2022年12月16日金曜日

中間指針/継続的見直し視野に入れよ(福島民友新聞)

 原子力賠償紛争審査会(原陪審)は9年ぶりに中間指針見直しの素案をまとめ、20日の会合で増額の目安となる金額を盛り込み正式決定する見通しです。弁護団から「指針は実情に合わない」と指摘されていたにもかかわらずずっと不作為を決め込んできたのは責められるべきことです。
 福島民友は社説で「指針が中間と銘打っている以上、現状に食い違いがあれば再度の見直しをためらうべきではない」と述べています。
 東電がこの不十分な指針を盾にして不十分な賠償しかしなかった訳で、その被害者が無数にいることを思えば 原陪審はせめて今後はそうしたことに精を出すべきです。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【社説】中間指針/継続的見直し視野に入れよ
                        福島民友 2022年12月16日
 東京電力福島第1原発事故の賠償基準となる中間指針について、文部科学省の原子力賠償紛争審査会が見直し素案を示した。20日の会合で増額の目安となる金額を盛り込み、「5次追補」として正式決定する見通しだ。
 素案によると、避難指示区域などについては過酷な避難状況や、生活基盤が変わってしまったことによる精神的損害などを新たに認めて賠償額を加算する。
 指針が前回見直された2013年以降、住民訴訟で指針を上回る賠償を認めた判決が続き、指針が損害に見合っていないとの指摘があった。確定判決などを受けて新たな損害を盛り込むのは、被害実態と指針との開きの修正を図るもので率直に評価できる
 原賠審は見直し作業の一環として被災者の聞き取りを行った。その結果として、指針が示す損害額の目安が「賠償の上限」ではなく、原発事故と因果関係があると認められる損害は「全て対象になる」との見解を素案に盛り込み、東電に柔軟な対応と、被害者の心情に配慮した対応を求めている
 これまでの訴訟や、住民と東電の間の和解を仲介する裁判外紛争解決手続き(ADR)では、賠償額が指針を上回ることを理由に、東電が和解案を拒否するなどしてきた。素案の文言は、東電のこうした恣意(しい)的な指針の持ち出し方に釘(くぎ)を刺すものだ。東電が指針を賠償額減額の材料としないことで、訴訟などでもより実態に沿った賠償が行われるよう期待したい。
 素案では、避難区域などについて賠償を手厚くした一方で、避難の有無にかかわらず一定の賠償が受けられる県内23市町村については、子どもや妊婦以外の精神的賠償を認める期間を「事故当初」から「2011年末まで」と延長するにとどまった。白河など県南の一部市町村や会津が新たに対象に組み入れられることはなかった。
 こうした格差、分断を緩和する、あるいはどう理解を得られるようにしていくのかは今後の課題だ。
 大阪公立大の除本理史(よけもとまさふみ)教授(環境政策論)は「今回の追補で終わりにするのではなく、今後の裁判などを注視し、継続的に見直しを行っていくことが重要」と話す。
 今回の追補は13年の前回から9年ぶりの見直しとなる。素案には今後の見直しについての言及がなかった。しかし、指針が「中間」と銘打っている以上、現状に食い違いがあれば再度の見直しをためらうべきではない。原賠審には継続して裁判などの動向を検証し、見直しの必要性を見極める姿勢が求められる。