクライナ支援の継続を指示していた。
 当初から、「日本はアジアで一番早くロシアに圧力をかけた」とウクライナのゼレンスキー大統領に感謝されるほど、岸田は経済制裁に前のめりで米国にスリ寄った。だが、日本のロシア非難は“やってるふり”。あっさり白旗を揚げた「サハリン2」が象徴的だ。
 ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」について、ロシア政府が運営の新会社移管を決定。事業に出資している三菱商事と三井物産が保有する権益が失われ、電力やガス供給に重要なLNG(液化天然ガス)が日本に入ってこなくなる懸念があったが、ロシア側が両社に新会社との契約を結ぶよう求め、25日両社は参画を決めた
 日本政府が経済制裁しているロシアとの取引である。民間企業にとってはリスクが高いが、岸田政権は当初から「サハリン2から撤退しない」と言い続け、経産省が萩生田前大臣の時から、両社に継続出資をモーレツにプッシュしてきた。それに応えた形である。
 しかし、ロシアを非難・制裁しながら、一方でロシアに頭を下げてLNGを売ってもらうのは、どう考えても矛盾している。さらには、その一方で戦争によるエネルギー価格高騰と電力逼迫を理由に原発回帰に走るのも、矛盾だ。
「それが岸田首相のスタイル。いろんな話に耳を傾けながら、言われた通りに動く。政策に一貫した理念はなく、整合性にもこだわらない」(五十嵐仁氏=前出)
 姑息な首相である。原発を新増設して、一体だれが喜ぶのか。

先進国の趨勢は再エネ、国家ぐるみの詐欺に騙されるな
 あれほどの原発事故を起こし、福島県だけで最大16万人が避難を余儀なくされた。11年経った今でも3万人が避難生活を続け、いまだ立ち入ることのできない帰還困難区域が存在するのである。
 原発については、安全性から避難計画、コスト、核のゴミ処理まで、何も解決していないではないか。
 原子力規制委員会の安全審査を合格した既存原発7基でさえ再稼働できないのだ。政府は「世界最高水準の規制基準をクリアしている」とアピールするが、ほころびがボロボロ。新潟県の柏崎刈羽原発はテロ対策の不備が発覚し、規制委から事実上の運転禁止命令を受けた。茨城県の東海第2原発は、避難計画の策定が義務付けられている30キロ圏内に94万人もが暮らしているのに、実効性のある避難計画の策定に難航、水戸地裁から運転差し止め判決が出された。
 コストの問題も深刻だ。原発を新設するといっても、安全基準をクリアするには、安全対策工事だけで1基あたり数千億円かかるとされる。いまや発電コストは、事業用の太陽光発電より高いほどだ。
 そして最大の問題は核のゴミ。使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設地は未定。使用済み核燃料の再処理工場もトラブル続きで、1997年の稼働予定が今も延期されたままだ。

 ところが、こうした不都合な事実には頬かむりして、「次世代革新炉なら安全」「欧州でも原発が見直されている」などの都合のいい話ばかりが飛び交う。
 元経産官僚の古賀茂明氏が言う。
「ロシアによるウクライナ侵攻後、メディアの報道では『エネルギー安全保障の観点から原発活用に舵を切る国が出てきた』などとして英仏の例が頻繁に挙げられます。しかし、英は原発よりもはるかに大幅に再生エネルギーを伸ばす計画ですし、仏はピーク時に70%だった原発比率を維持するのは無理だとみられています。独についても『脱原発を見直そうとしている』と報じられますが、今年12月の完全脱原発の期限を、今冬を乗り越えるために数カ月先延ばしにするという話。ウクライナ危機を受けての世界の先進国の趨勢は、間違いなく再エネです。日本では、経産省や電力会社の思惑にメディアが誘導されてしまっているのです。加えて、日本は地震国なので、他国と同列には語れません。原発の耐震設計基準は1000ガル以下が大半ですが、東日本大震災の最大の揺れが2933ガルだったように、2000年以降、1000ガル以上の地震は18回もの頻度で起きています。日本の原発が『安全』とは、とても言えません

「安定供給」「脱炭素」を利用
 地震の怖さだけじゃない。ウクライナ戦争で、むしろ我々が思い知らされたのは、原発が格好の攻撃対象になることだった。ミサイルが原発に1発撃ち込まれれば、核攻撃を受けたのと同様に放射性物質がまき散らされるという恐ろしさ。それを無視して、「電力の安定供給」や「脱炭素」が、原発推進のためのマヤカシのキーワードとして利用されているのである。
「これまで『脱炭素』に見向きもしなかった自民党議員が、『今は世界のために貢献しなければいけない』などと言い出し、原発推進の旗を振っている。でも騙されちゃダメです。処理方法のない核のゴミはどんどん増えるばかりですよ。ロシアへの制裁を継続するなら、ピーク電力だけでなくトータルに節電する必要がある。欧州では省エネ政策がどんどん進み、スペインでは夕方のネオンを消灯しています。また、太陽光や風力は不安定と喧伝されますが、イノベーションが進んで、世界では蓄電池の価格がずいぶん安くなっている。そうした現実を知らされないまま、欧州で原発が見直されているとか、再エネは難しいなどの『嘘』ばかり並べ立てられれば、国民は原発でも仕方ないな、となってしまう。国家ぐるみの壮大な詐欺だと言わざるを得ません」(古賀茂明氏=前出)
 原発は悪魔の選択だ。選択肢は他にもある。