今年8月、岸田首相が俄かに原発の再稼働や新設(⇒建て替え)を言い出し、21日には原発のライフを60年超に出来ることも含めてそれらの方針を正式に決定しました。
これは福島原発事故を機に原発を縮小方向に向かわせようとしてきた方針を大変換するもので、毎日新聞は「原発活用の政府決定 議論なき大転換許されぬ」とする社説を、東京新聞は「原発政策大転換 60年超運転、建て替え推進の基本方針を決定 議論わずか5カ月 事故の教訓から目を背け」とする社説を出しました。政府の強引さは目に余ります。
毎日新聞が社説で「推進派の専門家が主導し、結論ありきで議論が進められた」と指摘しているのは、元経産省事務次官の嶋田隆氏のことで、現在は主席総理秘書官におさまっています。世界最大級の事故を起こした日本が、今また平然と原発推進国家に回帰するのはどう考えても許されることではなく、それがたった一人の主導で行われているとなればなおさらです。
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(社説) 原発活用の政府決定 議論なき大転換許されぬ
毎日新聞 2022/12/23
東京電力福島第1原発の事故以来、歴代政権が掲げてきた「脱原発依存」の旗を降ろす大転換である。将来世代に影響を及ぼす重大な決定が、幅広い議論なしに下された。看過できない。
岸田文雄政権が原子力政策の見直しを決めた。既存原発の長期活用と、建て替えの推進が柱だ。
「運転期間は原則40年、最長60年」というルールを事実上空文化させ、より長期の運転を可能にする。廃炉が決まった原子炉は、安全性を高めた「次世代革新炉」に置き換えるという。
だが、年数を経た原子炉の安全性確保には懸念が残り、革新炉は新規制基準に適合した設計とはいえ実績に乏しい。「古くても大丈夫」と言わんばかりに使い続けながら、革新炉の安全性を強調するのは矛盾している。
たまり続ける一方の「核のごみ」も、解決のめどが立たない。
政府は核燃料サイクルの推進や、高レベル放射性廃棄物の最終処分の実施を掲げる。だが、数十年間試行錯誤して実現していない。空手形を切るのは無責任だ。
さらに問題なのは、経済産業省と推進派の専門家が主導し、結論ありきで議論が進められたことだ。8月下旬の首相指示から、わずか4カ月で決定された。
ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー調達への不安が強まり、欧州に原発回帰の動きが広がったことは事実である。
ただ、日本は地震リスクが高い。延命や建て替えも目前の危機には無力だ。それでも原発回帰を叫ぶのは、危機に便乗する手法だ。
2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする国際公約実現に向け、あらゆる政策を動員する必要がある。
しかし、原発依存が最適解と言えるのか。安全性への懸念に加え、発電コストの面でも再生可能エネルギーが優位との指摘がある。原発は建設から稼働、廃炉完了まで100年がかりの事業だ。巨大な負の遺産となりかねない。
福島の事故で、国民の価値観は大きく変わった。原発のリスクを地方に押しつけてきた構図を反省し、節電の取り組みも進んだ。
そうした変化を軽視して原発活用にかじを切っても、国民の理解は得られない。再考すべきだ。
(社説) 原発政策大転換 60年超運転、建て替え推進の基本方針を決定 議論わずか5カ月 事故の教訓から目を背け
東京新聞 2022年12月22日
政府は22日、原発の60年超運転や次世代型原発への建て替え(リプレース)を柱とする脱炭素社会の実現に向けた基本方針を決めた。2011年の東京電力福島第一原発事故後、政府が「想定していない」としてきた原発建設といった積極活用策を盛り込む内容で、原子力政策の大転換となる。
◆今後パブリックコメント 来年法改正の見通し
基本方針では、現行規定で「原則40年、最長60年」とされた原発の運転期間について、再稼働のための審査や司法判断などによる停止期間を運転年数から除外し、60年超の運転を可能にする。
建て替えは、廃炉が決まった原発を対象とし、立地自治体の理解を前提に次世代型原発を建設する。建設費は1兆円超かかるとされ、資金支援策の検討も盛り込んだ。
30年度の電源構成に占める原発の比率は、エネルギー基本計画と同じ20〜22%を目標に設定し、再稼働に向けて国も地元の理解確保に取り組むとした。
基本方針は、22日の脱炭素社会の実現に向けた産業転換などを議論する「グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議」で決定した。原発活用のほかに、再生可能エネルギーの活用に向けて送電網の整備を進めることや、企業の脱炭素投資を後押しする仕組みも盛り込んだ。
岸田文雄首相が7月末のGX実行会議で、原発活用などに向けた政治決断が必要な項目を示すよう指示して以降、5カ月足らずでの結論となった。
政府は基本方針について意見公募(パブリックコメント)をした上で閣議決定し、来年の通常国会に関係する改正法案を提出する見通しだ。
◆解説 政府は福島第一原発事故の反省に立ち返れ
岸田政権が決定した原発積極活用の基本方針は、東京電力福島第一原発事故の反省と教訓をなきものにした。事故から11年9カ月がたった今も人が住めない地域が残り、少なくとも2万人以上が福島県外での避難生活を余儀なくされている。その現実を重く受け止めているなら、原発回帰にかじを切る決断ができるはずがない。
福島原発事故の翌年、当時の民主党政権は「2030年代の原発稼働ゼロ」を掲げた。リスクの高い老朽原発の稼働を抑えるため、原発の運転期間を「原則40年、最長60年」と法律で定めた。野党だった自民党もこれに賛成した。
政権交代後の自民党は原発を重視したが、「原発依存度を低減する」「新増設、建て替えは想定していない」との方針を維持してきた。
被災者の集団訴訟で最高裁は今年6月、福島事故に対する国の賠償責任を否定。翌月の参院選では、自民党公約から「原発依存度を低減」の言葉が消えた。
脱炭素社会の必要性やエネルギー事情の変化についても議論は必要だが、ひとたび事故が起きれば多くの国民の命や生活を脅かす原発を正当化する理由にはならない。福島事故はなぜ起きたのか。政府はその原点に立ち返るべきだ。(小野沢健太)