2022年12月11日日曜日

日本の原発運転期間延長は世界から見ても異常 原則40年の科学的根拠は

 TBSが原発の運転期間延長の問題について特集記事を出しました。
 経産省はいま、原発のライフ「原則40年 最長60年」をさらに延長させようと画策していますが、それは世界の人に異常なことに映っています。
 原発の心臓である圧力容器(原子炉)のライフについては、電力会社は当初「30年耐用」で計画したもののメーカーは40年耐用で製作したというので、40年耐用と見做したという経緯があります。
 これはメーカーがわざわざ要求以上の仕様のものを作る筈がないので。多分ライフという未知の分野に関しては10年くらい余裕を見た方が安全だと考えたからと思われます。その程度のことなので40年運転しても安全といえるものでもありません。
 ライフを延長させたい側は圧力容器が40年以上使えないという根拠はないといいますが、それは逆で、40年以上使用できるという根拠を示す責任は延長させようとする側にあります。
 何よりも原子炉の強度で重要な指標といわれている「脆性遷移温度」について、まず現状と10年後及び20年後について明確に示せるのでしょうか。当初設置したテストピースはもう使い切っているので現状の温度も不明の筈で、まして10年後、20年後の推移予測など示しようがありません。
 それなのにどうして運転の延長が可能と判断出来るというのでしょうか。あるいは運転中に原子炉が破裂した場合でも放射能が外部に漏れない安全対策が出来ているというのでしょうか。そんなことは不可能であって、致命的な事故が起きてからではどうしようもありません。
 TBSの記事を紹介します。
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【報道特集】
原発の運転期間を延長へ 政策の大転換に現役官僚「世界から見ても異常な事態」 現行の“原則40年”の科学的根拠は
                     TBS NEWSJNN) 2022/12/10
政府は今、福島第一原発の事故後に制限をかけた原発の運転期間を延ばすという大きな政策転換をしようとしています。この突然にも見える転換に危機感を抱く、霞が関の現役官僚がその裏側を語りました。
 
■「盗人猛々しい、どさくさに紛れて」“原発運転期間の延長”に異議
佐藤弥右衛門さん(71)。福島県・喜多方市で200年以上続く酒蔵「大和川酒造店」の9代目だ。現在、約20種類の酒を造っているが、福島第一原発の事故の風評被害で注文が全く来なかった時期もあった。
「二度と酒が造れないかもしれない」そんな恐怖を抱いたという。
佐藤弥右衛門さん「その地域の全部が終わるわけ。居れなくなるんだから。今まで長い歴史を繋いできたその地域が、もうそこに居れませんと」
「原発は必要ない」そう考えるようになった佐藤さん。この日、我々を案内してくれたのは…
佐藤さん「ここが雄国太陽光発電所。会津電力で一番最初につくった発電所です。これが1000kWです、メガ発電
約3700枚のソーラーパネルが設置された太陽光発電所。佐藤さんは、9年前の2013年に再生可能エネルギーに取り組む電力会社「会津電力」を立ち上げた。
佐藤さん「自分たちで資源を活用して、自分たちでこういう発電所を小規模分散型でやればいいわけです。全部ここで作る。会津の豊かさってつくづくね、自分でこのエネルギーの会社を作ってやってみて思うわけです」

現在、県内の約140か所で発電(グループ会社含め)を行い、4000世帯分の電力を供給している。
国は原発事故の後、「可能な限り原発依存度を低減する」として再エネを主力化する方針を示してきた。しかし、加速度的に進んでいるとは言い難い。
佐藤さん早く取り組んで、早く(原発を)廃炉にして、新しいエネルギーを作っていく方向へいかなかったら、次の世代に申し訳が立たないと思わないのかな。安全安心なエネルギーがこうやってできるのに、何でそこに政府はお金を出したり、もっと技術を支援したり、なんでしないのかね」

原発事故による苦しみを二度と繰り返さないように、再エネの事業まで立ち上げた佐藤さん。今どうしても許せないことがある。国が、老朽化した原発の運転期間を延長できるよう政策を転換しようとしていることだ
佐藤さん盗人猛々しい。土壇場でエネルギー価格が高騰したから原発を回したいっていう理由。どさくさに紛れて、空き巣狙いみたいなもんじゃないの。電源の必要なところに原発を作ったらどうですか、すぐそばに。安全安心で、東京都のど真ん中に。国会議事堂の前に原発をどうぞ作りなさいって私言いますよ」

政府が原発政策の転換を表明したのは、2022年8月のことだった。
岸田総理(GX実行会議 8月)「安全性の確保を大前提とした運転期間の延長など、既設原発の最大限の活用。与党や専門家の意見も踏まえ、検討を加速してください」

福島第一原発の事故後、原発の運転期間は「原則40年、最大60年」に制限されてきた。10年たった今、政府はそれを見直そうというのだ。審査などで停止した期間分を延長する方向で、10年停止していれば最長70年の運転が可能になる。
 
■政府が原発政策を転換 現役官僚が語る「世界から見ても異常な事態」
国の原子力政策にかかわり、この突然とも見える政府方針の転換に大きな疑問を抱く霞が関の現役官僚が、報道特集の取材に応じた。
現役官僚・佐々木健一氏(仮名)事故を起こした日本自身がですね、もう原子力推進に舵を切ることはやはり非常に世界から見ても異常な事態が今起ころうとしてるんじゃないかな」

背景には、ウクライナ危機に端を発した電力需給のひっ迫があると言われる。電気代の値上げも続き、12月1日には節電も呼びかけられた。政府は運転期間延長の方針を今月末に取りまとめるという。
ある政府関係者はこう説明する。
政府関係者「単なるエネルギー問題ではないんですよ。安全保障に直結したエネルギー問題なんです。ロシアの天然ガスが止められ、台湾侵攻なんて起きたら、もう本当に大変なことになりますよ」

それでも佐々木氏は、これだけの政策転換のためにはもっと国民的議論を尽くすべきだと指摘する。
現役官僚・佐々木「ここぞとばかりにウクライナ危機に乗じて一気に進めている。今でも福島でもたくさんの方が避難して生活されている。原子力のことを心配だ不安だと思っている国民の方がたくさんいらっしゃる。そういう中でとにかく我々は民主主義の国ですから徹底的に議論して、議論したうえで結論を出すということがとても大事
原発事故から1年後の2012年6月、当時官邸前で行われた反原発デモ。若者から高齢の世代まで大勢の人が声をあげた。ピーク時の参加者は20万人とも言われる。
しかし…
11月のデモの参加者は、わずか125人だった。
現役官僚・佐々木世の中の注目が集まってない中で、こっそり方向を変えてしまおうというのが今の状況
 
■非公開のGX実行会議 メンバーからも異論の声
原発政策の転換は、脱炭素社会に向けた「GX」=グリーントランスフォーメーション実行会議で議論されている。
現役官僚・佐々木「大体、政府が横文字を使うときはイメージをフワッとした形で何を議論しているか注目が深まらないうちに結論を出してしまおうということを狙いとしている」
この会議は非公開だ。そして、総理の指示から4か月で結論が出ようとしている。これにはGX実行会議のメンバーからも異論の声があがる。
GX実行会議メンバー経済界の利益を代弁する人が多く、原発ありきで議論が進んでいる。非公開の議論もおかしいし、国民に対する説明不足。ちゃんと向き合うべきで、こそこそやるべきではない

年内に「運転期間延長」の政府方針が決まれば、議論は国会へと移る。国会でどう法改正を行うのか、政府内ではある手法が検討されている。
これは、番組が入手した政府内で作られた内部文書だ。
内部資料
「来年の常会に提出予定のエネ関連の『束ね法』により」
「束ね法」と記されている。これは、複数の法案を1つに束ね、国会で審議することを言う。元総務大臣の片山善博氏は、その狙いをこう説明する。
元総務大臣 片山善博「そそくさと法律改正案を通してしまいたいとき、非常に便利な仕組み。別々に審議すべきものが束ねられているとすると、それはやっぱり姑息だと思いますね。国家100年の計のような、本当に将来にわたって重要な意味を持つ法案、これは本当に徹底的に審議しなきゃいけない」

拙速な議論になっていないのだろうか。西村GX担当大臣に聞いた。
西村康稔GX担当大臣(11月29日)「様々な観点からご議論をいただいてきたものと考えております。今後も例えばパブリックコメントを求めるなど、引き続き国民の皆様のいろんなご意見を聞きながら、ご理解をいただきながら進めていきたい」
 年末までに決める必要ってありますか?一部ではウクライナ危機に乗じてという指摘もあるが?
西村康稔GX担当大臣「エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現、これはもう待ったなし。早く方向性を出さなきゃいけない課題
 
■原子力規制庁のトップ3が元経産官僚に 規制委の独立性は?
原発の安全審査を担うのが、「原子力規制委員会」だ。
福島原発の事故の際、規制部門が原発を推進する立場である経済産業省に置かれていたことが問題になり、2012年、環境省の外局に独立性の高い委員会として設置された。
だが、2022年7月、規制委員会の事務局を担う原子力規制庁のトップ3人が、発足から初めて全員、経済産業省の出身者となった。
現役官僚の佐々木氏は…
現役官僚・佐々木「今の経済産業省と原子力規制庁はまさに車の両輪、一心同体。私は原子力規制庁でも仕事をしたことがありますが、原子力規制庁というのは『原子力の規制をしているフリ庁』じゃないかと」
政府は、原発の運転期間を経産省所管の法律に移すことを検討している。これで運転期間に関する権限を、原発を推進する立場の経産省が持つことになる。規制委員会は、安全審査を担う。
現役官僚・佐々木「原子力規制委員会がこの老朽化した原発は、経済産業省が認めた通りに運転させるのは難しいと思った場合でも、非常に大きなプレッシャーを感じながら決断(審査)をしなければならない

原子力規制委員会の独立性は保たれているのか。9月に新たに委員長となった元大阪大学副学長の山中伸介氏が番組の取材に応じた。
 規制庁のトップ3が元経産官僚で占められているっていうこと自体、すごく国民に疑念が持たれると思うが?
原子力規制委員会 山中伸介 委員長「委員長になったときに既に人事は決まっておりましたので、適材適所だろうと思います。それぞれ優秀な方なので。たまたま経済産業省のご出身だったということだろうと思います」

規制委員会は、運転期間の延長を見据え30年を超えた原発は最長10年ごとに審査し、認可するという新しい案を公表した。以前よりも厳しい規制だという。
原子力規制委員会 山中伸介 委員長政策(運転期間)に対しては何も意見は申さない。政策側から何か言われても安全規制は変化をさせないことが独立性ですので。今、準備しているルールですと、30年から10年ごとに審査をしていくという、その中できちっと安全規制を行っていくということについては変わりはございません」
 
■運転期間“原則40年・最長60年” その科学的根拠は?
そもそも「原則40年、最長60年」という現在の運転期間はどう決まったのか。この法律は2012年、民主党政権時代に与野党合意により成立した。
細野豪志 原発担当大臣(2012年6月5日 当時「40年というところに運転制限を設けたというのは極めて大きな意味がある。40年以上というのは極めて例外的」
「40年には科学的な根拠がある」と細野氏は説明した。
細野豪志 原発担当大臣(2012年6月5日 当時)「いわゆる圧力容器の中性子の照射による脆化。そのデータの中で一定の懸念が生じてくるのが、40年あたりに一つの線があるのではないか」

圧力容器とは核燃料が入った最も重要な機器のこと。運転中に燃料から出る中性子を大量に浴び続けると脆くなっていくというのだ。
これは1977年に撮影された建設中の東海第二原発。黄色い部分は圧力容器を覆う蓋だ。圧力容器の高さは約23メートル、重さは約700トン
この東海第二原発についての古い資料が残っていた。圧力容器の設計に関する部分に、ずっと運転させたという想定でこう記されている。
「寿命末期つまり40年後」
圧力容器は、当時40年を念頭に設計されていた。さらに、福島第一原発3号機(※廃炉決定)の資料には…
東京電力当社は発電所の耐用年数を30年として指示したが、メーカーは(略)主要機器の設計耐用年数を40年としている

東京電力は当時、耐用年数を30年と指示していた。
2012年にこの原発関連の法案審議に深く関わった近藤昭一議員(元衆院・環境委員会筆頭理事)に話を聞いた。
立憲民主党 近藤昭一 衆議院議員「与野党協議の中で、特に我々が協議をする中で入れ込んだ文章があって、それは原子力事故を常に想定すると、安全だというものは原子力についてはないんだと。安全神話に囚われてはいけない、そのことをしっかりやっていくんだと。40年ということが何の根拠もないものであってはならないわけです」

初代の原子力規制委員会の委員長となった田中俊一氏は当時、こう所信を述べていた。
原子力規制員会 田中俊一 委員長(当時)(2012年8月1日)「40年運転制限制は古い原子力発電所の安全性を確保するために必要な制度。法律の趣旨を考えても、40年を超えた原発は厳格にチェックし、要件を満たさなければ運転させないという姿勢で臨むべき」

だが、それから10年余りが経過したいま、経産省の審議会の資料には40年の運転期間について「明確な科学的な根拠はない」と記されている。
今後の審査はどうなるのか、山中委員長は…
原子力規制員会 山中伸介 委員長「基準を満たさない原子力発電所が出てきた場合には、もちろん認めない。これまでも延長認可制度については、そういう審査をしてきたつもりですし、これからもそれは変わらない」