美浜原発3号機の60年までの運転延長に対して住民が、「原発の老朽化で重大事故を起こす危険性が増している」として申し立てた差し止め仮処分申請を認めないとする決定を20日、大阪地裁は下しました。
住民側は、「原子炉容器が中性子の照射で劣化する」ことのほか、「基準値地震動(993ガル)が低すぎる」、「避難計画に実行性が乏しい」などを指摘しましたが、井上直哉裁判長は関電の老朽化対策や国の審査に不合理な点はなく、「安全性に問題があるとは認められない」と判断しました。
この決定に対して原告側の井戸謙一弁護士は、「強引な、不合理な内容の決定を書くことでしか却下できなかった。司法の在り方としては大変残念な決定である」、「どの論点についても『原子力規制委員会がこう言っているからいいんだ』と。そういう形で、われわれの主張を退けた」と批判しました。
「規制委や電力会社のいうことはすべて正しい」という論立ては、福島原発事故が起きるまで司法が一貫して取って来た「ワンパターンの論法」でした。その結果「福島事故」が起きると最高裁はいっときだけその態度を改める姿勢を見せましたが、福井地裁敦賀支部で樋口英明裁判長(当時)によって大飯原発の運転差し止めの判決が出されると、また一転して従来の路線に回帰しました。
では裁判長は一体どのような根拠で60年運転しても安全だということを確信したというのでしょうか。それは本当に「(憲法と)良心にのみ従った」判断だったのでしょうか。「最高裁の路線に従った」では済まされません。
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老朽化対策と国の審査「問題ない」 美浜原発3号機差し止め認めず
毎日新聞 2022/12/20
運転開始から40年を超えて唯一稼働している関西電力美浜原発3号機(福井県美浜町)について、大阪地裁は20日、運転差し止めを認めない仮処分決定を出した。井上直哉裁判長は関電の老朽化対策や国の審査に不合理な点はなく、「安全性に問題があるとは認められない」と判断した。稼働中の「40年超原発」の安全性に対する司法判断は初めて。
【美浜3号機の運転差し止めは認められず】
仮処分は、福井、滋賀、京都3府県の住民9人が原発の老朽化で重大事故を起こす危険性が増しているとして申し立てた。住民側は大阪高裁に即時抗告するかどうか協議する。
決定はまず、関電の老朽化対策を検討した。関電は国の新規制基準に沿って点検や劣化状況の評価を実施していると認定。住民側は「交換できない原子炉容器が中性子の照射で劣化する」などと訴えたが、井上裁判長は「関電の対策は不合理といえず、住民側の主張は根拠に乏しい」と指摘し、国の原子力規制委員会の審査も問題がないとした。
住民側はの耐震設計で想定する最大の揺れ(基準地震動)について、敷地直下の破砕帯(断層)や東約1キロにあたる活断層の影響が正確に反映されていないと主張した。決定は断層の詳細な調査や耐震補強工事など関電の地震対策を挙げたうえで、「3号機の安全性に問題があるとは認められない」として住民側の訴えを退けた。
井上裁判長は周辺自治体が策定している避難計画についても不備は認められないと結論付け、運転差し止めを求めた住民側の申し立てを却下した。
関西電力は「当社の主張を裁判所にご理解いただいた結果だと考えている」とのコメントを出した。
原発の運転期間を巡っては2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故後、「原則40年、最長20年延長」と定めるルールができた。美浜3号機は福島事故後に定期検査で運転を停止していたが、21年6月に40年超原発として再稼働した。
国内では関電高浜原発1、2号機(福井県高浜町)と日本原子力発電の東海第2原発(茨城県東海村)の計3機も運転期間の延長が認められているが、現在は美浜3号機のみが稼働している。【安元久美子】
◇関西電力美浜原発3号機
福井県美浜町に1、2号機とともに立地する加圧水型軽水炉(出力82・6万キロワット)で、1976年12月に営業運転を始めた。2004年には配管の破断で蒸気や熱水が噴出し、作業員5人が死亡、6人が負傷する事故も起きた。東京電力福島第1原発事故後に定期検査で停止。事故後に原発の運転期間は「原則40年、最長で20年延長」とするルールができる中、21年6月、「40年超原発」として国内で初めて再稼働した。新規制基準で義務化されたテロ対策施設の設置工事で再び停止したが、22年8月30日に運転を再開した。1、2号機は廃炉作業中。
40年超え稼働の“老朽原発”の「運転差し止め」認めず 関電・美浜原発3号機 周辺住民らの申し立て“却下”
“実質60年超えた”稼働可能な「政府案」近く決定へ
関西テレビ 2022/12/20
運転開始から40年を超えて稼働している関西電力美浜原子力発電所3号機について、大阪地裁は運転の差し止めを認めない決定を出しました。
【動画で見る】美浜原発 「運転差し止め」認めず 周辺住民らの申し立て“却下”
“実質60年超えた”稼働可能な「政府案」近く決定も
40年を超える“老朽原発”
12月20日、大阪地裁は「原子力規制委員会による審査に問題があるとは認められない」などとして、関西電力美浜原子力発電所3号機の運転停止を求める周辺住民らの申し立てを却下しました。
【原告側 井戸謙一弁護士】
「強引な、不合理な内容の決定を書くことでしか却下できなかった。司法の在り方としては大変残念な決定である」
1976年から運転している美浜原発3号機。東日本大震災による福島第一原発事故の後、原発の運転期間は「原則40年まで」という、新規制基準が定められました。その上で、特別な点検を受け、耐震性など安全が確認されれば、さらに20年延長を認めるとしました。
その後、美浜原発3号機は安全対策工事を行い、40年を超える“老朽原発”として、去年6月、国内で初めて再稼働しました。
原発再稼働を受け、福井県の住民ら9人が「美浜原発は活断層に近く耐震性に大きな不安がある」「老朽化した原発では事故発生のリスクが高まる」などとして、関西電力に対し運転の差し止めを求める訴えを起こしていました。
これに対し関西電力は、「新規制基準に適合していて安全性を確保している」と反論していました。
12月20日、大阪地裁が出した判断は「運転差し止め」を認めないという決定でした。
決定文では地震が起きた際の安全性について「耐震補強工事を実施していて、不確かさを保守的に考慮して耐震安全性を評価している」などとし、問題はないと認定しました。
また、美浜原発3号機の老朽化については「新規制基準に沿った対応を行って運転期間延長の認可処分を受けている」と指摘。その上で、「新規制基準が定める高経年化対策以上に安全性を厳格、慎重に判断しなければならないとする事情は認められない」として、住民側の申し立てを退けました。
【原告側 井戸謙一 弁護士】
「どの論点についても『原子力規制委員会がこう言っているからいいんだ』と。そういう形で、われわれの主張を退けた」
一方、国は原子力発電所の運転期間を、実質60年以上に延長することなどを盛り込んだ計画案を今週中にも決定する予定で、政府のエネルギー政策の行方にも注目が集まっています。
今後は“60年超え”稼働の可能性も…
運転開始から40年を超えて稼働している美浜原発3号機。老朽化による事故のリスクも争点の一つでした。
政府は、原発の運転期間を原則40年に制限しています。その上で国の認可があれば、20年の延長を認めていて、最長を60年と定めています。
しかし現在、『「新規制基準」への対応や審査で運転を停止していた期間などはカウントしない』とする案が検討されていて、これが成立すれば、60年を超えた稼働が可能になります。
関西テレビの神崎デスクは、欧米ではもっと長く稼働する原発もあると言います。
【関西テレビ 神崎デスク】
「海外の事例でいうと、歴史も数も日本の上をいっているアメリカでも原則は40年ですが、すでに90基以上が60年の認可を受けています。日本では最長60年ですが、アメリカは20年ごとに延長できるので、80年の認可を取得したものも6基あります。またヨーロッパは10年ごとにチェックして、クリアすれば際限なく延長できます。ただ、日本は地震が多いため、欧米と同じ基準でやっていいのかは考える必要があります」
関西テレビ「報道ランナー」2022年12月20日放送)